「常設展示室」原田マハの短編小説である。ご存知のとおり、原田マハはキュレーターとして
美術館で働いていた経歴を持つ。その彼女が、美術館で行われる特別展のような大きなイベン
トではなく、その美術館が所有していつでも鑑賞できる場所を起点として、あるいは原点とし
て物語を書き上げている。ゴッホやルノアールといった著名な作家が登場するが、物語はど
れもその人と家族、なつかしい景色が主役。その作品の秘めた力により、前を向く、一歩踏み
出すというものだ。
キュレーターとして絵画を売る、買う、情報を広めるなどのあらゆる視点をもって活躍してき
た原田マハの唯一無二の特徴が強みとなって物語に反映している。
この本を読むと無性に美術館に行きたくなる。それが、前回投稿した「メトロポリタン美術館
展」にもつながっている(この本を読んでいる途中で出向いた)。
美術館への誘いだけでなく、それぞれの立場でスッと入っていけるこの本は自分が経験したこ
ととしても重なって腑に落ちて
いく。
文庫化に当たり、解説は女優の上白石萌音が担当している。原田マハとも親交がある彼女。
この本の良さはその解説を読むのがいい。愛情が伝わるし、わかりやすい。