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中途覚醒の楽観的な支え

2020年06月16日 | 読書
 最近、また目覚めが早くなった。いやいわゆる中途覚醒というやつで、しばらく経つとまた眠気がおそってくる。従って朝4時台の読書本が必要だ。これには小説がいい。先週は伊坂本。連作短編はもってこいで、20~30分かからず一篇読むと目を閉じることにする。しばらく思いを巡らして、うつらうつらとなって。

 『アイネクライネナハトムジーム』(伊坂幸太郎 幻冬舎)



 この一風かわった題名は、モーツアルトの曲にもあるそうだが「「アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)」という意味を持つ。この一冊は、ここ数年の作品の中では最も読みやすかった。また、確かに伊坂テイストはあるのだが、いつもと違う感覚もあった。それは、あとがきを読んで得心した。

 「僕の書く話としては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定、そういったものがほとんど出てこない本になりました」


 キャラは立つが、さほどではない。いわゆる平凡な人物たちの恋愛が、手練れ作家の考えた会話等によって楽しませてくれる展開に仕上げられていた。特に、人がクレームなどで窮地に陥ったときに使われる台詞(ネタバレなので×)が、この連作のポイントとなっていて、実に人間心理を突くように上手く使われている。


 ファンには通説かもしれないが、何故伊坂は直木賞を取ってないのかとふと思った。検索すると十数年前あの傑作『ゴールデンスランバー』の時に候補辞退をしていて、そこから上がっていない。それ以前の平成10年代に次々に発表された小説は続けて取り上げられていたのに…。個人的にはそれらの作品が好きだ。


 伊坂が描きたい「悲観的な中で楽観的な話をしたい」心持ちが、より伝わってくるからだ。社会であれ個人であれ、悲観・楽観(的な出来事)は絶えず繰り返し押し寄せる。最終的にどう進むかの決断は自分にあり、その支えとなる言葉を作家は紡ぎたいはずだ。例えばこの本では「正義は勝つ」と、ストレートだ。