明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



5月の個展は、まだ始めてから1年経っていないような手法が主なので、別なパターンの作品も出品してみたい。金閣寺が赤々と炎上している作品もすでにプリント済みだが、ならば青空でもあって穏やかな作品はないか、と引っ張り出したのが三島由紀夫へのオマージュのために制作した戯曲『船の挨拶』による作品である。灯台に常駐する海上保安庁の男。何も変わらぬ日々に飽きている。航行する船に挨拶するように行き交う船舶に向け、今日も信号旗を掲げている。“汝の御安航を祈る”そんなある日、突如不吉な密輸船が現れ、男に向け銃弾を放つ。男はそれを待っていたかのように銃弾に感謝しながら死ぬ。実に三島らしい。 制作当時、アニメ『コクリコ坂から』が公開されており、それも信号旗がポスターにも使われ重要な役割を担っていた。国際信号旗は様々な旗の組み合わせにより数字、アルファベット、送信、受信、回答などが決まっている。“汝の御安航を祈る”は『船の挨拶』が書かれた当時はWAYで1969年に改訂されたのだが、『コクリコ坂から』の舞台とされる昭和38年当時はまだ改訂される前だったにもかかわらず、改定後のUWになっていた。時代考証のスタッフはいないのだろうか。宮崎駿が相手では、私の方が間違っている、と私がそう思うではないか。 最初の個展で作ったピアノの鍵盤を、女の子が数えているのを目撃して戦慄した。自分にとってどうでも良いことでも、観る人によっては、これはピアノの形をしているけどピアノじゃない、ということがあるだろう。以来、どこかでだれかが鍵盤を数えている、と思いながら制作している。



銀座青木画廊「ピクトリアリズム展Ⅲ』5月12日(土)〜5月25日(金)20日(日休)

2016年『深川の人形作家 石塚公昭の世界』 youtubeより

『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載7回「“画狂老人葛飾北斎”」

HP

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