すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ここまでやれば痛快だ

2020年07月16日 | 読書
 この図書は、先月著者から県内の小学校に配布された。新書のコーナーで「バッタを倒しにアフリカへ」という書名を見かけた記憶はあった。それが児童書という形で出版されるのは、めったにないだろう。その内容も実にユニーク。400ページ近いのでとても読み聞かせはできないが、ぜひにも紹介したいと思った。

『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎 光文社)



 著者は本県出身の昆虫学者である。小さい頃に見たバッタの映像とファーブル昆虫記に強く影響を受け、その道を志し、夢見たアフリカでのバッタ退治に強く情熱を傾けることになる。自然環境だけではなく社会環境そして人的環境の大きく異なるなかでの著者の奮闘ぶりが、面白おかしく、かつ痛快に描かれている。


 一言でその生き方を言うには難しいが、彼が出版関連イベントで見かけたカリスマ書店員の姿を評した一節が、そっくりそのまま当てはまると感じた。曰く「本気の人間は実にすがすがしくてカッコいい」。もちろん、舞台は半分以上がモーリタニアというアフリカの地であり、カッコつけていられない出来事ばかりだ。


 バッタの大群の映像などをTVドキュメンタリーで見たりする。そしてその実際を想像したとしても、現実の何億分の一程度の驚きでしかないのは明らかだ。その核になる衝動への強い憧れが、様々な「障害」を乗り越えさせたのだなと感心する。本に出てくるエピソードは、地球の広さの証明がいくつも詰まっている。


 児童書向けの再編集のためルビは当然だが、脚注風の「私なりのプチ辞典」を入れてあり実に面白い。辞書的に意味を付記するだけでなく、ユーモアいっぱいだ。今開いたページには「見解」をこう説明する。「考え方のことなんだけど、ここでは真面目モードで説明しているため、よりかしこまった表現をチョイスした


 著者は研究過程で京都大学「白眉」プロジェクトの一員として採用される。文字通りの称号だなと感じる。この本にある結びの願いも清々しい。「読者となるヤングマンにとって、本書が1人で読み切った初めての大人の本になれば嬉しい。この本を大人の階段を駆け上る少年・少女、それを見守る大人たちに捧げたい。