すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

目に見えるものに騙されるな

2016年12月25日 | 読書
 『絶叫委員会』(穂村弘 筑摩書房)


 筑摩書房のPR誌「ちくま」での連載。ほとんど目を通していた内容だったが、この歌人の文章は肌が合うとでもいえばいいのか、しっくり馴染むので繰り返し読んでも楽しい。言語に対する批評眼も見事だと思う。例えば通販でありがちな「満足できない場合は全額返金保証」をこう斬った。「サービスの顔をした恫喝」。


 つまり、満足という個人の主観に対しての「強気」は、「商品に対する自信」というレベルとかけ離れている。多くの人はそんなに簡単にハマらないだろうが、もし踏み入れたらその後は恫喝(そんなふうに自らを追いこむ心理も含めて)かもしれないなあと、想像できる。コピーを考えた側は思いもしないだろうけど。


 同様であるが『「ありがとう」たち』と題した文章も深く頷いた。商業施設のトイレによくある「いつもきれいにご利用いただきありがとうございます」最初にこの文言を見た時の違和感も覚えている。注意書きとして行動を促す言葉ならいいだろう。しかし、感謝の言葉を前面に押し付ける顔つきは、想像したら怖い。



 胸を衝かれた話。昔の悪役レスラーF・ブラッシーは銀髪の吸血鬼という異名を持つ。生の試合を観戦してショックを受けた実の母親は彼に「リング上の怖ろしいお前と、私の知っている優しいお前と、どっちが本当なの」と尋ねた。ブラッシーはこう答えた。「どちらも本当の私ではない」…真実は目には見えない。