山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

シダは美しい・・・と思う ~山梨県絶滅危惧ⅠA類のシダたち~

2020年03月11日 | シダの仲間
 ランクの高い絶滅危惧ⅠA類のシダはやはりそう簡単には姿を見せてくれない。2018年版山梨県レッドデータブックに登録されているⅠA類27種類のうち2020年3月現在で見てきたのは15種類で、それでも半年という短期間で良くこれだけ見てきたものだと思う。しかし、探すのはきわめて困難と思われるイナツルデンダやミヤマハナワラビ、コタニワタリ等の難しいシダが何種類も残っており、撮影がうまく出来ていないシダも多数ある。シダも花もそうであるが、絶滅危惧種のランクが高いほど綺麗なものが多いというわけでは無いが、なかなか出会えないものに出会うとやはり感動するものである。八ヶ岳で見つけたヤツガタケシノブや最近出会ったタキミシダなどは心が震える感動を覚えたが、その感動が写真にうまく表現されているかどうかは別物である。フジシダはシダ自体も美しかったが、同時にそのシダが生育している苔が生い茂る渓谷の景色に感動した。そんな感動とともに撮り歩いてきたシダの仲間たち、今回はⅠA類の珍しいシダたちの何種類かをご覧いただきたいと思う。

 ヒメスギラン(ヒカゲノカズラ科)
 北岳でコスギラン(ⅠB類)を見てきたが、コスギランとヒメスギランはどこがどう違うのか見比べるために、レッドデータブックの記述を参考にして見つかるかどうか分からない瑞牆山に探索に出かけた。個体数は少ないが沢沿いに点々と生育しているこのシダに出会うことが出来た。


    渓谷沿いの苔に生育するヒメスギラン(瑞牆山) 最初に見つけたのがこの個体で、本物かどうか目を疑った。


    沢沿いから中腹にかけての湿った苔の生えている岩や石に生育していた。

 マツバラン(マツバラン科)
 茎だけで根も葉も持たない原始的な形態のシダである。かつては甲府市近傍の竹林の林床にも生育していたらしいが現在では見当たらず、山梨県で確認されているのは1カ所のみとなっている貴重なシダである。


    木の幹の隙間に生育しているマツバラン(南部町)


    葉も根も無く全てが茎で、茎の分かれ目に丸い胞子嚢が付着している。

 クリハラン(ウラボシ科)
 湿った渓谷や水際を好んで生育する南方系のシダである。形態が栗の葉に似ている。県南部に生育し、群生する。


    沢沿いの斜面に生育するクリハラン(身延町) 円形のソーラスが中央寄りに付着する。


    南部町の沢沿いではこんな用水路のようなところにも生育していた。

 キタダケデンダ(イワデンダ科)
 北岳の特産種である。生育場所も個体数も少なく環境省でもⅠA類になっている。


    岩の隙間に生育するキタダケデンダ(北岳) 登山道沿いで見られるのはおそらくこの場所のみであろう。


    裏側のソーラスには毛が生えている。

 ヤツガタケシノブ(イノモトソウ科)
 山梨県では八ヶ岳と北岳に生育する高山性の小型のシダである。生育場所も個体数も少ない。


    湿った岩に生育するヤツガタケシノブ(八ヶ岳) この場所は比較的個体数が多かったが他の場所では見つからなかった。


    辺縁の葉は巻き込み、その裏にソーラスが付着する。

 タキミシダ(イノモトソウ科)
 渓谷の苔が生えた岩壁を好んで生育する。分布限界種で、生育地が限られ個体数もかなり少ない。


    渓谷の苔生した岩壁に生育するタキミシダ(南部町)


    網目状の葉脈。ソーラスは確認できなかった。

 オニイノデ(オシダ科イノデ属)
 硬い葉を持つ緑色の光沢鮮やかなイノデの仲間である。根元近くには幅広い鱗片をたくさん付着させる。生育地が限られており個体数も少ない。


    林道脇に生育していたオニイノデ(身延町) 大きな個体に出会ったが残念ながらだいぶ痛んでいた。


    光沢のある緑色の葉、いかにも硬そうな印象を受ける。

 ノコギリシダ(メシダ科)
 光沢のあるやや硬めの葉を持つシダである。辺縁が鋸のようにギザギザしていることからこの名がある。生育地が極限られているが生育場所での個体数は多い。


    ノコギリシダとリョウメンシダが共存する谷(南部町) 素晴らしい谷である。


    濃い緑色が鮮やかな格好良いシダ。


    フモトシダに似ているがソーラスの形は全く違う。

 フジシダ(コバノイシカグマ科)
 苔生した渓谷や森の中を好んで生育する緑色鮮やかなシダ。葉が薄くて全体的に細長く華奢な感じがする。生育地は限られているが生育場所での個体数は多い。


    苔生した渓谷の岩に生育するフジシダ(笛吹市)


    苔の上にしか生育して居なかった。


    長く垂れ下がり、先端には無性芽と小葉が出ている。

 いかがだっただろうか?図鑑で見るシダだけを切り抜いた画像では無く、どんな環境のところにこの美しいシダたちが生育しているかを見ていただけたことかと思う。確かにシダはみんな緑色で花は無いかも知れないが、それぞれの環境の中でそれぞれの個性を放って生育して居るのである。私はこのようなシダたちはたくましくて健気で美しいと思っている。いつか、このような美しいシダたちの画像を集めて、図鑑とは違う写真集が発刊できたらと願っている。

コメント (4)
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シダは美しい・・・と思う ~山梨県絶滅危惧ⅠB類のシダ~

