本当のことなどどうでも良い、と言い続けながら、実在した人物には律儀になってしまう私であったが、実在したかどうかも判らない、説話上の人物なら、もうやりたい放題だ、と思っていたら、最初の関門に引っかかった。肝心要の寒山詩の序文に寒山が痩せている、と一言書いてある。私の創作なのだし、なんで柔軟に対処出来ないのか。残念な性分である。しかし死んで五十年経った三島にウケようなんて思うのだから、永年あまたの人々のモチーフとされた対象にも敬意を表さずにはいられない。 満更方法がないとは言えない。フーテンの寅を長く演じた渥美清は、若くして片肺をなくしていて体力はない。あの大きめの衣装はそれを隠すのに使われていただろう。それより何よりフーテンの寅を続けられたのは、あの独特の顔、というより頭部の骨格だろう。張り出した頬骨、上下の顎が頬をこけるのを内側から防いでいただろう、精悍さを出すために、奥歯を抜く役者がいるが、その逆である。さすがに最晩年、死期が近い目をしていたが、痩せた首をマフラーで隠せば、顔のラインは相変わらずである。フーテンの寅を永らえさせたのは、そのしっかりした頭骨が貢献していたのは間違いないないだろう。 寒山拾得図が完成した暁に、最初はあんな所から始めたのか、と腹をかかえるには丁度良い本日のブログであった。
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