北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ミサイル巡洋艦ワリャーグ、連続して対馬近海を遊弋 海上自衛隊が監視

2010-11-16 22:52:44 | 防衛・安全保障

◆日ソ共同宣言の一部撤回とロシア軍の動向

 ミサイル巡洋艦ワリャーグが対馬海峡を南下したのち北上、Tu-95爆撃機が列島周回飛行に加え、1956年に出された日ソ共同宣言の北方領土に関する部分がロシア側により撤回を突き付けられました。

Img_5747  まず最初に訂正、昨日の記事で潜水艦けんりゅう進水式が川崎造船で行われた、と記載しましたが、川崎造船は川崎重工の完全子会社から今年、川崎重工に統合されました。潜水艦けんりゅう、は川崎重工神戸工場で進水式を迎えた、と訂正します。写真は観艦式における潜水艦そうりゅう。

Img_17955 ロシア海軍の動向について防衛省統合幕僚監部からの発表で、巡洋艦は艦番号から太平洋艦隊のワリャーグのようです。 11月7日(日)午前1時頃、海上自衛隊第1航空群所属「P-3C」(鹿屋)が、上対馬の東約50kmの海域を南西進するロシア海軍のスラバ級ミサイル巡洋艦1隻を確認した。当該艦艇が、対馬海峡を南下したことを確認したhttp://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20101108.pdf

Img_9021  かつてソ連海軍は1979年の東京サミットに照準を合わせて空母ミンスクを対馬海峡へ派遣し、わが国を始め西側諸国に圧力を掛けた事例がありました。ちょうど韓国ではG20サミットが11月11日から、そして横浜でのAPEC首脳会談も近い時期でしたのでロシアのプレゼンスを示すのか、日常訓練の一環なのか、と考えていました。

Img_2638  Tu-95爆撃機二機が日本海から対馬海峡から沖縄本島南方を飛行し、南西諸島から本土太平洋岸に沿って伊豆諸島、そして東北と北海道沿岸を飛行して歯舞諸島上空から国後島と択捉島の間を飛行し宗谷海峡を経由してロシア本土に飛び去る事案があり、航空自衛隊が緊急発進して対処しました、ちょうどG20サミットと同じ時期で、ロシア機による領空接近は珍しくないのですが日本列島を一周という飛行経路は稀有といえます。

Img_9151  防衛省統合幕僚監部HPよりの引用です。ロシア機の沖縄方面への飛行について。件名について、下記のとおりお知らせします。記:1 期日・・・平成22年11月12(金)。2 国籍等・・・ロシアTU-95型2機。3 行動概要・・・別紙のとおり。4 自衛隊の対応・・・戦闘機等を緊急発進させ対応したhttp://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20101112.pdf

Img_9655 そして同じく防衛省統合幕僚監部が発表しました。 11月15日(月)午前2時頃、海上自衛隊第5護衛隊所属「すずなみ」(舞鶴)が、下対馬の南約40kmの海域を北東進するロシア海軍のスラバ級ミサイル巡洋艦1隻を確認した。当該艦艇が、対馬海峡を北上したことを確認したhttp://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20101115.pdf

Img_6049  今回対馬海峡周辺で発見されたスラヴァ級ミサイル巡洋艦も前回確認された艦と同じミサイル巡洋艦ワリャーグです。満載排水量では、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦と、あたご型ミサイル護衛艦の中間で、アメリカの航空母艦を標的とする長射程の大型対艦ミサイルを多数搭載しています。しかし、南下したスラヴァ級が再度北上したのですが、Tu-95の飛行と併せて考えると、最近の日ロ関係との関係も考えられないでもありません。

Img_7470  ロシア太平洋艦隊は、ソ連時代には海上自衛隊を圧倒する規模があり、ミサイル巡洋艦と爆撃機との協同で第七艦隊へ対抗する事を目指していました。冷戦終結とソ連崩壊後のロシア海軍の没落の一方、海上自衛隊はその近代化を継続させ、護衛艦数こそ最盛期よりも大きく縮減されましたが、その艦隊編成は充実しました。