2020年03月11日 | シダの仲間
 2018年版山梨県レッドデータブックに登録されている絶滅危惧のシダはⅠA類(CR)27種類、ⅠB類(EN)22種類、Ⅱ類(VU)10種類である。一方、人気の高いラン科植物では、それぞれ26種類、24種類、14種類で、数からするとシダ植物とラン科植物の数はあまり変わらない。しかし、ラン科の植物を追いかけている人たちはたくさん目にするがシダを追いかけている人に会うことはほとんど無い。北岳で高山植物の写真を撮っている人は見かけても岩壁の隙間や岩棚の下を覗き込んでいる人は見かけないし、西沢渓谷で美しい渓谷の流れに背を向けて岩壁側を覗き込みながら歩いている人など見たことが無い。確かにランをはじめとする花を咲かせた植物は美しいし、見ていて心が和むのは事実である。ではシダはどうなのだろうか?汚いと思う人は少ないかも知れないが、どれを見ても同じに見えるという人は多いだろう。花の図鑑を見ると確かに美しい花がたくさん載っているが、シダの図鑑は緑色のものばかりでつまらないのである。しかし、シダだけでなくそのシダが生育する環境まで目を配って改めてシダを見直してみてはどうだろうか?植物の中では長い歴史を持つシダ植物はその環境に適応するように様々な形に分化し、機能も携えている。ラン科植物のように高い木の上に生活の場を変えた着生植物もあれば、無性芽をつけて自己増殖するシダもあるし、ムカゴを付けるシダもある。いろいろ植物を見ているうちに突き当たるのがこのシダ植物であろうと思っている。そしてそれらの多様性を持つシダ植物はそれぞれの生育する環境の中にあって存在感と美しさを誇っていると思う。今回は山梨県絶滅危惧ⅠB類のシダのうちの何種類かをご覧いただきたいと思う。撮影にはできるだけ広角レンズを使用して周辺の景色を取り込んで撮影している。そのシダが生育する環境もお楽しみいただければと思う。

 アオネカズラ(ウラボシ科)
 どちらかというと南方系のシダで山梨県では県南部に生育している。沢沿いの木や岩に好んで生育する着生シダである。渓谷の中に垂れ下がるように生育するその姿が格好良く、またやや深い緑色の葉は表面にビロード状の毛を生やしており、渋い色をしている。


    渓谷の岩壁に垂れ下がるアオネカズラ(南部町)


    渓谷の木に垂れ下がるアオネカズラ(南部町) 茶色いソーラスが見える。

 ヒトツバ(ウラボシ科)
 どちらかというと南方系のシダで、県南部に生育している。沢沿いの岩壁を好んで生育しており群生する。ウラボシ科であるが、ソーラスは葉裏一面に茶色く付着する。


    沢の流れを見下ろすヒトツバ(南部町) 不覚にもカメラを忘れてスマホで撮った画像。

 ヘラシダ(メシダ科シケシダ属)
 メシダ科とは思えないような形をしているシダである。渓谷沿いの土の斜面や林道脇を好んで生育しており、群生する。山梨県では県南部に分布していて、比較的数は多い。


    渓谷の斜面に群生するヘラシダ(南部町)


    裏側には線状のソーラスが付着し、長さが不揃いである。

 ヒメイワトラノオ(チャセンシダ科)
 水がしたたり落ちるような渓谷の岩壁を好んで生育するシダである。良く似たイワトラノオは沢沿いで普通に見かけるがこのヒメイワトラノオは数が少ない。茎が細くて長いこと、葉の先端部に小さな尖りがあること、ムカゴを付けることが違いであるが、ムカゴはなかなか見えない。


    渓谷の岩壁に生育するヒメイワトラノオ(西沢渓谷)


    水がしたたり落ちるような場所を好んで生育する。

 アオチャセンシダ(チャセンシダ科)
 石灰岩地を好む高山性のシダである。アオチャセンシダの名の通りに軸が緑色をしている。北岳の標高3,000m付近の場所で見られる。


    岩壁に付着するアオチャセンシダ(北岳) この個体は北岳肩の小屋側で見たもので、石灰岩地では無い。


    この個体は北岳トラバース道の中で見たもの。こちら側のほうが発見し易いが、数は多く無い。

 コスギラン(ヒカゲノカズラ科)
 高山性のシダである。2018年の北岳で撮影した画像の中に偶然写っており、2019年に生育を確認してきた。確認できたのは1ヶ所のみであるが個体数はそれなりにあった。森林限界を超えたコケモモやイワヒゲが生える斜面に生育する。


    高地に生育するコスギラン(北岳) 向こうに山並が見えていたのだが光の加減が悪く消えてしまった。


    高山帯の岩の間の土の斜面を好む。

 ヒメカナワラビ(オシダ科イノデ属)
 イノデの仲間らしく小羽片の先端部は鋭く尖っている。羽片の先端部や頂部がすらりと細く伸びる、光沢のある美しいシダである。県南部で見られるが数はあまり多く無い。


    渓谷の岩壁に生育するヒメカナワラビ(身延町)


    すらりと延びる頂部と羽片の先端部が格好良い。光沢のある薄緑色の葉も美しい。

 山梨県絶滅危惧ⅠB類22種類のシダのうち、令和2年3月現在で見てきたものは18種類である。3年間で80%制覇の目標に関しては、約半年にしてⅠB類は達成したことになり、Ⅱ類、準絶滅危惧種に関してはあと2~3種類で終了である。短期間でここまで達成できたのはひとえに良き師匠に出会えてご指導いただいたからである。しかし、これはまだ通過点であって絶滅危惧種を見て歩くことがシダ植物を始めたきっかけでは無い。一番の目的は植物の推移と地球環境の変化を見ること、そしてどうやって植物を含めた環境を保全して行くかということである。決して終わることが無いテーマである。
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