平成20年3月21日 天候晴れ
ここ2年間、春分の日に七面山を訪れ、いずれも素晴らしい富士山頂からの日の出を見ることができた。特に昨年は雲の間から一瞬だけ姿を現した太陽が強く印象に残っている。今年も登る予定だったのだが、残念ながら雨となり中止。翌日の21日、2日遅れの日の出を見るため、午後から羽衣の表参道を七面山目指して登る。敬慎院には予約を入れていなかったので、テントを被って眠るつもりで、テント、マット、シュラフ、シュラフカバーと一式ザックに詰め込んで出発。日の出だけ見るのならば例年通り夜間登れば良いのだが、この日は十四夜の月が富士山頂の右隅あたりから昇ってくるはずだ。6時までにはなんとか御来迎場まで到着したい。羽衣から歩き始めは午後2時半、どんなに急いでもこの装備を担いででは私の足では3時間はかかる。いつもよりは足早に登るが、長い登り、さすがに足に来る。三十丁目を過ぎたあたりから雪が多くなり、三十三丁目で6本歯アイゼンを装着、上のほうで南無妙法蓮華経を唱える信者の声が聞える。四十五丁目あたりで信者の行列の姿が見え、最初の10人ほどを抜いたが、角を曲がって先を見るとまだまだたくさん人がいる。道を譲ってくれたのでさらに10人ほど抜き去ったが、さらにその先にも10人くらい信者の列が続く。さすがにそこまでは抜ききれず、信者の列について歩く。山門のところで信者の人たちは一旦休憩するようだったので、そこで全員抜き去り、御来迎場まで一気に登った。
到着時間は6時数分前、富士山山頂にわずかに残照が残り、右手の雲の中から月が顔を出している。大急ぎでカメラと三脚をセットして撮影する。なんとか間に合った。富士山は頭の部分を雲の中に隠し、山頂はほとんど見えなかったが、この日の月は黄金色に輝く見事なものだった。隣で三脚を立てていた男女の若者とすぐに仲良くなる。2人は敬慎院に宿泊するので一緒に泊ろうと誘いを受ける。迷っているところに敬慎院のお坊さんが月の写真を撮影に飛んできた。さすがにお坊さんの前でこのあたりにテントを張らせてくれとは言えない。これも何かの縁、お坊さんに泊めてもらえるかどうか尋ねると、先に行って係の者に話しておいてくれるという。テント泊りやめて敬慎院にお世話になることになった。
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3月21日午後6時、金色の月昇る
この日の敬慎院は信者の人たちと一般の人を含めて80人ほどの宿泊客あり、予約外の宿泊は私だけだったようで、一人だけ別に食事を出していただいた。さらにお風呂にも入れさせていただき、遅れて到着した私一人のためにわざわざ8時半過ぎに特別にご開帳の儀式を行っていただいた。同室の客は皆一般客で、中には写真目的の人も居り、露出やシャッタースピードの事などいろいろと聞く。客の中にはもう50回以上七面山に登ったという人がおり、山の話などで軽く盛り上がったところで消灯時間の9時となり眠りにつく。翌日山頂に向う際、この方にご厄介になるとは思ってもいなかった。
3月22日 天候晴れ
朝は3時半に起床し、まわりの人に気を使いながらそっと布団を出て準備をする。昨日会話した写真家も同じ時間に準備を始めていた。朝4時、御来迎場に行くと既に3~4人三脚を構えていた。宿泊客ではなく、夜を徹して登って来た人たちだ。雲ひとつない空、月光に照らされて富士山もきれいに見える。今日はきれいな御来光が見られそうだ。春分の日から2日遅れているため、富士山山頂からは日が登ってこない。しかし、七面山山頂近くのガレの淵まで行くと山頂左寄りからの日の出が見られるはず。前日知り合った若者と、暗いうちにガレの淵まで登ることにし、4時半に待ち合わせして歩き出した。しかし、すぐ上の荷揚げ小屋のところでトレースは消失、その先は膝あたりまで沈むラッセルとなる。とても日の出に間に合うようなものではなく、即効であきらめて御来迎場に戻る。
昨年同様、山門の釣鐘下の好ポジションをキープし、日の出を待つ。信者さんたちも続々と集まり始め、南無妙法蓮華経を唱え始める。午前6時、富士の左肩が黄金色に輝きはじめ、日が昇りはじめる。と同時に信者さんたちがうなり声にも似た「ウオーッ」という祈り声(叫び声)をあげはじめる。雲がかかって日の出が見えない時はこの気合で雲を押しのけるのだそうだ。本当にそんなことができてしまいそうな、びっくりするような祈り声、熱心な人たちがいるものだと感服する。
