すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

自分の丘から見える景色は

2020年06月19日 | 読書
 「人気児童文学作家 くすのきしげのりがはじめて紡ぐ 大人のための短編集」

 本の帯文はそう記されていた。

 『海の見える丘』(くすのきしげのり  星の輪会)



 実は初め、何気なく同名の絵本版を買った。それは上の本に収められている5編のうちの1篇が取り上げられて、絵本として発刊されたものだった。うっかりを寂しく笑ってから、じゃあと勢いで注文し、届いた本を改めてめくる。絵は一つもない。しかし、余白を十分に取る形で作品世界へ誘う体裁になっていた。


 その「空間を生かす」意味を、「各物語の世界は、読者の皆様一人一人の想像する力によってのみ、それぞれの心の中に広がるのです」と優しい言葉遣いを見せながら、ひどく厳しい一言であとがきに記していた。読み手に対して能力や経験、そして価値観まで問うている。そしてそれはまた著者自身にも向けられる。


 「まず、自らの人生を俯瞰することができる」層を対象にしたいと考えたこの一冊。個人的には冒頭の表題作「海の見える丘」、そして四篇目の「のら猫のかみさま」が気にいった。作者が記すところに依れば「幸せは自分が決める」と「優しさはうけつがれていく」がテーマといって良かろう。自分に迷いがある箇所か。


 一昨年本町にいらした際に、実際に中学生相手の著者の講演を聴いたことがある。素晴らしいの一言だった。自分には作家の話をどこか斜めに構えて聞く傾向があるが、それを覆してくれた。小学校教員経験もあるからだろうか、相手意識・目的意識・伝達意識が実に明快で感心させられた。このブログにも記してある。

 2018.11.1「現場愛にあふれる姿」


 表題作「海の見える丘」に込められた作者の願いを私的に解釈すると「あなたは、自分の丘を持っていますか」どんな景色を見ようとしていますか」と表現できる気がする。それは目的を時々確かめないと道を見失ってしまうよ、と諭されているような感覚だ。本を閉じ、来し方行く末を瞑想する時間を大事にしたい。