和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

花森安治の、夏休み。

2023-08-12 | 重ね読み
唐澤平吉著「花森安治の編集室」(晶文社・1997年)の
本文のいちばん最後に『夏休み』という言葉がありました。
そこを引用しておくことに。

「お孫さんが夏休みで上京してきたとき、
 研究室につれてきて、その日は一日中ホッペたがゆるみっぱなし。

 もうトロトロ。しかしトロけてしまうことは、ありませんでした。

 ほんとうは、一時間でも早く、かわいい孫のまつ家に帰りたかったはず。
 いや、しごとなんか放りだして、いっしょに夏休みをとりたかったはず。
 でも、しなかった。非情をつらぬきとおしてみせました。
 そこに花森さんの、大きな愛のすがたがありました。

 ともすると、花森安治が『暮しの手帖』にかけた半生は、
 独裁的で無情にすらみえる場合がありました。しかし、
 けっして利己的でも無慈悲でもなかったのです。

 つよい意志を秘めた人間だけがしめし、
 公平にあたえることができるこころでした。

 そのこころとすがたが、見まごうことない一つの大きな像となって、
 わたしのこころにようやく結びました。

 部員ばかりか、家族にさえも非情に徹し、
 どんな小さなしごとにも愛情と全力をそそぎ、
 編集者として生きぬいた、ひとりのアルチザンの半生。
 ・・・・・          」(p207)

そのすこし前には、こうあったのでした。

「 ――六十六年の生涯でした。
  早春の風のように、花森安治は、わたしの前から去ってゆきました。
 
 『 みなさん、どうもありがとう 』 のことばと、
  
  テレたようなちいさな微笑を一つのこし、
  なにごともなかったかのように研究室に訣(わか)れをつげて、
  颯然といってしまいました。

  その日から、十九年の歳月がながれました。    」(p261)

コメント (2)
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