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歪笑はお手のもの

2012年01月27日 | 読書
 行きつけは小さな書店なので,お目当てにしていた北村薫の文庫本があまり揃っていなかった。そのまま目を落とした先に平積みされていたのが,この本。

 『歪笑小説』(東野圭吾 集英社文庫)

 「歪笑」という言葉に興味津々,気軽に一冊とってお風呂場読書を始めたが,いやいや面白い,面白い。
 世の中には様々な業界が存在する。そして業界人しか知らない業界の真実,空気などは色濃くあるだろう。
 そのことを頭でわかっていても,なかなかそうした内幕を楽しく読んだり,聞いたりすることはめったにないものだ。

 ここに描かれてあるのはフィクションだが,きっとどこかにあった真実だ。
 超がつくほど有名な作家が,ここまで内情を暴露していいものかと思わされる。

 いずれも楽しく読めたが,「小説誌」と題された章で,中学生からの鋭い突っ込みに,編集者が思わず業界の真実の重さ,辛さを語り始める箇所が印象に残る。ちょっと他の章と異色の感じもうけた。
 それはきっと多くの職業,業界についても言えるからかな…そう思いながら,結局その職業についている大人たちは,どこかで居直っていないと,現実に耐えきれないものであることを改めて考える。

 居直りを支える芯のようなものを数え上げてみよう。
 そこにわが身以外の要素をいかに自信を持って挙げられるだろうか。
 
 「できるもんならやってみろってんだああ」と叫ぶ編集者にも,実はそこを振り返ってほしかった。
 いや,振り返りなしに,内輪で称え合っている点が笑える,この小説の持ち味か…。

 人のふり見て我がふり直せ(独り言)


 それにしても,いいキャラクターが出てくる連作だ。
 作家引退宣言をする寒川心五郎などは,いかにもありそうでなさそうなキャラだ。
 小説に登場した作家を,「巻末広告」という形で載せているのもグッドアイデアで,思わず広告文まで目を通してしまう。
 最後に,寒川の『筆の道』が「直本賞候補」になっていることには顔が和んだ。

 「寒川先生も喜んだろうなあ。その後,どうすんだろう」とそちらの世界へと思わず誘われてしまった。
 いやあ,売れっ子だけれども?さすがの作家だなあと思わされた。