和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

認知していない。

2011-10-28 | 短文紹介
麻生幾著「前へ!」(新潮社)には、最後に
「もし事実関係に間違いがありましたら、それはすべて私の責任です」(p295)とあります。私が始めて知った第二章。東北地方整備局の活躍の一部始終。
もちろん一冊ぜんぶが読み甲斐があります。
どういう読み甲斐かといえば、
津波には寄せる波と引き波とがあり、
私たちの記憶も、喉元すぎればなんとやらで、
時間の経過という引き波に、漠然とした記憶は、ス―ッと消えてゆくのだなあと、この「前へ!」を読みながら、その経過をたどりながら、あらためて想い返されるのでした。

とりあえず、第三章からの引用。
そこに「内閣危機管理センター」が語られる箇所があるのでした。
そこからの引用です。

「全省庁が、すべての情報を共有することが重要だ、と内閣危機管理監の伊藤が判断したからだった。伊藤が強調したのは、入って来る情報に対してひとりでその評価を行うべからず、ということだった。全員が情報を共有する――伊藤はその言葉を何度も繰り返した。11日深夜、日付が変わろうとしていた頃、雰囲気の違う、なじみのない集団がセンターに参集してきた。・・・新しく姿を見せた、原子力安全・保安院という経済産業省の外局の官僚たちは余りにも異質だった。・・福島第一原子力発電所で今、起きていることについて、保安院の幹部が説明を始めると、センターの多くの幹部たちは困惑することとなった。聞いたこともない専門用語を躊躇せず、連発する。特殊な専門用語をふんだんに使いながら、ひたすらロジック(経緯)を延々と説明し続ける。最後になっても、なんら結論が導かれない――。」(p212~213)

「菅直人首相がセンターに姿を見せたのは、11日、震災発生直後のことだった。幹部会議室で、内閣危機管理監の伊藤の横に陣取り、同じく駆けつけた、枝野幸男官房長官とともに、溢れる情報の洪水の真っ直中で指揮を執った。しかし、各省庁の多くの幹部は、菅首相がいかにして陣頭指揮を行ったのか、その具体例をなかなか思い出せない。
菅首相が幹部会議室に存在したのはわずかな時間だった。その後は内閣危機管理センターの奥にある『総理専用室』へこもった。その専用部屋へ、東京電力、保安院、また原子力安全委員会の最高幹部が足しげく通い始めたのを、多くのセンター要員たちが目撃することとなった。一方、枝野の指揮ぶりには鮮明な記憶が残っている。・・」(p214)

そして、3月12日午後。
福島県警本部へと、「島第一原発1号機から煙が上がっている」というヘリ乗務員からの報告が飛び込んでくる。県庁ビルから、福島署へと本部を移転していたので、ヘリテレ映像が入手できるシステムがない。口頭で県警から内閣危機管理センターへ、同じく口頭での情報として上げられてくる。センターのスタッフはどうしたか。

「しかしそれでも、東京電力本店と原子力安全・保安院に問い合わせた。照会を受けた保安院は困惑した。そんな重大なことがあれば、東電から通報されてくるはずである。案の定、問い合わせてみるときっぱりと否定された。保安院はすぐに官邸へ回答を返した。『(爆発は)認知していない』。緊迫感のない回答だった。しかも、原発にほど近い、東電オフサイトセンターも確認していない、と付け加えた。保安院は、誤報だと一蹴したのである。そして、福島県警災害警備本部に届いた回答は、『官邸としては(爆発を)確認していない』という結論だった。災害警備本部は苛立った。ヘリの乗組員が、誤報をするはずがない。しかし、官邸を説得する材料がないことを悔しがった。ヘリテレ映像は、東京のセンターへもダイレクトに繋げることができる。しかし、今はそれが稼動できないのだ。・・・ヘリの乗組員から、不気味な無線報告が届いた。『白色状、浮遊物、多数、飛翔!』。の直後、今度は、地上の住民を誘導する警察官からも無線が入った。『空中を白いモノがたくさん舞っています・・・』。そして、ヘリから・・『1号機の原子炉・・・原子炉を目視で確認!』・・・災害警備本部は、再び警察庁からの再度の照会に、東電と保安院は『確認していません』という言葉を繰り返すばかりである。しかも、福島県警はいい加減な情報を流している――そう非難する雰囲気さえ、官邸にはあった。・・・
内閣危機管理センターからの情報は、秘書官たちを通じて、官邸五階の『応接室』にも何度となく届けられている。だが、菅首相も枝野長官も東電を信用し、ほとんど関心を寄せなかった。・・・爆発から約三時間後、午後六時、総理指示で原発の避難区域が半径二十キロ圏内に拡大された。対象者は実に、17万7000人に拡大した。それらすべてを誘導したのは、もちろん福島県警の警察官たちだった。住民を安全な場所へいち早く連れてゆくこと、警察官たちの思いにはそれしかなかった――。」(p229~231)

う~ん。ここから中西輝政著「情報を読む技術」(サンマーク出版)へ補助線を引きたいのですが、とりあえずは、ここまで。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする