◆第一印象はサイレントフランカー
スホーイがロシア空軍向け次世代航空機として開発を進めていた次世代戦闘機PAK-FAが29日、極東のコムソモリスクナアムーレで初飛行に成功したとのことです。
航空自衛隊が現在進めているF-4戦闘機後継機の選定、F-Xに対してもロシア空軍の次世代機の与える影響はかなり大きいものとなることは明白なのですけれども、印象としてはSu-27フランカーにステルス性を付与させた、いわば“サイレントフランカー”、という印象の機体に仕上がっています。ボーイングではF-15E戦闘爆撃機ストライクイーグルが大きな問題とされた大きなレーダー反射面積を軽減させた新機種として、F-15SE“サイレントイーグル”を開発中ですが、そういう印象、という意味で個人的に“サイレントフランカー”と呼んでみました次第。Su-27は、その究極発展型として軸対象TVノズルを搭載したSu-37フランカーを開発していますが、その機体にステルス性を付与させた、という印象です。第五世代航空機という位置づけで開発されていたPAK-FAは、当初の概念図ではより先進的なステルス機として設計されており、機体全体にレーダーを配置したスマートスキン構造を採用するなど、意欲的な機体、という印象のあった航空機なのですが、初飛行した機体は、Su-27の系統から次世代機に昇華した、というような機体でした。
しかし、さすがは次世代機というだけはあって、機首部分やコックピット周辺にはレーダー反射面積を局限化するためのステルス構造が配慮された形状となっているほか、エアインテイクがこれまでとは外側に配置されています。エアインテイク、エンジンへの吸気口となるこの部分は、そのままエンジンのタービンブレードまで直通する従来の設計の場合、正面から飛び込んだレーダー波がタービンブレードに反射して、レーダーに映る、という難点があります。そこで、脇に寄せることで、エアインテイクからエンジンまでの区画に傾斜をつけることでレーダーに写りにくくするという構造なのですよね、この配慮は、例えばF/A-18CからF/A-18Eを設計する場合に配慮されています。F-15SEに関しては現段階ではこうした配慮があるのかは微妙で、PAK-FAの方が先進的となっている可能性はあります。また、主翼形状やその他可動部分についても配慮は為されているようですね。
東西冷戦終結後のソ連崩壊から、Su-37やMiG-35という新型機をロシア空軍は開発してきましたが、基本的にSu-27,MiG-29というソ連空軍が開発した機体の一部を改修した、という航空機でした。MiG-1.44も施策はされましたが実用化には至らず、今回のPAK-FAで開花した、というかたちでしょうか。さて先ほど、Su-27の系統にある、という表現をしましたが、これは、米国がF-15CからF-22Aへ大きく一気に飛んだのに対して、Su-27/30そして並列複座のSu-32/34、カナードを加えたSu-33/35/37と技術的な模索と研究を継続的に実施し、S-37のような実証機による技術開発の末に大成した機体、つまりF-22Aを天才とすれば、PAK-FAは秀才型の航空機、という表現ができる航空機です。こうして究極の機動性と安定性を具現した、と評価されるスホーイの戦闘機にステルス性が付与されることにより、第五世代機に対して機動力が発揮できる範囲まで接近する余裕が生まれた、ということができるでしょう。
PAK-FAは2015年からの部隊配備を構想しているとのことですが、その頃には航空自衛隊の次期戦闘機も運用を開始しているころに繋がります。なるほど、F-35のように無理に国際共同開発を行わないだけに、仕様変更や政治的思惑、要求性能の変化がないことで初飛行の後の実用化は比較的早い、と考えることも出来るかもしれません。これが日本の機種選定に影響を及ぼす可能性はあります。もっとも、相手がステルス機ならば、こちらもステルス機で、というのは誤解で、相手を捕捉することのできるレーダーが無ければ、対処することはできません。ステルスとは航空優勢確保のための手段の一つ、として理解する必要があるのでしょう。この点の認識がどのように機種選定に反映されるかが興味深いところですね。しかし、それにしても、今回当方はロシアまで撮影行くことができませんでしたので写真こそありませんが、サイレントフランカーというべき、Su-27フランカー譲りの無駄の無い美しい機能美に溢れた機体としてまとまっています。
HARUNA
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