おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

30 『ワルツ』(花村萬月 作)の舞台、新宿

2009-04-18 21:25:22 | つぶやき
 新宿西口。敗戦直後の街。闇の世界。国家権力の中枢が崩壊した混乱期。生き抜かなければならない人々。その混沌を仕切る(仕切ろうとする)人々。組織、集団。 戦争の傷跡も生々しい新宿。食うためには(食わせるためには)どんなことでも実行する強靱な生命力、忍耐力、掌握力。暗躍、裏切り、荒廃、虚無そして暴力・・・。ダイナミックに変化する街を、舞台にした物語。やくざの世界、任侠の世界。切った、張ったといってしまえば、それまで。けれども、そこには、敗戦直後に必死にうごめいていた、日本人の精神と肉体の闘いそのものを感じさせる。実によく当時のことを調べてあって、かなりの長編小説だったが、一気に読み通した。
 この作品は、これまで培ってきた作者独特のこだわりみたいなを感じさせるものがある。その中身とは、人間は、その生きる地、人、世界の中で生きていくしかない、ということでしょうか。
 登場人物は、はっきり言ってステレオタイプの人物が多い。また、話の展開もほぼ予想通り。その点では、鉄火場の場面、襲撃の場面、殺人・・・。そうしたこともさることながら、人間関係の細部のこだわりのところに、この作品のおもしろさがあるのだろう。
 実は、興味深かったのは、そういうことだけではない。上・中・下巻を通して、ある組織の名前が出て来ることだった。「安田組」。子どものころ、無縁の存在ではなかったからだ。すごみのきいた親分の面影。組の若い衆に連れられて、西口のマーケットも歩いたことがある。日本刀を手に持って飛び出す、組員の姿も目撃したことがあった。
 たしか今の新宿駅西口・(青梅街道)大通りのガードの角にあったと思う。その後、そこが、どうなったかは全く知らない。裏には、竹問屋みたいなものがあったような・・・。どういういきさつで関係していたかは、伏せておく。
 この作品は、まったくのフィクションの体裁をとっていて、たしかにそのような気がする。そうした中で、この組名だけが実際にあったものだった。不思議ではある。
 今の新宿。戦後64年。すっかりこぎれいになり、雑踏の街並みの中で、敗戦後の坩堝の喧噪がすっかり忘れさられ、赤裸々な人間模様は、ますます奥深く見えにくくなっている。
 写真は、新宿駅西口付近から青梅街道をのぞんだもの。正面のあたりに組の大きな事務所があった。右手のビルの裏側が「思い出横町」。

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