和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

奇談という領域。

2018-07-13 | 古典
今日、古本が届く。
百目鬼恭三郎著「奇談の時代」(朝日新聞社・1978年単行本)。

序文はというと、こんな箇所を引用。

「・・これが『今昔物語集』の世界なのであります。
正直いって、私がこういう世界を知ったのはごく最近で、
それまでは、『今昔物語集』というと、芥川龍之介の作品を
通して間接にしか知らなかったのですね。・・・・
数年前、偶然の機会に益田勝美氏の『説話文学と絵巻』を読んで、
この説話文学の世界が、芥川の描いたものとはまるでちがうことを
教えられてからであります。・・・
私は、近世の奇談集を軽んじるつもりはありません。殊に
根岸鎮衛(やすもり)の『耳袋』は私の好きな本であります。
私がはじめて『耳袋』を読んだのは、もう十四、五年も前で、
・・・たちまちその面白さにひきこまれて、寝るのも惜しい
気がしたことをおぼえています。私が奇談という領域に
興味をもちはじめたのは、これからといってもよろしいでしょう。
・・・偽りの話と思われても、面白ければそのまま記録しておく、
というところがいい。この時代になればもうよほど人は
科学的合理主義が身についています。だから、ここに
書きとめた話の大方は、鎮衛には信じられなかったにちがいない。
が、それをあえて書きとめておいたところに、
彼の怪異好きがよくあらわれていると思うのですね。・・・」

うん。これを機会に、
今年の夏は、今昔物語集と耳袋の世界が
眼前にひらけてゆきますようにと
『奇談の時代』を読み始めることに(笑)。

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座談会記事の発明。

2018-07-13 | 本棚並べ
外山滋比古著「アイディアのレッスン」(ちくま文庫)に
菊池寛が登場する箇所があります。


「菊池寛は・・・この小説家は通俗作家として
あまり高く評価されないできましたが、おそらく
明治以降、もっとも独創的な文学者であったと思われます。
その才能は、広く編集の方向においても発揮されました。
『文藝春秋』というそれまでなかった形式の文芸総合誌を
つくったのもそのアイディアの一つです。

そのころ、つまり大正末期の総合雑誌は申し合わせたように
巻頭に難解きわまりない論説をかかげるのが常でした。
読んでわかった読者がいたかどうかわからないが、
とにかくそれが高級雑誌の常道でした。

それに対して菊池の『文藝春秋』は巻頭にエッセイを並べました。
これまで雑誌の玄関の巻頭論文を敬遠し、裏口の創作、小説から
読んでいた読者は、玄関から迎え入れてくれる雑誌の出現に
歓喜しました。営業的にも大成功を収めます。

記事のつくり方にしても、新機軸をいくつも打ち出しました。
中でも目覚ましいものに座談会記事の創案があります。
ジャーナリズムがイギリスにおこって三百年、
いかなる雑誌も、座談会を記事にして掲載しようと
したことはかつてなかったのです。
それを『文藝春秋』はやってのけました。発明です。
すばらしいアイディアでした。・・・・
いまでは座談会というものが、活字になったのは
菊池寛の『文藝春秋』のが始まりであることさえ
ほとんど忘れられています。

菊池寛は本当の意味でのアイディアマンの先覚者として、
独創、発明の喜びとともに悲哀も味わったはずです。」
(p39~41)


うん。今年の夏のお薦めは、
雑誌「WILL」8月号。こちらは対談のオンパレード。
そこに選ばれし対談相手。どなたも聞きたくなる方々。
こちらは、人を得ての対談のテンコ盛り(笑)。
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