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考える時間を減らすために考える

2020年07月20日 | 読書
 夜中に目がふと覚めて何か考え始めると、なかなか眠りに戻れない。考えと呼べるほどのものでないモヤモヤが続くという感じか。この新書での「考え続ける」と一番かけ離れている時間だと思う。ところがこの書名を使いつつ、著者はあとがきでこうひっくり返す。「私は『考えることに価値はない』と考えています。

 『考え続ける力』(石川善樹 ちくま新書)

 数年前からずっと注目している研究者だ。直截な物言いが心地よい。上に挙げた点に関しても、何故考えることに価値がないかを「実行して初めて価値が生まれる」→「限られた時間で価値を出す」→「考える時間をできるだけ減らし、実行に時間を使う」という端的な論理で展開する。この絞り込み方は明快である。


 著者はそのために五人の賢人たちと対談し、「考える」についてのエッセンスを引き出している。浅学ゆえにわずかに一人しかその名前は知らなかったが、企業系研究者・開発者が多い。中でも著者が「デカルト・ベーコン・濱口」と公言する濱口秀司氏との対談は興味深い。「不確実性のレベル」には目を見開かされた。


 先行き不透明な時代と言いつつ、全部ひっくるめて考えるようでは、およそ「実行」の効力はしれている。ロジックとアイデアを対にすることも考えさせられた。濱口氏のいう「これから先に持つべき力」は実にわかりやすい。「おもしろがる力・おもしろがらせる力・おもしろくする力」の三つだ。万歳と言いたくなる。


 対談は専門用語が頻発し難解な部分もある。しかし著者の書いた第一章だけでもえらく刺激的だ。中でも「日本人で最もThink Differentな人は?」の項目は目を惹かれる。トップは松尾芭蕉。ネット上で最も多くの国に翻訳され、ページを見られている。そしてあの「古池や」の俳句の分析たるや、あまりに面白い!(ので、つづく)