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「我が国とアメリカによる戦争は世界各地で順調に展開されています。いつも申し上げる通り、戦争こそ平和の何よりの基盤であります。戦争という口から平和という歌が流れるのです。戦争の器でこそ中身の平和が映えるのです。・・・健全な国家には健全な戦争が必要であり、戦争が健全に行われてこそ平和も健全に保たれるのです……」(P91)
田中慎弥さんの小説には今まで接したことがありません。芥川賞を授賞した小説は読みましたが、特別な感想は・・・。
この前、出かけた図書館でたまたま手にしたこの長編「宰相A」。題名に惹かれたわけです。読む進めると、実に痛快で意味深げな内容。結論から言うと、この「宰相A」の「A]とは今をときめく「アベ」を暗示しているのに違いありません。それとアドルフ・ヒトラーのAをも。
「安保法案」を数の力で押し切り、「基地NO !」との沖縄の声も聞こうともせず、アメリカにこびを売り続け、それでいて現憲法はアメリカ占領軍の押しつけだと声高に憲法改定をしゃにむに進めようとするアベ・・・。
Tというイニシャル(氏名を告げても「T」としか把握されない)「私」が、小説執筆に行き詰まって母の墓参りのことを小説に書こうと思い立ち、郷里の駅に降り立つと、そこは英語を話す、アングロサクソン系の人種が支配する「日本国」だった。
第二次世界大戦後、アメリカは日本人から統治権を取り上げ、この国を支配するようになっていた。それまでの日本人は、「旧日本人」と呼ばれ、「居住区」に押し込められている。ただし、首相だけはAと呼ばれる異様に下腹部の膨れた「旧日本人」。
引用した冒頭の部分はこの宰相「A」が英語での演説で(まったく言語不明瞭)、日本語に翻訳された文章がテロップで流されていく場面。
居住区に押し込められた旧日本人から「私」は伝説的な反逆者の「J」の生まれ変わりとされる。「内通者」の旧日本人女性と「私」とがセックスすることに。そのため、拘束された二人は拷問を受ける。その結果、記憶喪失になった「私」は、現在の「日本国」の御用作家の道を選ぶ。
それほど練度が高いものとは思えないが、最近読んだ中では実に小気味よい小説と言ってしまえば、身もふたもないが、ここで描かれた世界が昨今の日本に重ね合わせられるところに、たんなるカリカチュアではすまされない先見性がありそうだ。
田中さんは昨今の政治情勢、言論・文化情勢にかなりご立腹と危機感を持っているようすだ。
それにしても、都知事選の候補者追い落とし記事。週刊誌がこれでもかこれでもかと選挙期間中に載せ、先を競うように某筋に好まれるように記事を仕組む。ジャーナリストを逆手に取った手法。女性票の行方を特定候補に誘導するために。いやはや・・・。
この小説に通じるものはあるや否や。
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