◆クイーンエリザベス級のスピンオフ記事
本日は、クイーンエリザベス級についての記事、これは今月の世界の艦船を読んでF-35とは、空母計画を揺るがすほど高価なのか驚いた、という話題から出た記事コメントからのスピンオフ記事。http://blog.goo.ne.jp/harunakurama/d/20091229。
スピンオフ作品は、いろいろとある。映画砂漠の狐と砂漠の鼠、独立愚連隊と遊撃戦(DVD入手失敗した)、Fate stay nightとプリズマ☆イリヤなどなど、多いようなので、Weblog記事も、コメント欄からスピンオフ記事が出てもいいのでは、と考えた次第。さて、海上自衛隊が、22DDHを将来的にヘリコプター搭載護衛艦ではなく、一歩進んだ航空護衛艦として運用する場合、その問題点についての話題。
大前提として、ひゅうが型、19500㌧型護衛艦は、護衛艦ではあり、航空母艦ではない、という前提を置いたうえで、考えてゆきたい。ひゅうが型に続く新しい護衛艦22DDH、19500㌧型護衛艦は、平成22年度防衛予算にその建造費が盛り込まれ、満載排水量で27000㌧以上となるだろう大型護衛艦が、いよいよ建造されることとなった。
22DDH事業仕分、22DDH予算、22DDH建造、22DDHとは、などなど、ヘリコプター搭載護衛艦を検索キーワードとしてこちらのWeblogを訪問されるということも多いので、もう少し掘り下げてみる。かなり方々を掘っているようにも思うのだけれども、記事をもう一つ掘り下げる次第、どんどん掘り下げて、いつか22DDHの話題だけで塹壕か地下鉄が出来ると思う次第。
海上自衛隊が護衛艦の軽空母的な運用を考慮した場合、①艦載機を含めた予算体系、②直衛艦となる護衛艦の数量、③米海軍のような運用にあたる指揮官、④米海軍の空母を護衛した護衛隊群のポテンシャルをどう引き継ぐか、⑤日米の同盟関係という視点からの独自作戦能力について。
これらがF-5様のコメントからの考えるべき命題として提示されていましたので、考えてみましょう。・・・、コメント欄に書くと長くなるので今日の記事の代わりに、という訳ではなく(多分)、今年最初の記事は、22DDHをもっと深く考えてみよう!、という位置づけ(恐らく)。
艦載機を含めた予算体系について。外務官僚と防衛官僚の競合ですが、そもそも両省ともに安全保障を扱う組織ですので、これは致し方ないのだろう、と思います。安全保障は、軍事はもちろん、国際関係から資源外交、疾病予防、食糧確保、社会保障まで含めた広義のものでして、この分担を考えなければならないようにも思います。
防衛省は軍事安全保障全般を防衛力整備により達成し武力紛争を抑止し軍事力により直接的間接的に及ぶ脅威を鎮めることを主管とする機構。外務省は国際関係展開の全般を所管する機構であり、以て国家の対外政策を遂行し国際関係の視点から安全保障を担い、在外邦人の権利を保護することを主管する機構。縦割りではなく、日本国家国民への安全と利益を以て世界への安寧と平和を追求するという一つの目的に向かっているため、相互作用は決して不利益にならないだろう、と考えることができます。
他方で、仮にF-35のような高価な航空機を多数、海上自衛隊が護衛艦に搭載するために航空集団に装備させることを考えた場合、予算体系での航空自衛隊戦闘機調達との競合は起きるでしょう。これは、冷戦初頭に核戦力の投射手段として米海軍の超大型空母から運用する核攻撃機か、空軍が構想する長距離戦略爆撃機による戦略核兵器運搬か、大きな議論となり、この種の競合は、どういった場合でも起きるもので、こちらも手段は違えど目的は同じであるのだから大きな不利益にはならないのだろう、といえるのではないでしょうか。
直衛艦について。ヘリコプター搭載護衛艦を中心とした護衛隊群は、どういった編成が考えられるでしょうか。海上自衛隊と米海軍の合同演習等の際に、空母を中心として密集した艦隊陣形が組まれているものがあり、迫力がある一枚を観ると感嘆するとともに、こうした機動部隊を年頭にして海上自衛隊の全通飛行甲板型護衛艦を中心に部隊を組むことを考えれば、果たして可能なのだろうか、ということが気になってきます。
しかし、実は航空母艦を中心に艦隊が集まった写真、そうした写真を撮ったことが無いので写真を掲載できないのは恐縮ですが、あれは特殊陣形のなかで広報陣形と呼ばれる陣形で、迫力はあるものの、あそこまで密集する陣形は、実戦では考えられないものです。航空母艦の両脇に駆逐艦が、という陣形は、第二次大戦中では、接近する航空機や潜水艦の攻撃に対して考えられてはいたのですが、現実はそううまくいかなかったようです。
書架から世界の艦船515号(1996年10月号:特集艦隊陣形の歴史)を取り出してみます。元海将寺部甲子男氏の“艦隊陣形とは”によれば、真珠湾攻撃では、空母1隻にたいして真後ろに駆逐艦1隻がつくという編成であったと書かれています。先頭に水雷戦隊と戦艦、後方に主力の空母がつく、という編成となっていました。
前衛が軽巡洋艦と駆逐艦各1隻、続いて三角陣形にて戦艦二隻を中心に両脇を15kmおいて軽巡洋艦各1隻と先頭10km先に駆逐艦1隻という編成、6隻が前衛を務める編成を採りました。空母は、後方に、2×3の陣形で6隻が並び、空母部隊の両翼を15km離れて駆逐艦各1隻が固め、空母の後ろには各1隻の駆逐艦、計6隻が展開しました。殿には潜水艦3隻が後続という、空母6隻、戦艦2隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦9隻、潜水艦3隻、という編成でした。
マリアナ沖海戦の際の小沢部隊は、もう少し充実した編成でしたが、前衛部隊に主力戦艦部隊である第二艦隊が展開するなど、日本海軍の総力を結集した編成といえますので、大なり小なり、航空母艦に充実した護衛をつけるならば、一国の海軍力を結集して、ということは致し方ないのかもしれません。もっとも、逆因果関係で、一国の海軍力を結集してでも守らなければならないのが航空母艦、ということもできるのでしょうけれども、ね。
さすがに第二次大戦中の陣形では古すぎますので、ミサイル時代の空母機動部隊として、1982年のフォークランド紛争におけるイギリス海軍の編成をみてみましょう。イギリス海軍の空母機動部隊は、前衛と主隊、輸送船団という編成より成り、前衛は中距離対空護衛として艦対空ミサイルを搭載した42型ミサイル駆逐艦3隻、その直後に対潜護衛として22型フリゲイト3隻が続きます。
主隊の空母ハーミーズ、インヴィンシブルには、至近距離直衛として21型フリゲイトが2隻つきます。補給船団は最後尾で、前方は空母艦載機ハリアーにより戦闘空中哨戒が実施、周囲には原子力潜水艦が移動哨戒を実施していました。空母2隻の護衛にミサイル駆逐艦3隻、対潜フリゲイト5隻がつくという編成でした。
こうした編成であれば、ヘリコプター搭載護衛艦1隻と、ミサイル護衛艦2隻、汎用護衛艦5隻からなる護衛隊群でも実現可能な護衛といえます。ちなみに、イギリス海軍空母機動部隊は、エクゾセ対艦ミサイルを搭載したシュペルエタンダール攻撃機、そしてミラージュ戦闘機やスカイホーク攻撃機を運用するアルゼンチン空軍の攻撃から、空母二隻を護りきることが出来ました。戦後にエクゾセ空対艦ミサイルは五発しかなかったなど、意外な事実が判明しましたが、ミサイル時代の空母部隊として、一つの戦訓を提示してくれています。
米海軍のような空母部隊の指揮官、これについてはどうでしょうか。海上自衛隊は、はるな、ひえい、しらね、くらま、という四隻のヘリコプター搭載護衛艦を1973年から順次整備し、運用研究を継続してきました。艦船に給油を行う補給艦、そしてヘリコプターの発着を重視するヘリコプター搭載護衛艦は、最高の操艦技術を求められる海上自衛隊の艦船にあって考え得る最も高度な操艦を求められるものです。
他方、ヘリコプター搭載護衛艦の副長には、飛行長があたっており、飛行長はウイングマークをもつパイロットがあたっていますので、護衛艦の運用についてヘリコプターパイロットの視点から的確に補佐する、という運用が採られています。
ここが、通常の護衛艦とヘリコプター搭載護衛艦の異なるところでしょうか。1973年の護衛艦はるな就役以来、海上自衛隊は艦上航空機運用体系を研究構築してきており、ノウハウの蓄積はかなりのものです。この経験を活かせば、ひゅうが型、そして22DDHであっても、日本型の運用を構築することはかなり容易なものとなるはずです。
他方で、海上自衛隊の航空集団は、F-4やAV-8のような戦闘機を運用した経験がありませんので、この点のノウハウは、求められなかったこともあり、現在も今後も、構築するのならば航空自衛隊の整備補給体系と運用体系とともに協力を受ける必要があるでしょう。ですが、SH-60J/Kの艦上整備機構から応用できるものも少なくない訳でして、この点を考えるべきでしょう。
既存の体系を応用するという前提で、艦上固定翼機運用の端緒にさえ就けば、あまり長くない期間で運用体系や整備補給体系は構築できるかもしれません、そういう意味では指揮官養成も行わなければ進みませんが、始めれば実現に向けて前進することは出来ます。日本も中国も、この点同じでして、意欲はあっても動かないよりは、最初の一歩を踏みだすことの方が重要なのではないでしょうか。
米海軍の空母機動部隊を護衛してきた海上自衛隊護衛隊群が、ヘリコプター搭載護衛艦を中心とした独自運用を開始した場合、空母の直衛はどうなるのか、ということについて。この点は、太平洋正面については、海上自衛隊が米軍の護衛から自らの部隊の自衛へと一歩踏み出すことにより、同時にこれまで沿岸防備で手一杯という状況にあった韓国海軍が新しい一歩を踏み出しています。
韓国海軍は、東海第一艦隊、平澤第二艦隊、木浦第三艦隊ともに駆逐艦・フリゲイトの戦隊と防備戦隊を合わせた一昔の海上自衛隊地方隊のような編成で、鎮海基地の第5対潜戦隊だけが機動運用部隊となっていますが、1998年の建国50周年国際観艦式では、海軍に3000㌧以上の大型水上戦闘艦は1隻だけだったのが、今日では、3855㌧のクワンゲトデワン級駆逐艦3隻、5500㌧のチュムンゴンイスンシン級ミサイル駆逐艦が6隻、それにイージスシステムを搭載した10290㌧のセジョンデワン級が1隻、2011年にもう一隻、2012年に最後の一隻が就役する予定です。
このように、大型水上戦闘艦の勢力は、海上自衛隊に例えれば従来型DDHを運用する一個護衛隊群と同規模の能力を有しているわけです。このほか、あぶくま型護衛艦よりもやや小さいですが、ウルサン級フリゲイトが9隻、いしかり型よりも小型ですが、ポーハン級コルベット24隻が整備されています。
1980年第から整備されたもので、遠からず後継艦が必要となりますが、これらの後継艦は、ミサイル艇と、ヘリコプターを搭載するフリゲイトとしてやや大型のものが建造される計画とされています。もちろん、予算的に大型水上戦闘艦に置き換えるならば1:1での代替は不可能でしょうが、海上自衛隊の90年代における二個護衛隊群程度の能力を有することは期待できます。米韓関係を考えれば、海上自衛隊が独立したのちは、米空母を護衛するのは、韓国海軍が担うもの、と考えればどうでしょうか。
最後に日本独自の第一撃能力を保有することについて、アメリカの視点。冒頭に述べたようにヘリコプター搭載護衛艦であって、ニミッツ級のような戦略兵器としての性格を有するものではないのだから、そこまで大袈裟に考える必要なないのかもしれない、と思う次第です。この点で、リチャードアーミテージ氏がその昔、空母の保有に反対する発言を行ったこと思い出しましたが、最近は日本も空母を保有するべき、と大転換した発言があります。
