昼の部2つ目の演目は、「音菊曽我彩」(おとにきくそがのいろどり)。
「寿曽我対面」に基づく新作だが、表題にある「音羽屋」、「菊」から分かるとおり、音羽屋、なかでも尾上眞秀君を主役に仕立てた演目である。
だが、違和感を抱く人も多いと思うのは、眞秀君は12歳なのに、兄役の右近は32歳であり、兄弟というよりも親子という方がよいくらい年の差があるところである。
「確執の火種になりかねない音羽屋の襲名問題。なぜ今になって動き出したのか。
「本来、菊之助さんの襲名は'20年5月に予定していた市川團十郎さんの襲名以降に行う予定でした。しかしコロナ禍で團十郎襲名は'22年10月に延期。歌舞伎の世界で最も格式の高い『團十郎』を差し置いて、『菊五郎』を襲名するわけにもいかず、菊之助さんはタイミングを失っていたんです。また、近年の七代目菊五郎さんは健康状態が芳しくなく、立って演技することが難しい状態。松竹としても“七代目菊五郎さんが舞台に立てるうちに襲名披露を実現したい”という思惑があり、W襲名発表を決意したのでしょう」
「愛息を菊之助に襲名させられず消沈しているであろう寺島もまだ野望を抱いているという。
「'23年に中村獅童さんとの共演で歌舞伎座の舞台にメインキャストとして出演して、女人禁制という慣習を打ち破り、新たな前例をつくりました。寺島さんは今後も歌舞伎を続けて、成長した眞秀くんと共演する“母子歌舞伎”を行いたいと考えているんです。歌舞伎は伝統芸能であると同時に、話題や人気が問われる興行でもありますからね。名跡の大きさだけで役者の価値は測れません」
歌舞伎界に新風を起こす姉と、伝統を受け継ぐ弟。ふたりの勝負はまだまだ続く。」
古いタイプのイエにおいては、長男が家督を相続し、次男次女以下はイエを離れて他所に移るというのがデフォルトだった。
農家をイメージすると分かりやすいが、当主が所有する土地には次男次女以下の家族を養うだけの生産力がないため、こうなってしまうのである。
だが、梨園は農家ではないので、次男三男もイエを継ぐことが出来ないわけではない。
例えば、尾上右近は、やや遠いものの、六代目菊五郎の直系であり、「音羽屋」に属しているわけである(尾上右近の家系図紹介!鶴田浩二を祖父に持つカレー好きな歌舞伎のプリンス)。
対して、眞秀君は七代目菊五郎の孫であるが、父親が婿(フランス人)ということで、伝統的なイエ・ルールからすると家督を継げないという話になるのである。
なので、眞秀君×右近というタッグは、伝統的なイエ・ルールに対するプロテストのようにも思える。
・・・というわけで、今のところ、菊五郎襲名の結論は出ていないので、「音菊曽我彩」のポトラッチ・ポイントはゼロ。