北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

普天間移設問題、グアム島の人口では現行案以上の米軍は引き受けられない

2010-01-18 22:47:32 | 国際・政治

◆グアム基地拡充事務所ポールシンタク所長が表明

 普天間をグアムへ、という案だが、グアム島の人口から物理的に引き受けられない、という回答が寄せられた、本日は普天間移設問題に関する新しい視点として、この話を掲載したい。

Img_8067  最初にハイチ関連。ハイチ地震からまもなく一週間、国際援助の遅れから治安は一気に悪化、全土には非常事態宣言が発令され、米軍をはじめ治安任務支援に続々と展開する中、日本のC-130Hがリビー基地での戦術空輸訓練を終え、20名の医療チームとともにハイチへ展開したが、死者5~20万という21世紀最大の自然災害にどう立ち向かうのか、地震国日本の姿勢を注視したい。

Img_9935  さて、普天間飛行場移設問題について社民党が提示するグアム移転案が事実上不可能であることは過去にも掲載したが、我々は、グアム島自体の人口が18万、という単純な事実を忘れていたようだ。17日、名護市長選挙の公示が行われ、キャンプシュワブ沖合への普天間飛行場機能移設容認で現職の島袋吉和氏と、前名護市教育長で移転反対の立場である稲嶺進氏が立候補した。さて、沖縄県民不在の議論として、社民党や一部政党などから批判を集めている名護市キャンプシュワブ沖合への移設案であるが、事実上、グアムの受け入れ能力も議論には不在となっているようだ。

Img_9466  改めて今度はグアムとして、受け入れが不可能であるとの回答が寄せられた。これは一月十五日にNHKが報じたニュースにて、グアム政府基地拡充事務所のポールシンタク所長が表明したもので、現在18万のグアム人口から考えて、現在計画されている以上の海兵隊受け入れは都市機能の観点から不可能、という解析がだされたものとのこと。

Img_2536  ポールシンタク所長によれば、現在沖縄から受け入れる海兵隊8000名の移転を受け入れることで、海兵隊員と海兵隊宿舎建設などのインフラ整備要員をあわせ、最盛期にはグアム島住民が現在の18万から26万名に達する事が予測され、学校や医療機関などのインフラが不足する恐れがあるとしている。以上の点から、ポールシンタク所長は、海兵隊8000名の移転だけで、グアムにとっては大きな問題であり、負担はこれで充分行っている、それ以上の受け入れは非常に困難である、との立場を示した。そうした上で、普天間飛行場のグアム移設にたいして、反対する、という立場を鮮明に示したかたちだ。

Img_0005  社民党は、アメリカ政府のみならず、グアム政府との会合などの機会をこれまでに設定したのかについて、残念ながら手元に情報はないが、沖縄県民の意志さえ聞けば、ほかの地域住民の声は無視できる、というような考え方のように聞こえてしまう。現時点で海兵隊側としては沖縄本島の戦闘部隊と協同訓練が可能な範囲内での移設を求めていることから、沖縄本島か、その近傍の伊江島というような島々以外に、事実上実現可能性はない。

Img_0060  しかし、それは踏まえたうえで現行案であるキャンプシュワブ沖合への移転案以外の、下地島や大村、富士、そしてグアムへの基地機能移転が仮に可能であったとしてもその地域へは同時に普天間飛行場に展開する部隊の家族や支援インフラの機能も同時に移転することとなるため、受け入れるには人口や社会インフラについて、一定以上の規模が必要となってくる訳だ。グアムの人口18万、という数字を念頭に8000名の海兵隊員と、その家族が移転する、ということを考えるならば、人口は一割以上増加、一時的には五割近くが増加するということになり、このあたりが限界なのかもしれない、とも思えてくる。

Img_9451  社民党としても、18万の人口であるグアムにこれ以上の負担を、という現地からも反対される案以外の提案はあってしかるべきでは、と考える。もちろん、北大路機関としては、第一にキャンプシュワブ沖合、第二に那覇空港をキャンプシュワブ沖合に移転しての海兵隊の那覇基地移転案を示したのだが、幾つか、もちろん実現可能性は低いのだけれども提案の選択肢を提示したい。

Img_6982  条件は、社民党が譲れないであろう沖縄県以外、という条件を踏まえて、ヘリコプターとともに海兵隊戦闘部隊を受け入れることができる地域で、且つ演習場に隣接している地域である。繰り返すが、海兵隊はこれまでの日米合意にあった沖縄本島が一番現実的なのだ、としている。しかし、それが駄目、と社民党が提唱するのならば、せめて何か、というのが主眼。

Img_2906  筆頭にあげるのは、北海道帯広周辺。陸上自衛隊第五師団が第五旅団へ縮小されており。駐屯地面積に余裕があるとともに、帯広空港に隣接している。演習環境も良好である。大村や鹿児島県島嶼部など、九州が候補に挙がっているが、残念ながら九州は、駐屯地の新設が難しい状況だ、一個普通科連隊規模の演習場ならばともかくとして今回は海兵隊のヘリコプターと戦闘部隊が受け入れ、という前提である。

Img_2153  大村の候補案が出ているものの、九州よりは北海道の方が現実的だ。九州は両用戦車両の演習を行える適地が限られているほか、演習場のローテーションを考えても陸上自衛隊の第四師団、第八師団が駐屯していることから、ちょっと九州は難しい、二個師団が島嶼部防衛のために維持されているので駐屯地にも演習場にも空きが無いのだ。

Img_2901  対して、北海道は四個師団が二個師団二個旅団に縮小されており、加えて協同転地演習で実施されているように、浜大樹での揚陸演習が可能でもある。富士地区も静岡での上陸訓練は可能であるが、キャンプ富士を拡大するにしても、在沖米軍海兵隊を受け入れるには面積的な限界がある。帯広も然別演習場は、決して十分な面積とは言えないが北海道大演習場などに近く、ヘリコプターを機動運用する佐世保の揚陸艦には、青森県の海上自衛隊大湊基地があることも大きい。

Img_8822  次案。もう一つは、在比米軍基地跡地の活用である。フィリピン国内の米軍基地はすべて返還されているが、近年、米比関係はテロとの戦いや対中関係により再び接近している。もともと基地としてのポテンシャルは、在日米軍よりも在比米軍の方が重視されており、最盛期は多くの米軍基地がおかれていた。

Img_0983  返還後のクラーク空軍基地、スービック海軍基地跡は、経済特別地域へ指定されており、経済特別市域への指定には、その運用に限界があり、成立していないのではないか、という指摘はあるものの、一度商業地域として開発されていることから再び海兵隊の拠点として活用することは現実的に難しい。

Img_9451_2  他方、マニラ近郊のニコルス空軍基地は現在もフィリピン軍が運用中で、アパリ海軍航空基地、フロリダブランカ空軍基地跡地などの利用可能性について、社民党としてはフィリピン政府と意見交換を行ってはどうかと思う。米軍撤退後、フィリピンは中国との間でミスチーフ環礁の不法占拠なろ南沙諸島問題での摩擦があり、アメリカとしてもフィリピン国内への基地再構築は対中戦略の関係上、望ましいこともある訳だ。こうしたなかで、社民党がアメリカとフィリピンの架け橋として仲介を行う事が出来たのならば、連立与党の一員として、対米外交能力の強化という貢献も出来るはずだ。

Img_1577  次案。韓国の議政府に駐屯する在韓米軍第二歩兵師団、米軍再編により一個旅団を除き撤収が予定されているのだが、ここに海兵隊を移転できないか韓国と協議を行う、という選択肢もある。韓国に残る一個旅団はストライカー装甲車を運用する部隊で、この旅団をキャンプハンセン、キャンプシュワブに受け入れ、議政府に海兵隊を移駐させるという案だ。そんな無茶な、ということも言えるが、狭い下地島に押し込める案よりは“まだ”現実的だ。

Img_1578  緊急展開部隊である海兵隊をヘリコプターとともに南北軍事境界線近くの議政府に移駐させるという提案は、北朝鮮の理解が必要になるかもしれないが、日本の政党でほとんど唯一北朝鮮の朝鮮労働党と良好な関係を築いてきた社民党でなければ、説得できないものであり、少々無理はあるものの検討してみるべきかもしれない。また、もしかしたらば、この交渉や結果が南北分断の解決に一役買うこともあるかもしれない。

Img_8270  さて、米軍基地をロシア沿海州や中国内陸部、台湾や北朝鮮に建設できる訳は無いので、帯広、フィリピン、韓国、と提案を挙げてみたのだが、とくに韓国の議政府などは難しい点もあるのだから現実的かと問われれば、キャンプシュワブ沖合を筆頭に沖縄本島周辺ほど移転先として、現実味は無い。しかし、グアムは人口の観点から受け入れることはできないと明確に回答してきたのだがら、社民党も真摯に受け止め、上記のような別の選択肢を模索してみてはどうか、と考える次第。

HARUNA

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コメント (4)
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