どういった装備品を保有しようとも、諸外国から反発はあるのですし、日本の政治システムから考えて、アメリカという同盟国に相談も無く、憲法上かなりの問題があるだろう第一撃を行う、ということも少し現実的ではないように思える次第でして、独自作戦能力というものも、常識的に考えられる範囲内であれば、日米関係に影響は及ばない、といえるでしょう。
全通飛行甲板型護衛艦は、その有用性について、これまでの護衛艦とは比較できないほどの利点があります。22DDHや、ひゅうが型について、AV-8なり、F-35なり、Yak-141(これは無いか)なりを搭載して、固定翼機搭載護衛艦として運用する場合、現在の護衛艦八隻からなる護衛隊群の運用体系は、文字通り革新的な一歩を進むこととなります。
艦隊防空に関してもイージス艦による極めて高度で洗練されているが受動的な運用から、艦隊の前方に進出し、射程が増大するAMRAAMを用いて(Yak-141には搭載できないね)積極的な艦隊防空任務を遂行可能となる。ひゅうが型や22DDHは、軽空母と揚陸艦双方の特性を有する戦力投射艦としての運用が可能であることとなるでしょう。
飛行甲板に艦上係止すれば、格納庫と併せて相当数のヘリコプターを搭載できることから、CH-47JA輸送ヘリコプター4~6機を甲板に、艦内の格納庫にUH-60JAか輸送用に対潜機材を下したSH-60Kを搭載、国際平和維持活動に対応できますし、必要ならばAH-64D戦闘ヘリコプターも搭載可能になります。
必要に応じて科員居住区の二段ベッドと三段ベッドとすることができるので陸上自衛隊の要員を乗艦させ、国際平和維持活動や緊急人道支援任務にも対応することができるわけです。車両の搭載は、かなり限定的ではありますが、航空母艦が陸上車両を輸送した事例もありますので、対応は充分可能性があるでしょう。
対潜任務中枢艦としても現在のSH-60Kに続いて、より大型のMCH-101を原型としたSH-101が採用されれば、哨戒飛行時間は大幅に増大し、対潜任務は、より広範囲に実施することが可能となるものです。ディッピングソナーを搭載し、大きな機体には多くのソノブイなどの対潜機材が搭載可能であるとともに、水上戦闘艦への順応性は高い機体です。
もともと3500㌧クラスのフリゲイト(はつゆき型で、4000㌧、後期型で4200㌧)での運用を念頭に開発されたヘリコプターですので、従来の護衛艦での運用も可能で、三発機というエンジンの多さを、DDHが整備する、というかたちでの艦隊航空全般の充実、という運用も可能でしょう。
また、SH-60Kのように、機内機材を置き換えることでSH-101にも運用柔軟性を付与する、という構想で整備すれば、必要に応じて対潜哨戒から対機雷戦への掃海ヘリコプター転用も即座に行うことができるかもしれません。様々な困難があるとしても、思い切って乗り越えるに充分な利点を列挙することができ、運用体系を模索してゆくべき、と考えます。
海上自衛隊は、ニミッツ級原子力空母のようなものを、信濃、として整備するのはフィクションの中だけに留めておくべきかもしれません。行うとすれば現在の予算・人員・装備体系を根本的に改める必要はあるでしょう、それを行う勇気を持つのならば別ですが、その分、難易度は高くなります。
しかし、イタリア海軍のカブール、フランス海軍がかつて運用したクレマンソー級、そしてイギリスのインヴィンシブル級のような装備と運用体系、というものならば、実現性は高くなるかもしれません。海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦は、護衛艦ではあるのですが、従来の護衛艦よりは一歩進んだ運用が可能であり、この独自の護衛艦を活かした運用体系を模索することが、日本防衛に関する大きな飛躍点となることを期待したいです。
HARUNA
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