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朝焼けの富士 昨年に続いて山門下の好ポジションを確保。
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2日遅れの御来光 山門の屋根から今にも落ちそうな氷が輝いていた。
さて、信者さんたちや一般の宿泊客の人たちは敬慎院に食事をとりに戻っていったが、私は持ってきたパンを食べて、一人でそのまま七面山山頂を目指す。膝元まである雪をラッセルするが、道も良くわからない。途中にシカの足跡がありそれに沿って左に回りこみ、大ガレの展望台までたどり着く。
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七面山大崩れ
ここまでで1時間近く時間を費やしている。ガレの淵に立ち、安全な足場を確保して大崩れ(ナナイタガレと呼ぶ)の写真を撮っていると、8時少し前に10人ほどのグループが登って来た。秩父山の会の人たちで、未明から登り始めてなんとか日の出に間に合ったという。私のトレースに沿って来たのだが、ここから先は急斜面となりしかもノートレース。登り始めたものの、雪が深くて先頭の人が「引き返すか?」と言っている。ここまで来たのだから一緒に登りましょうと話し、私と会の男性3人で交代しながらラッセルし、急斜面を登る。中腹でテープを見失い、左側の尾根に取り付いたところ、ここは腿まで沈む深い雪、しかも急斜面で滑り、容易に登れず悪戦苦闘する。道を間違えたのはわかっていたが、稜線の平坦地はもう目の前に見えていて、ここで引き返すわけにはいかない。へとへとになってラッセルしているところに後ろからさらにもう1グループが追いついてきた。昨日同室だった男性率いる6人のグループだった。途中から先頭を引き受けてくれ、猛烈な勢いでラッセルし、ほどなく平らな稜線に到着。しかし、ここも雪は軽く膝上あり、稜線に沿って進むとようやく正規の登山ルートと合流した。ここで雪は膝下、脛のあたりとなり、歩きやすくなる。山頂に到着したのは9時30分、ガレの展望台から1時間30分、敬慎院からは実に3時間(実質2時間半)もかかった。皆で握手し、登頂できたことを喜び合う。
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雪の山頂。力を合わせ、ようやくたどり着いた。
2年ぶりの山頂は50~60cmほどの積雪あり、方位盤も完全に雪の中。盛り上がった場所を女性が掘ると、方位盤が出てきた。また、消失していた山梨百名山標柱も新品のものが建て直されていた。やはりこの標柱を見ないとなんとなく登った気がしない。最後のラッセルを引き受けてくれた男性グループは、6月下旬に雨畑から笊ヶ岳に登るそうで、チーム吉野も同行するかどうか、検討しようと思っている。それにしても雲ひとつ無い良い天気、下界は暑そうだ。2チームは小休憩後下山していったが、私はゆっくりとコーヒーを飲んでいちばん最後に下山、途中のガレの上から見る富士山がきれいだった。下山はトレースのない正規登山道を降りて間違えた場所を確認した。左尾根に取り付かず斜面を真直ぐ行けば良かったのだが、やはり途中は膝上のラッセルだった。敬慎院に戻り、預けておいたテント道具一式をザックに詰め込み、丁重にお礼を述べて下山。下りは羽衣までちょうど2時間だった。
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ガレの縁から見る七面山大崩れ
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敬慎院山門。門の中にすっぽり富士山が入る。
テントに泊らず、敬慎院にご厄介になったことでいろいろ経験できたし、またたくさんの山を愛する人たちと知り合うことができた。一人ではとうてい登れなかった山頂も力を合わせて登ることができた。実りの多い山行だった。
参考(にならない)タイム
1日目 羽衣14:30‐二十三丁目小屋15:50‐三十三丁目16:40(アイゼン装着)‐山門17:50‐御来迎場18:00
2日目 敬慎院6:30‐大崩れ展望台7:25‐七面山山頂9:30(大休憩)‐敬慎院12:20‐下山開始13:00‐羽衣15:00
