おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

『どうにもとまらない歌謡曲―70年代のジェンダー―』(舌津―ぜっつ―智之)ちくま文庫

2022-09-13 21:36:48 | 読書無限

この書。今から20年前、2002年に晶文社から刊行され、今回、加筆訂正されて「ちくま文庫」から発刊されたものです。

「歌は世につれ、世は歌につれ」。

70年代に歌われた歌謡曲の歌詞、歌声、歌い方、振り付けなどを細かく、ジェンダーの視点から分析評価した内容。

 20年前にはジェンダーなどという言葉はなかったような。あったとしてもごく一部のことでした。男女の生物として性別、というとらえ方が大半で、それも男優位の考え方。

性的な区分けでなく、社会的にとらえる「男女観」「男女の役割」という「ジェンダー」の視点でこの書をとらえると、野心的で先駆的書であることを感じます。

※1970年は田中美津らによる「ウーマンリブ」が立ち上がった「第二波フェミニズム元年」だった。(斎藤美奈子さんの解説P306)

本題に入る前に、いくつか。

1975年は、多くの統計的数字におけるターニングポイントの年であること・・・この年の終戦記念日の時点で、敗戦前に生まれた日本人の割合は50.6%、敗戦後に生まれが49.4%と、戦争体験をめぐってもちょうど世代の入れかわる過渡期が訪れていたのである。(P96)

1970年代は、69年に社会人となった小生にとっても、仕事、結婚、家庭・・・、人生の大きな転換期でもありました。それを重ねて読むと、まさに同時代史的な内容。

1970年
・日本万国博覧会(大阪万博)開催。・よど号ハイジャック事件・三島由紀夫自死(三島事件)。

1971年
・ドルショック・ボウリングブーム・成田空港予定地の代執行・札幌オリンピック開幕・ あさま山荘事件。
1972年
・日中共同声明・ウォーターゲート事件・  沖縄返還。
1973年
・オイルショック・巨人がV9を達成
1975年
・ベトナム戦争の終結。
1976年
・ロッキード事件が発覚し、田中角栄前首相逮捕
1977年
・ダッカ日航機ハイジャック事件・TV完全カラー放送化
1978年
・日中平和友好条約調印。・新東京国際空港(現成田国際空港)開港。
1979年
・第二次オイルショック・スリーマイル島原子力発電所事故。・旧ソ連がアフガニスタンに侵攻。・国内の炭鉱閉山・

等の出来事があった時代。

音楽シーンでは、

前半(1970年から1973年)

郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎が「新御三家」。南沙織・天地真理・小柳ルミ子の「新三人娘」。
フォークソングが登場し、男性歌手では吉田拓郎・ガロ・チューリップ・かぐや姫、女性歌手では荒井(松任谷)由実・・・。
トワ・エ・モワ、チェリッシュ、ビリーバンバン、フィンガー5・・・。

中期(1974年から1976年)

森昌子・桜田淳子・山口百恵の「花の中三トリオ」。
キャンディーズ、さだまさし・中島みゆき・・・。

後半(1977年から1979年)

ピンク・レディー。矢沢永吉・アリス・松山千春・ツイスト・サザンオールスターズ・・・。
榊原郁恵・大場久美子・石野真子・・・。

というような具合。

以下は、ちくま文庫の惹句。

「激動の1970年代、男らしさ・女らしさの在り方は大きく変わり始めていた。阿久悠、山本リンダ、ピンク・レディー、西城秀樹、松本隆、太田裕美、桑田佳祐…メディアの発信力が加速度的に巨大化するなか、老若男女が自然と口ずさむことのできた歌謡曲の数々。その時代の「思想」というべき楽曲たちが日本社会に映したものとは? 衝撃の音楽&ジェンダー論。」

そして、この本の構成は、

Ⅰ 愛しさのしくみ

1愛があるから大丈夫なの?―結婚という強迫

2あなたの虚実、忘れはしない―母性愛という神話

戦争を知らない男たち―愛国のメモリー

Ⅱ 越境する性

4うぶな聴き手がいけないの―撹乱する「キャンプ」

やさしさが怖かった頃―年齢とジェンダー

6ウラ=ウラよ!―異性愛の彼岸

Ⅲ 欲望の時空

7黒いインクがきれいな歌―文字と郵便 

いいえ、欲しいの!ダイヤも―女性と都市

9季節に褪せない心があれば、歌ってどんなに不幸かしら―抒情と時間

どの章を取り上げても興味深い話題ばかり。筆者の分析、評価の緻密さに引き込まれてしまいます。

性差をめぐる方法論を念頭に、かつて聴いた流行歌を改めて思い出してみると、リアルタイムでは意識しなかったいろいろな問題の断面が見えてくるのでした。とりわけ、それまではあくまで天才的なコピーライターだと思っていた阿久悠という作詞家は、極めて雄弁なジェンダーの思想家であると思うようになりました。・・・なぜ、我々は歌謡曲の時代を生きながら、その強力なジェンダーの磁場をずっと見過ごしてきたのでしょう。本書の視点が新たな問題提起になれば、と思う次第です。

