「富士正晴詩集1932~1978」(泰流社・1979年)。
そこに、サンケイ新聞に連載された各月の詩が載っていたのでした。
ギラギラ八月 富士正晴(1962年8月1日)
むくむくのぼる入道雲も
波ごとに日光を撥ねる海も
山も、森も、林も、道路も、土も
草も、木も、車も、建物も
わけてやたらと動き回る人間共が
ギラギラと発光す八月、ギラギラ八月
・・・・・・
はい。こうはじまる詩があったりするのですが、
サンケイ新聞の1964年8月1日に掲載された詩も引用。
八月・虫・人 富士正晴
遠くの遠くのはるかな所で
蝉がじいじいとないている
と、近くの大木の幹で、電柱で
一せいにがなりたてる
トランジスタを運び歩くガキ共さながら
石ころのごろごろした庭を
蟻が黙々と行列していく
黙々と? そうではない
奴らのせわしない雑談が聞こえないだけだ
一列に連なり登る登山者の映画みたいに
・・・・・・・・・・・・
蟻そっくりにぶつぶついいつつ生きてゆく
八月 遊ぼうと働こうと人間は虫みたい見える