ここ2年間、春分の日に七面山を訪れ、いずれも素晴らしい富士山頂からの日の出を見ることができた。特に昨年は雲の間から一瞬だけ姿を現した太陽が強く印象に残っている。今年も登る予定だったのだが、残念ながら雨となり中止。翌日の21日、2日遅れの日の出を見るため、午後から羽衣の表参道を七面山目指して登る。敬慎院には予約を入れていなかったので、テントを被って眠るつもりで、テント、マット、シュラフ、シュラフカバーと一式ザックに詰め込んで出発。日の出だけ見るのならば例年通り夜間登れば良いのだが、この日は十四夜の月が富士山頂の右隅あたりから昇ってくるはずだ。6時までにはなんとか御来迎場まで到着したい。羽衣から歩き始めは午後2時半、どんなに急いでもこの装備を担いででは私の足では3時間はかかる。いつもよりは足早に登るが、長い登り、さすがに足に来る。三十丁目を過ぎたあたりから雪が多くなり、三十三丁目で6本歯アイゼンを装着、上のほうで南無妙法蓮華経を唱える信者の声が聞える。四十五丁目あたりで信者の行列の姿が見え、最初の10人ほどを抜いたが、角を曲がって先を見るとまだまだたくさん人がいる。道を譲ってくれたのでさらに10人ほど抜き去ったが、さらにその先にも10人くらい信者の列が続く。さすがにそこまでは抜ききれず、信者の列について歩く。山門のところで信者の人たちは一旦休憩するようだったので、そこで全員抜き去り、御来迎場まで一気に登った。
到着時間は6時数分前、富士山山頂にわずかに残照が残り、右手の雲の中から月が顔を出している。大急ぎでカメラと三脚をセットして撮影する。なんとか間に合った。富士山は頭の部分を雲の中に隠し、山頂はほとんど見えなかったが、この日の月は黄金色に輝く見事なものだった。隣で三脚を立てていた男女の若者とすぐに仲良くなる。2人は敬慎院に宿泊するので一緒に泊ろうと誘いを受ける。迷っているところに敬慎院のお坊さんが月の写真を撮影に飛んできた。さすがにお坊さんの前でこのあたりにテントを張らせてくれとは言えない。これも何かの縁、お坊さんに泊めてもらえるかどうか尋ねると、先に行って係の者に話しておいてくれるという。テント泊りやめて敬慎院にお世話になることになった。
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3月21日午後6時、金色の月昇る
この日の敬慎院は信者の人たちと一般の人を含めて80人ほどの宿泊客あり、予約外の宿泊は私だけだったようで、一人だけ別に食事を出していただいた。さらにお風呂にも入れさせていただき、遅れて到着した私一人のためにわざわざ8時半過ぎに特別にご開帳の儀式を行っていただいた。同室の客は皆一般客で、中には写真目的の人も居り、露出やシャッタースピードの事などいろいろと聞く。客の中にはもう50回以上七面山に登ったという人がおり、山の話などで軽く盛り上がったところで消灯時間の9時となり眠りにつく。翌日山頂に向う際、この方にご厄介になるとは思ってもいなかった。
3月22日 天候晴れ
朝は3時半に起床し、まわりの人に気を使いながらそっと布団を出て準備をする。昨日会話した写真家も同じ時間に準備を始めていた。朝4時、御来迎場に行くと既に3~4人三脚を構えていた。宿泊客ではなく、夜を徹して登って来た人たちだ。雲ひとつない空、月光に照らされて富士山もきれいに見える。今日はきれいな御来光が見られそうだ。春分の日から2日遅れているため、富士山山頂からは日が登ってこない。しかし、七面山山頂近くのガレの淵まで行くと山頂左寄りからの日の出が見られるはず。前日知り合った若者と、暗いうちにガレの淵まで登ることにし、4時半に待ち合わせして歩き出した。しかし、すぐ上の荷揚げ小屋のところでトレースは消失、その先は膝あたりまで沈むラッセルとなる。とても日の出に間に合うようなものではなく、即効であきらめて御来迎場に戻る。
昨年同様、山門の釣鐘下の好ポジションをキープし、日の出を待つ。信者さんたちも続々と集まり始め、南無妙法蓮華経を唱え始める。午前6時、富士の左肩が黄金色に輝きはじめ、日が昇りはじめる。と同時に信者さんたちがうなり声にも似た「ウオーッ」という祈り声(叫び声)をあげはじめる。雲がかかって日の出が見えない時はこの気合で雲を押しのけるのだそうだ。本当にそんなことができてしまいそうな、びっくりするような祈り声、熱心な人たちがいるものだと感服する。
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朝焼けの富士 昨年に続いて山門下の好ポジションを確保。
