錦糸町の画材屋に材料を買いに行く。北斎が右手で筆を持ち描いている所は断念した。どうしてもポーズが変えられない。逆にいえば描いていない場面にも使える可能性がある。一カットだけであれば、写る部分しか作らない。それは撮影時に、あちらからもこちらからもと、欲を出して撮りたくなるのを避ける意味もある。この一体では、二カットは物にしたい所である。 天秤棒を杖代わりにし、部屋が散らかるたび、片付けずに引っ越していた、どうしようもなくズボラな老人が、頭も髭も綺麗に剃って日頃絵を描いていたとは思えない。今回は頭はペンペン草程度に、無精髭を生やすのも良いだろう。髪振り乱した画狂老人風の自画像が残っているが、顔は険しい狛犬のようにデフォルメしている。 股間からはみ出す、ふんどしで手に付いた絵の具を拭くくらいな事をさせても良いかもしれない。そんな事を考えていると楽しくなって来た。誰も会った人はいないし、構う事はない。部屋が片付けられずに絵ばかり描いているような人間がどんな人間か、私の想像力を絞り出せば、なんとかなるような気がしないでもない。 起き抜けに三島の出品作を数える夢を見た。ほぼ正確であったが、二点知らない作品が混ざっていた。目が覚めていて"夜の夢こそまこと"というから良いのであって、実際寝ていて見る夢は使い物にならず。