おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「線量計と奥の細道」ドリアン助川(集英社文庫)

2021-09-22 21:08:32 | 読書無限

2011年3月11日。東日本大震災。あれからすでに10年半が経過しました。大津波によって多くの人命が奪われ、土地を失い、原発事故によって住み慣れた土地を去らざるをえなくなり、いまだに戻れない多くの人々。自殺など関連死も多く、・・・。

震災の2年後、東北の知人を訪ね、案内して貰いながら仙台から気仙沼を巡り、さらに、それから3年後、機会があって、福島原発事故によって壊滅的になった飯舘などを訪問したことがあります。震災当時のままに放置された家々、すっかり解体され、整地された土地、・・・

その後はいったいどうなっているのか? 地元の方々は? 再訪問する機会に恵まれないのがとても残念です。

「復興オリンピック」という名目もすっかり捨て去られ、コロナ禍でのパラリンピックの開催。その後のコロナ感染症の拡大、医療崩壊。・・・

最近は、新規感染者数も激減し、今月末には緊急事態宣言が解除される、という観測も。はたしてそんな具合にうまくことは進むのか?

そういう思いの中、手に取った本がこれでした。

「忘却と記憶。その分岐点はどこにあるのだろう。」(p7)とまえがきに記した筆者。

「震災の翌年、二〇一一年八月から十一月にかけ、私は放射線量計を携え、松尾芭蕉の『奥の細道』の全行程約二千キロを旅した。折り畳み自転車で行けるところまで行き、あとは列車を利用したり、車やトラックにも同乗させてもらった。」(p10)

「測った線量値を露骨に発表することは、その地で商売をしたり、懸命に生きようとしている人にとってプラスにはならない。しかし、逆の考え方もある。汚染の被害を訴えることができず、半ば泣き寝入り状態になってしまった人々がいる。その声を拾い上げて書くことは、再び原大国に戻ろうとしている今、意味も意義もある行為ではないだろうか。・・・

いずれにしろ、私は自転車行による震災翌年の新しい奥の細道を、ここに公開することにした。忘却があってはならない。特に権力による恣意的な忘却に巻き込まれてはならないと覚悟を決めたからだ。」(P17)

こうして筆者は、8月14日から11月13日まで、東京から行ったり戻ったりしながらの、「折り畳み自転車」の旅を敢行します(「敢行」という言葉がふさわしいようなきがします)。

その記録が時を経て広く公開されました。もともとの本書は2018年7月、書き下ろし単行本として幻戯書房より刊行されました。

それが今回、文庫本として発刊されたわけです。

現在、筆者が測った、当時(震災翌年)のときの放射線量計の値とは、その後の除染作業等で減少しているかもしれません。

しかし、5年前の福島の地で、当方が測った線量計の数値は驚くべき数値でした。除染作業はうわべだけで、まだまだ人々が安心して暮らせるにはほど遠いものがありました。それから5年後、帰還の声は高くなっていますが、はたして現状は?

前半、筆者の自転車行は、白河の関まではほぼ同じ道をたどったことで懐かしく思い出し、また、仙台・気仙沼など地を訪れたことを思い出し(その時案内してくれた方は、震災後の厳しい生活の中で亡くなってしまいました)、一気に読んでしまいました。

その後の『奥の細道』行も、共に旅する気持ちでした。筆者が旅先で出会う多くの方とも親近感を覚えました。不思議な読書経験です。共に笑い、語り、泣き、厳しい現実から逃げずに未来を見つめ、・・・

「放射線量を測って進む旅。被爆に怯えと逡巡や葛藤を抱きながら『生きる』を考えた魂の記録」(裏表紙)というほど肩を張ったものではなく、行く先々の出会い(地元の方々、地元の風物・・・)を通して感じたこと、考えたことを詩人(歌人・うたびと)らしく率直な文体で綴ってあります。

そんな筆者の筆づかいについつい巻き込まれてしまいます。筆者が撮った写真も、筆者の深い思いの程を伝えてくれます。

文庫判あとがきではコロナ禍のさなか、世界中の人々が置かれた厳しい現実を直視し、未来をなんとか見つめていく、そのためには、という問いかけが真に迫ります。

大学の教員になった筆者。

「考えてみれば、小さな折り畳み自転車にまたがって旅をし、日記をつけ始めたのも自分なりの表現であり、自分自身であったのであろう。それがこうして読者に届くことは、希望の具体的な姿だといえる。対立を越えて、多くの人に読んでもらえたらどんなに良いだろうと思う。あの夏の日、懸命にペダルを漕ぎだしたところから始まったつたない筆記を、学生たちも読んでくれるだろうか。いつどんな時代がやってきても、『ここから始めるしかないのだ』ということを理解してくれるだろうか。」(p389)

小さな(安い)折り畳み自転車を愛用する小生。自転車を折り畳み、電車に乗り、車に積み、自転車の旅をしたくなりました。日本海側を歩くのも一興です。

でも、上り坂・下り坂の大変さ、曲がりくねった道路、自動車とすれ違う恐怖・・・。やっぱり、近所を走ることで精一杯ですね。


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