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2日遅れの御来光 山門の屋根から今にも落ちそうな氷が輝いていた。
さて、信者さんたちや一般の宿泊客の人たちは敬慎院に食事をとりに戻っていったが、私は持ってきたパンを食べて、一人でそのまま七面山山頂を目指す。膝元まである雪をラッセルするが、道も良くわからない。途中にシカの足跡がありそれに沿って左に回りこみ、大ガレの展望台までたどり着く。
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七面山大崩れ
ここまでで1時間近く時間を費やしている。ガレの淵に立ち、安全な足場を確保して大崩れ(ナナイタガレと呼ぶ)の写真を撮っていると、8時少し前に10人ほどのグループが登って来た。秩父山の会の人たちで、未明から登り始めてなんとか日の出に間に合ったという。私のトレースに沿って来たのだが、ここから先は急斜面となりしかもノートレース。登り始めたものの、雪が深くて先頭の人が「引き返すか?」と言っている。ここまで来たのだから一緒に登りましょうと話し、私と会の男性3人で交代しながらラッセルし、急斜面を登る。中腹でテープを見失い、左側の尾根に取り付いたところ、ここは腿まで沈む深い雪、しかも急斜面で滑り、容易に登れず悪戦苦闘する。道を間違えたのはわかっていたが、稜線の平坦地はもう目の前に見えていて、ここで引き返すわけにはいかない。へとへとになってラッセルしているところに後ろからさらにもう1グループが追いついてきた。昨日同室だった男性率いる6人のグループだった。途中から先頭を引き受けてくれ、猛烈な勢いでラッセルし、ほどなく平らな稜線に到着。しかし、ここも雪は軽く膝上あり、稜線に沿って進むとようやく正規の登山ルートと合流した。ここで雪は膝下、脛のあたりとなり、歩きやすくなる。山頂に到着したのは9時30分、ガレの展望台から1時間30分、敬慎院からは実に3時間(実質2時間半)もかかった。皆で握手し、登頂できたことを喜び合う。
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雪の山頂。力を合わせ、ようやくたどり着いた。
2年ぶりの山頂は50~60cmほどの積雪あり、方位盤も完全に雪の中。盛り上がった場所を女性が掘ると、方位盤が出てきた。また、消失していた山梨百名山標柱も新品のものが建て直されていた。やはりこの標柱を見ないとなんとなく登った気がしない。最後のラッセルを引き受けてくれた男性グループは、6月下旬に雨畑から笊ヶ岳に登るそうで、チーム吉野も同行するかどうか、検討しようと思っている。それにしても雲ひとつ無い良い天気、下界は暑そうだ。2チームは小休憩後下山していったが、私はゆっくりとコーヒーを飲んでいちばん最後に下山、途中のガレの上から見る富士山がきれいだった。下山はトレースのない正規登山道を降りて間違えた場所を確認した。左尾根に取り付かず斜面を真直ぐ行けば良かったのだが、やはり途中は膝上のラッセルだった。敬慎院に戻り、預けておいたテント道具一式をザックに詰め込み、丁重にお礼を述べて下山。下りは羽衣までちょうど2時間だった。
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ガレの縁から見る七面山大崩れ
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敬慎院山門。門の中にすっぽり富士山が入る。
テントに泊らず、敬慎院にご厄介になったことでいろいろ経験できたし、またたくさんの山を愛する人たちと知り合うことができた。一人ではとうてい登れなかった山頂も力を合わせて登ることができた。実りの多い山行だった。
参考(にならない)タイム
1日目 羽衣14:30‐二十三丁目小屋15:50‐三十三丁目16:40(アイゼン装着)‐山門17:50‐御来迎場18:00
2日目 敬慎院6:30‐大崩れ展望台7:25‐七面山山頂9:30(大休憩)‐敬慎院12:20‐下山開始13:00‐羽衣15:00
私は先月に初めて七面山に登りご来光を撮影することができ幸運に思っています。春分の日の前後はまだ雪深く登るのにご苦労され、見事にダイヤの撮影に成功された様子を拝見させて頂きありがとうございました。