まずお伝え。この映画でほろりと泣くなんて思わなかったし、あれやこれのことがありながらも、
最後は多幸感に溢れて劇場を出てしまうし。語りたくなるし、行きたくなるしで。ある家族の日常
を描いただけの物語が楽しすぎた。
娘の優子が社会生活を知る大人目線、義母の早希は子どもで関係性は平行線なのだが、そのまま
平行線をたどりながら距離が少しづつ近いづいていく。ある時は早希の方が大人目線で冷静となり
立場が逆転することも。この距離感が二人の義母娘の関係で保たれていく。二人とも前を向いて進
む。これが心地良い。
近松優子(江口のりこ)はバリバリに仕事ができる大手企業の会社員だったが、突然、理不尽な
リストラに遭ってしまい、尼崎の実家へ戻ってくる。そんな娘を父の竜太郎(笑福亭鶴瓶)は「祝
リストラ」と書いた横断幕で迎え入れる。
巨大な関門“尼ロック”のよって水害から守られているという尼崎。優子は、何もすることがなく、
父と亡くなった母との子どものエピソードを思い出していた。
そんな時「人生に起こることは何でも楽しまな!」という父が突然、再婚をすると言い出す。特
に反対もしない優子だったが、父が連れてきたのは20歳の娘だった! なぜか、家族団らんにこだ
わる早希と39歳の優子が噛み合うはずもなく、むなしく日々が過ぎていく。だが、ある悲劇が起こ
り優子はこれまでの人生を振り返る。そして、少しづつ早希との関係が変わり始める。
若いころの竜太郎は松尾諭、その妻を中村ゆりが演じている。優子の幼馴染で屋台のおでんやを
開いているのは駿河太郎(笑福亭鶴瓶と駿河太郎の絡みのシーンはない)。近松が経営する町の鉄
工所の社員には、佐川満男、久保田麿希。優子のお見合い相手には中林大樹(元気そうでよかった)。
特別出演として高畑淳子。そして浜村淳と、関西出身のキャストばかりで関西人には台詞のニュア
ンスにストレスがなく観ることができる映画となっている。決して大作ではないけれども、口コミ
でおもしろさが伝わっていってほしい作品である。優子の子ども時代を演じている子役たちが、江
口のりこの飄々とした語り口に似せていて、その演技にも驚かせられた。そっくり。
主題歌はユニコーンの「アルカセ」。監督はこれが長編2作目の中村和宏、脚本は西井史子が務
めた。
追記
映画鑑賞後、帰宅途中にスマホを開くと佐川満男氏死去のニュースが飛び込んできた。「うわ、
さっき映画で…」と驚いた。「もう80歳の人間にいつまで働かせるつもりや」の台詞が蘇った。い
や、もっと関西のドラマや映画にまだまだ出演してほしかったですよ。との言葉を贈りたいと思い
ます。