北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北朝鮮軍・韓国軍が砲撃戦 戦闘地域は朝鮮半島南北境界水域黄海側

2010-11-23 16:28:16 | 国際・政治

◆砲撃により韓国延坪島沿岸部が炎上中

 韓国の黄海側西海五島にある延坪島を北朝鮮軍が砲撃し、韓国軍が火砲で応戦しました。数百発の砲弾が発射され、韓国側には海兵隊員を含む死傷者が出ています。

 NHKより引用です。北朝鮮と韓国 砲撃戦に・・・11月23日 16時1分 : 23日午後、朝鮮半島西側の韓国のヨンピョン島に北朝鮮が海岸から数十発の砲弾を撃ち、これに対して韓国側も砲弾を撃ち返し、南北の間で砲撃戦となりました。韓国の国防省によりますと、この銃撃戦で韓国軍の兵士1人が重傷、3人が軽いけがをしているということです。23日午後2時半ごろ、朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国のヨンピョン島に向かって、北朝鮮が海岸から数十発の砲弾を撃ち、韓国軍も砲弾を撃ち返し、南北の間で砲撃戦になりました。住民によりますと、この砲撃で、島の一部の住宅が燃えるなどの被害が出ているほか、島には退避命令が出され、およそ1200人の住民が現場から避難をしているということです。また、国防省によりますと、この銃撃戦で韓国軍の兵士1人が重傷、3人が軽いけがをしているということです。韓国の大統領府によりますと、韓国軍は23日には黄海で通常の軍事演習を行っており、これに反発して北朝鮮が砲弾を撃ち込んだ可能性もあるとみて、北朝鮮の動向を注視しているということです。また、砲撃について、韓国のキム・テヨン国防相は、国会で「北朝鮮側から50発余りの砲弾が撃ち込まれ、これに対して韓国側は自衛権を行使するため80発の砲弾を撃った」と証言しました。南北間では、双方の警備艇が海上で銃撃戦になったことはありますが、北朝鮮が陸上に向かって攻撃したのはきわめて異例のことですhttp://www3.nhk.or.jp/news/html/20101123/t10015404181000.html

 今回の状況ですが、過去の1999年6月15日の第一次黄海海戦(第一次延坪海戦)、2002年6月28日の第二次黄海海戦(第二次延坪海戦)が戦われており、第一次黄海海戦では韓国領海内へ北朝鮮海軍の魚雷艇・哨戒艇5隻が侵入を試み、これを韓国海軍哨戒艇が体当たりで阻止した事で戦闘が始まり、韓国海軍が機関砲射撃により北朝鮮艇2隻を撃沈、韓国側は船体を一部破損したのみで圧勝しました。第二次黄海海戦は日韓ワールドカップの最中に発生、北朝鮮コルベットと警備艇2隻の領海侵入に対して韓国哨戒艇四隻が接近したところ、突如コルベットが発砲、韓国哨戒艇一隻を大破炎上させると反撃の中二隻は撤退、反撃を受けかなりの損害を被ったとの事ですが、大破した韓国哨戒艇はそのまま沈没したため、北朝鮮側が第一次黄海海戦の敗北に一矢報いたかたちとなりました。この種の海戦、銃撃戦はあるのですが、戦闘は継続的に展開した事はなく、もちろんこれは韓国海軍が北朝鮮海軍の規模を圧倒しているためなのですけれども、その後は緊張を保った小康状態となっています。今回は延坪島の島民が全島避難となり仁川に退避中という状況ですので、これがいつごろ解除されるのか、また場合によっては住民が退避した延坪島に北朝鮮特殊部隊が浸透する可能性もありますので、韓国海兵隊の増援がどの程度行われるのか、という事で今後の収束までの過程は異なってくるでしょう。

 今回の事件があった地域は韓国海軍の浦項級コルベット天安の撃沈事案が発生した海域の近くにあり、度々海上での警備艇と哨戒艇による銃撃戦や海上への砲撃等が行われている地域となっています。日本でも離島は国境の最前線、という位置づけにありますが、韓国の場合はもう少し事情が異なります。学校の教科書では北緯三十八度線で南北が分断された、という記載があるのですが、両国の地図を見た場合に分かるように朝鮮戦争により南北境界線は停戦ラインである北緯三十八度線には明確に限られていません。このなかで、南北軍事境界線よりも北側に韓国領土の島が幾つかあり、西海五島、韓国国民からは北緯三十八度要塞、と呼ばれていました。今回事件が発生したのもこの三十八度線要塞の一つに当たります。韓国軍はこの地域にかなりの部隊を駐留させていまして、延坪島の近く、より北上した場所にある白翎島は韓国海兵隊の精鋭一個旅団が駐屯しています。仁川から直線にして200kmの白翎島は農林漁業が盛んで、農産物の収穫も多いことから5000名の住民が生活していて、海水浴場があることから韓国本土からの観光客も少なくないのですが、住民と海兵隊の人数がほぼ同じ、という位置づけにあり、観光客や生活物資を輸送する高速船には海軍の哨戒艇が護衛に随伴する事もあります。観光客が本土から訪れるとのことですけれども、全島要塞化という状況にあり、トーチカや地下砲台、塹壕に偽装された各種ミサイル等も配置されていて常に即応体制が採られており、ここまでの海兵隊の陣地構築に住民が協力的なのは、朝鮮戦争の歴史があるから、とのことです。白翎島は開戦とほぼ同時に北朝鮮軍の侵攻を受けて占領されたのですが、島民が反共義勇軍を組織して山に立て篭もり、韓国軍の増援上陸を受けて北朝鮮軍を駆逐するとそのまま軍民一致となって島を維持した、という歴史があるのです。対岸は12.5km先にある北朝鮮の長山串、人民軍第五軍団が展開しています。

 今回の砲撃事案が発生した延坪島は、白翎島と仁川の中間部分にあります。それでは、今後よろ大きな状況、南北前面衝突に展開する可能性はあるのでしょうか。韓国では北朝鮮がこの地域の緊張を高める背景には、逆に南北前面衝突を避けようとしている表れ、との分析があります。南北軍事衝突を前面武力衝突に向かわせるのでしたら、開城に部隊を集結させ、在韓米軍の展開する議政府回廊を経てソウルを目指す経路を採らなければ、目的を達成できないのですが、こうした黄海での緊張を高めた後では韓国軍の警戒態勢が高まるため、逆に正面を切っての奇襲は行えなくなります。一方で、黄海での緊張状態を醸成することは、韓国に対する北朝鮮の強硬姿勢を示せる訳で、北朝鮮には体制引き締めと政権磐石化という利点があります。あまり露骨な事を続けますと韓国空軍のF-16Kが策源地攻撃を行うかもしれませんし、F-15Kが北朝鮮の航空優勢を奪取して平壌を攻撃することも可能です。しかし、韓国側としてもソウルが北朝鮮人民軍の野砲射程内にあり、軍事境界線付近の北朝鮮火砲は2800とも3000ともいわれていますので、この脆弱性を抱えていると反撃にはよほどの覚悟が要ります。本文の中間あたりから、これを全面衝突というのですが、全面衝突となれば平壌陥落とソウル荒廃、双方ともに難点を抱えている事を熟知しているので、そこまで大きな反撃がないだろう、という北朝鮮の打算も背景にある訳です。しかし、ガソリンスタンドで火遊びをしている状況ですから、何かあれば、一挙に意図せず緊張拡大、という事もあり得るのが恐ろしいのですが。

コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする