母親になったからと言って母性に目覚めるわけではないし、人として、親だから子どもだから
と言って相性がすべて良いとは思えない。
そう思うとこの映画は、あり得るし、よくわかる話だ。
三人妹弟の長女として育った夕子(井上真央)は、夫と二人暮らし。そこに。急な事情で母の寛
子(石田えり)が同居することになる。社交家で、人付き合いの良い母が子どものころから夕子は
苦手。弟の嫁からは、母の荷物が宅配便でどんどん送られてきて戸惑う。パート先で大量の買い
物をして、夕飯のペースまで崩される夕子。そんなとき、小さいが決定的となるある出来事が起
こる。
テレビ番組「Aスタジオ+」に出演していた井上真央は“スーパーの店長をやらせたら日本一“
の宇野祥平とのキスシーンがある。「10回撮った、なぜだろう」と話していたが、そこはここだ
!と構えて観てしまった。確かに、なんで10回も必要だったのかはわからないが、そのトーン
で同じことを10回も繰り返して撮影したのかと思うと、素晴らしい無言の演技なのである。
本当はお酒は好きなのに、好きでないお酒を飲んで酔う演技。井上真央もベテランの域になった
なあとしみじみ感じたシーンだ。
ラストシーンの夕子が母に向けてやっと言えたひと言が、夕子の新たなスタートとなる。
監督・脚本は杉田真一。母親役が石田えりであることにこだわり、説き伏せた。久しぶりにス
クリーンで観た石田えりだが、やはり、この人のためにある役柄だった。善人と悪人のとなりに
ある人物を演じさせたら、これもまた日本一と言っていい人である。
夕子の妹役には朝ドラ「とと姉ちゃん」に出演していた阿部純子。弟役には大河ドラマ「晴天
を衝け」で渋沢栄一の孫・敬三を演じていた笠松将。