・・・言葉が光る角度のようなものを考えさせてくれた、けれども「昭和の詩歌」というような文学全集には残らないであろう、大衆詩人としての作詞家たちにささやかな感謝を捧げたい、ということです。(P298)

我々世代が、この書で紹介された歌謡曲をカラオケ(今はコロナ禍でカラオケに行くのもはばかられますが)で歌うとき、懐メロとしてだけでなく、少し、その同時代的(あるいは現代にも通じる先駆的なものとして)な意義を思うことも大事ではないか、と。

以下、「昭和ポップスの世界」より阿久悠の作品群。

森山加代子

  • 白い蝶のサンバ

北原ミレイ

  • ざんげの値打ちもない

尾崎紀世彦

  • また逢う日まで 

和田アキ子

  • 笑って許して
  • 天使になれない
  • あの鐘を鳴らすのはあなた

ペドロ&カプリシャス

  • ジョニィへの伝言
  • 五番街のマリーへ

山本リンダ

  • どうにもとまらない
  • 狙いうち

堺正章

  • 街の灯り

森昌子

  • せんせい
  • 同級生
  • 中学3年生

桜田淳子

  • 天使も夢みる
  • 天使の初恋
  • わたしの青い鳥
  • 花物語
  • はじめての出来事
  • 十七の夏
  • 天使のくちびる
  • ゆれてる私
  • 夏にご用心
  • ねえ!気がついてよ
  • 気まぐれヴィーナス
  • サンタモニカの風

あべ静江

  • コーヒーショップで
  • みずいろの手紙

フィンガー5

  • 個人授業
  • 恋のダイヤル6700
  • 学園天国

伊藤咲子

  • ひまわり娘
  • 木枯しの二人

石川さゆり

  • 津軽海峡・冬景色
  • 能登半島

森田公一とトップギャラ

  • 青春時代

都はるみ

  • 北の宿から

岩崎宏美

  • ロマンス
  • センチメンタル
  • 未来
  • 熱帯魚
  • 思秋期
  • シンデレラ・ハネムーン

沢田研二

  • 時の過ぎゆくままに
  • 立ちどまるなふりむくな
  • さよならをいう気もない
  • 勝手にしやがれ
  • 憎みきれないろくでなし
  • サムライ/あなたに今夜はワインをふりかけ
  • ダーリング
  • ヤマトより愛をこめて
  • LOVE (抱きしめたい)
  • カサブランカ・ダンディ
  • OH! ギャル
  • 酒場でDABADA

西城秀樹

  • 君よ抱かれて熱くなれ
  • ジャガー
  • 若き獅子たち
  • ラストシーン
  • ブーメランストリート
  • セクシーロックンローラー
  • ボタンを外せ
  • ブーツをぬいで朝食を
  • ブルースカイブルー

フォーリーブス

  • 踊り子

新沼謙治

  • 嫁に来ないか
  • ヘッドライト

ピンク・レディー

  • ペッパー警部
  • S・O・S
  • カルメン’77
  • 渚のシンドバッド
  • ウォンテッド (指名手配)
  • UFO
  • サウスポー
  • モンスター
  • 透明人間
  • カメレオン・アーミー

郷ひろみ

  • 林檎殺人事件
  • 素敵にシンデレラ・コンプレックス

石野真子

  • 狼なんか怖くない(作曲は吉田拓郎)

Char

  • 気絶するほど悩ましい

大橋純子

  • たそがれマイ・ラブ

八代亜紀

  • 舟唄
  • 雨の慕情

野口五郎

  • 真夏の夜の夢

杉田かおる

  • 鳥の詩

西田敏行

  • もしもピアノが弾けたなら

ザ・タイガース

  • 色つきの女でいてくれよ

小出広美

  • タブー

岡本舞子

  • ファンレター

森進一

  • 北の螢

五木ひろし

  • 契り
  • 追憶

五木ひろし&木の実ナナ

  • 居酒屋

小林旭

  • 熱き心に

河島英五

  • 時代おくれ

今でもほとんどカラオケで歌える曲ばかり。我ながら驚き!


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