Img_2069  現在は海上自衛隊の規模は大型水上戦闘艦の数ではアメリカ海軍に次ぐ規模で、哨戒機数でも米海軍に次ぐ規模にあります。しかしながら現在、中国海軍の増勢により小型艦を中心にわが国に迫るものとなっている一方、冷戦終結後の軍縮機運がいまだ大勢を占めるわが国では自衛隊の縮小が実施され、除籍艦を代替することが充分に出来ない状況にあります。

Img_3136  他方で近年、ロシア海軍の本格的な復興が始まり、一時は皆無に近かった大型水上戦闘艦や潜水艦の行動が確認されるようになっています。同時に前述した通りの中国海軍の動静活性化がありまして、警戒監視活動に当たる護衛艦の数はその必要性が高まっている状況です。他方で日本側から緊張を醸成している、という状況もあるようなのですが、ね。

Img_7503  ロ、2島返還方針も撤回と報道 56年宣言で日本と交渉せず・・・ 【モスクワ共同】15日付のロシア有力紙コメルサントは、13日の日ロ首脳会談に関する記事で、北方領土問題についてロシアは1956年の日ソ共同宣言に基づき、平和条約締結後の歯舞、色丹の2島引き渡しに応じるつもりだったが、今後は方針を変更し、同宣言に基づいて日本と交渉することはないと報じた。

Img_6434  ロシア側の消息筋が明らかにしたという。同筋は、まず2島引き渡しを実現し、残る島も最終的に返還させるとの「アニメ的」な幻想を日本側が抱いていると批判した上で「これらの島はロシア領であり、この問題を協議することはないというのが今のわれわれの立場だ」と強調したという。

Img_9368   またロシア政府系企業ガスプロムのミレル社長が訪日を中止し、極東ウラジオストク近郊で計画している液化天然ガス(LNG)プラント関連の契約文書が日本側との間で調印されなかったことにも触れ、ガスプロムは日本でなく、韓国を契約相手に選ぶ可能性があると指摘した。 一方15日付のロシア経済紙ベドモスチは論説記事で、ロシアは極東の開発で隣国の協力を必要としており、経済的理由や外交バランス上、中国より日本をパートナーに選ぶ方が望ましいと解説。まず日本に2島を返還し、領土問題の解決を図るべきだと論じた。2010/11/15 22:04   【共同通信】http://www.47news.jp/CN/201011/CN2010111501000842.html

Img_7382  さすがは菅直人首相、1956年の日ソ共同宣言、鳩山一郎総理の業績を一発で消し飛ばしました。さて、領土問題に妥協の余地はないのですが、一方で日米間の普天間問題に起因する不振が抑止力と協同関係に発展する余地から尖閣諸島での日中問題を誘発させ、上記に対する安易な二枚舌外交と領土問題への譲歩余地を見せた事がそのまま日ロ関係の北方領土問題に発展してしまいました。

Img_13561  ロシアからすれば日本側が北方領土に対して意識を持っている事、そしてロシア軍の主力が展開する沿海州から千島列島への艦隊展開の難しさにより日本側が領土的要求を外交以外の手段に訴えた場合への警戒措置をとる必要もあり、今回の行動はその一環と見る事も出来ます。

Img_6529 そうなのですが日本からの視点では、日本から以下に侵攻の予定が無いと強調したとしても、国際社会はその能力の有無で判断しますのでロシアが警戒することになり、ロシアが一方的に日本へ侵攻する意図が無い、としながらもその能力から結局日本周辺や北海道に対する圧力にもなり、日本としても防衛体制を構築する必要がでています。

Img_17818  外交関係は安易に崩壊しやすいという事を端的に示してしまった形なのですが、一方で抑止力の均衡が崩れれば、外交上の失敗と複合作用した際には取り返しのつかない結果にも繋がります。いよいよ新防衛大綱の概要が発表されるまで間近となってきましたが、この点に留意して、防衛力の近代化と規模の確保には重点を置いてほしい、と考える次第です。

HARUNA

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コメント (2)
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