素晴らし職業や人気の高い職業は時代によって変わります。また人それぞれ自分に合った職業もいろいろです。戦前の日本では軍人になったり官僚になる事に人気があり、多くの優秀な若者がその職業についたものです。しかし、それは敗戦とともにすっかり変わりました。
そして経済の高度成長の間は民間の大会社のサラリーマンになる事が素晴らしい事と思う人が多かったのです。それも1990年前後のいわゆるバブル経済の崩壊で様変わりをしました。
あらゆる職業の差別が無くなり、転職も普通の事になりました。
その頃から博物館や美術館の学芸員が魅力的な職業として脚光を浴びるようになって来ました。私はその頃から学芸員という職業へ強い興味を持っています。
美術館や博物館へ行く度に学芸員のお話を聞くようにします。すると自分の理解して居なかった分野の事が簡単に理解できるのです。
学芸員の職務は様々ですが、一言で言えば、「学者の発見した事を素人に理解易く展示したり、説明する事」です。例えば、つくば市にある地質標本館の展示は地球45億年の地層の変化が明快に展示してあります。数多くの優秀な学芸員が展示方法を真剣に研究している様子が目に見えるのです。
美術館へ行けばそこの学芸員の芸術性の高さが分かります。有名な画家の失敗作だけを展示して、画家の有名さだけに頼っている美術館もあります。有名な画家でも失敗作は安価なのです。ところが一方では、無名の画家でも藝術的深みのある絵画を展示している場合もあります。その上、その画家の一連の絵を、画風の変化の順序に展示してあります。学芸員の独創性と芸術性が偲ばれます。
最近、町田市立自由民資料館に行ったとき2度ほどお話を聞いた学芸員には感動しました。その方は杉山 弘さんという方です。歴史家です。歴史的研究の仕方は民衆の立場にたった歴史研究で有名な色川大吉先生の研究室へ3年間通って勉強したそうです。
杉山さんの歴史的視点が独創的なのです。
一般に日本の学校教育で習う歴史は時代、時代の権力者のした事の羅列です。その時代に生きた普通の人々がどんな思いや考えで生きていたかという歴史的事実を教えません。人々は何を考えて生きていたか?
その問題へ私は以前から非常に興味がありました。それが分かれば現在の我々の生き方に大きく参考になります。生きる勇気も湧いてきます。
自由民権運動は幕末が終り、明治政府が出来、第一回の総選挙があり帝国議会が開催される明治23年頃まで全国で展開された民衆による民主主義運動です。その運動に参加した人々は何を行い、何を考えていたかを研究して、その研究成果を展示してあるのがこの自由民権資料館です。全国を見渡してもこのような展示館は珍しい存在です。
自由民権運動は日本各地に起きたので地方、地方の歴史的事情でその内容が異なっています。それを研究することは郷土の歴史研究でもあるのです。
町田市立自由民権資料館の学芸員の杉山 弘さんは明治時代の神奈川県と現在の東京都の多摩地方の歴史を研究し、その成果を展示へ反映させています。そして歴史学者の専門的な論文を素人へ分かり易く説明してくれるのです。
学芸員は学者と素人の間をつなぐ通訳なのです。芸術家と素人の間をつなぐ翻訳家なのです。とても重要な仕事です。そして美術館や博物館の優劣は学芸員の働きによって決まるのです。日本の文化レベルは美術館や博物館の優劣によって決まります。
決してGDPや経済力でのみ決まるものではありません。
ですから学芸員は素晴らしい職業なのです。是非、若い皆様が学芸員という職業を選択するようにとお祈りしています。
杉山 弘さんがお時間をさいてお話し下さった事へ感謝いたします。