以下の古川和男さんのインタビュー記事を注意深くお読み下さい。
現在の原発は原子爆弾の原料になるプルトニュームの生産が副産物として生産するから普及した事情が明快に分かると思います。実は日本もその例外でなかったのです。古川和男博士は私の先輩で真面目な原子力工学の研究者でした。いいかげんな男ではありません。
=======古川和男博士のインタビュー記事=======
著者インタビュー
聞き手◎「本の話」編集部
古川和男
Kazuo Furukawa 元東海大学開発技術研究所教授
ウクライナ科学アカデミー外国会員
この原発なら福島やチェルノブイリは起こらなかった!
『原発安全革命』 2011.5.20刊
(文春新書・発売中・『「原発」革命』緊急増補新版)
――古川さんは、これまでの原発とは全く原理の違う安全な原発を、この本で提案されていますね。
古川 ええ。これまでの原発は、固体のウラン燃料を燃やす、一般に発電量一〇〇万キロワット以上の規模の大きなものでしたが、私が提唱する原発は、燃料形態を固体から液体に代え、燃料自体をウランからトリウムに代え、規模も二、三十万キロワットレベルにしたものです。こうすると、福島やチェルノブイリで起きたような過酷な事故は、原理的に起こりえません。また、きわめて発電効率の高いものにできる。安全で高効率ですから、今後世界中で予想される膨大な電力需要に、充分に対応できます。
――まず、安全性の面から説明してくださいませんか。「原理的に事故を起こさない」とは、どういうことでしょう?
古川 福島の事故を振り返ってみてください。まだ危機的状況が続いている上に、データが明らかにされていないので、正確な原因分析はできませんが、地震直後は、核分裂の連鎖反応を一応は止めることができた。ところが、続く大津波で核物質を冷却するための電源がすべて失われ、核物質が発する高い崩壊熱のために燃料棒が破損・熔融し、さらに水素爆発などが原因で炉が破損して、反応で生成した各種の放射性物質が大量に外部に漏れ出た。おそらくこうした事態が起こったと考えられるわけですね。
「想定外」の津波が直接の原因であり、また、東京電力や国の危機管理意識・能力のあまりのなさが事故を決定的に悪化させたのは間違いありませんが、そもそもこうした事故は、燃料が固体であることに遠因があると言っていいのです。原発の燃料形態に固体を選んだという点で、日本だけでなく、そもそも世界が間違っていたのです。
被覆管に密封された核燃料のまわりを水が循環し、その水が反応熱を得て熱水となり、その熱水から生じる水蒸気でタービンを回して発電する、というのが今の原発の発電の仕方ですが、この方式では核燃料や被覆管は、核反応や放射線の影響で変質・破損・熔融しやすくなります。また、反応で発生するガスが被覆管内部に密封され、高圧となって、管が破損したときに外部に噴き出す危険も生じます。さらに、水が放射線で分解され、爆発の危険性のある水素を発生させます。高温・高圧となる水による材料の腐蝕も難問です。こうしたもろもろの不都合を抑え込むために、炉の構造は各種の安全装置やモニター機器類を装着して複雑になり、それだけ保守・点検が大変になります。
本来、核分裂というのは化学変化でもあり、液体で取り扱うべきものなのです。核燃料が液体だったら、今言った技術的難点はほとんど解決できます。反応のコントロールが容易で、決定的に安全性が向上します。炉の構造も単純になり、保守・点検が簡単になるだけでなく、ロボットなどを利用した遠隔管理も実現でき、作業員の被曝も最小限にできます。
結局、固体燃料を採用している今の原発の設計思想は、核化学反応の本性を無視しているとしか言いようがない。それで、「合理的な技術の原理で対応」するのではなく、「多重防護という無理筋対応」をするしかなくなっているのです。
燃料はガラス状に固まる
――古川さんの提案する炉では、「全電源喪失」が起こったらどう対処するのですか?
古川 そのお話をするには、液体燃料とは何か、を先に説明しておかねばならないので、ちょっとその話をします。液体にもいろいろあって、我々が提案している液体は熔融塩というものです。塩というと、皆さんはまず食塩を思い浮かべるでしょうが、その親戚みたいなものです。地球のマグマをイメージしていただいてもいい。放射線を浴びても変質したり壊れたりしない、とても安定した液体で、これに核燃料を溶かし込んで使うわけです。この熔融塩燃料は、冷めるとガラスのように固まります。空気や水と反応しません。
で、「全電源喪失」ですが、今の原発でこういう事態になると、核燃料が冷却できなくなって「崩壊熱の暴走」が起こるわけですね。しかし、そもそも熔融塩燃料なら核反応のコントロールはきわめて容易で、弁を開き、真下に設置されたホウ酸水の冷却プール内のタンクに燃料塩を落してやれば、炉内に燃料が無くなる訳ですからすぐに連鎖反応が止められるだけでなく(燃料が炉内にあるからこそ連鎖反応が起こる仕組みになっている)、摂氏約五百度以下になると、今述べたように燃料塩はガラス状に固まります。こうして非常時の処置として、タンクに落とし自然冷却すればよいのです。この落下弁は、炉の運転時は冷却して凍らせているのですが、冷却をやめると融けて開くので、電気不要です。だから「崩壊熱の暴走」を心配する必要はない。
原発事故で一番怖いのが放射性物質の外部への流出で、今回もガスとして、あるいは水に溶けて漏れ出たわけですが、ガラス固化した燃料塩なら、気化もせず、水にも溶けないので、流出はありえません。また、炉の運転時、核反応に伴い発生するガスは、常に炉から除去する仕組みになっているので、事故時に炉に残存しているガスはほんのわずかです。
仮にテロなどで炉が破壊されても、炉の外に漏れ出た燃料塩は、すぐに冷めてガラスのクズ状になるだけで、炉は停まります。つまり「反応を止める」「冷ます」「漏れを防ぐ」というすべての面で、熔融塩燃料は理想的なのです。(その二へ続く)