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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛省が進める第1師団の首都防衛集団改編構想 現状では反対せざるを得ない

2010-11-28 23:49:13 | 防衛・安全保障

◆第1師団は頭号師団、全自衛隊の模範

 防衛省では、陸上自衛隊改編の一環として陸上自衛隊の全戦闘部隊を統括する陸上総隊の創設と第1師団の首都防衛集団への改編を検討中です。

Img_8432  この中で陸上総隊については、必要性は高いといえます。海上自衛隊では機動運用部隊として自衛艦隊に護衛艦隊や航空集団、潜水艦隊を筆頭に戦闘部隊を集約して、沿岸警備と基地機能維持、教育訓練にあたる地方隊と任務を分けていますし、航空自衛隊では戦闘機を運用する航空団と航空方面隊は航空総隊の指揮下にあります。陸上自衛隊は、陸上幕僚監部の下には戦闘部隊を統括する司令部が無く、そのまま方面総監部が置かれているという現状。

Img_3847  陸上自衛隊では北部方面総監、東北方面総監、東部方面総監、中部方面総監、西部方面総監と長官直轄部隊があって、有事の際には方面隊に長官直轄部隊が支援に充てられるという運用があるのですが、しかし、航空自衛隊と合同で防衛出動に当たる、と考えた場合、航空総隊司令官は陸上自衛隊の誰と調整すればいいのか、方面総監では指揮官の格が違ってきますし、かといって陸上幕僚長も違います。そこで司令部を置こう、これが陸上総隊。この方式は最も陸上自衛隊に求められるものです。

Img_6906  しかし、同時に東京を中心とした南関東と静岡県を防衛警備管区に持つ第1師団を首都防衛集団に改編して、長官直轄部隊として独立させる構想があるのです。これは陸上総隊とセットで考えられているのですが、理由は簡単です、東部方面隊の廃止が背景にある。東部方面隊は、信越地方と北関東を防衛警備管区にもつ第12旅団と、第1師団から編成されています。この地域を独立した方面隊として維持するには相応の意味があるものでした。その重点は新潟県の位置と中部山岳地帯。

Img_5806  新潟。対岸には冷戦時代にソ連があり、北朝鮮による拉致事案も多々発生しているほど、実は防衛の重要地域だったのですが、ここに対岸のソ連太平洋艦隊によって部隊が侵攻した場合、新潟県と群馬県の県境にある谷川岳を制圧されると、あとは水上を経て首都東京まで地形障害が無いのです。

Img_1713  現実問題として、自動車化狙撃師団が二個でも投入されれば、新潟港が占拠され、この地域から首都への脅威が大きくなります。中部方面隊や東北方面隊から支援しようにも新潟への兵力展開が陸上から難しいのは戦国時代以来の常識ですし、関越自動車道沿いに首都に侵入される可能性があって、そのために第12師団の二個連隊を新潟県において、北関東に戦車と火砲を置き、第1師団がこれを支える体制をとりました。

Img_1357  それで、冷戦後は第12旅団が旅団に縮小され、第1師団と第12旅団で東部方面隊を編成しているのですが、第1師団を大臣直轄部隊として独立させれば、東部方面隊は第12旅団だけとなって結果的に方面隊を維持できなくなります、こうして第12旅団を東北方面隊に編入すれば、東部方面隊はその歴史的役割を終えるのですが、方面隊は巨大な幕僚機構を持っていますので、この機構をそのまま陸上総隊に転用しよう、という考えなのです。

Img_3951  しかし、第1師団を首都防衛集団に改編する、というのが良く分からない。第1師団は“1”という数字が全てを示しているように頭号師団です。つまり、全陸上自衛隊の模範たれ、という厳しい掛け声とともに部隊を錬成してきましたし、第1師団、ということに隊員は誇りを持っています。陸上自衛隊から第1師団という名前を消してしまうのでは、これまでの歴史を屑籠に投げ込んでしまうという構図。

Img_4058  また、首都防衛集団ですが、まず市街戦を念頭に置いた部隊の編成、という事が今でも未知数です。イラク戦争でのバクダッド攻略を見る限り一部では戦車が重要性を持ってきているという事なのですが、同時にファルージャ治安作戦では歩兵大隊を多数投入する重要性が認識され、結局中隊ごとに戦車小隊を配属させる方式が成り立ちました。

Img_4126  しかし、市街地の戦闘を考えると通信中継の為にヘリコプターや無人機の必要性が大きいのはソマリアでのブラックシーの戦いで証明されており、一方で近接戦闘では砲兵のきめ細やかな支援の必要性がアフガンで・・・、結局は普通科連隊を幾つかと大きめの戦車大隊、空中機動のヘリコプター隊を置いて特科連隊、必要なのは普通の編成の師団であって、何も市街戦だけを考えた編成になる必要はないのですよね。

Img_7095  地下鉄に地下街、オフィスビルの掃討に、となれば、まあ、首都防衛集団がそれこそ旅団のような小型編成の普通科連隊を十個とか置いて市街戦に必要な頭数をそろえよう、というのでしたらまた違うのですが、そういう話でもない。もっとも、こういう都市の特性は東京に限った事ではないので、全自衛隊に普遍的に求められるものなのですが。

Img_7182  すると、無理して直轄にする意味はあるのかな、と。いや、首都防衛集団が必要なのでしたら、第1師団を機械化して敵主力の市街地での掃討に充てて、第12旅団に東部方面隊直轄のヘリ部隊を全部廻して、それでUH-1とAH-1とOH-6で40機以上になるのですが、この二つを合わせて東部方面隊を東部方面隊:首都防衛集団というように改編した方がいいのかな、と。東部方面隊の名前を残せばいいですし、第1師団も新しい集団に置き換える意味はないでしょう。

Img_7149  結局、幕僚機構は首都防衛集団でも必要になるのですし、東部方面隊をそのまま置き換えたとしても過不足なく、という構図は考えられません。そして大きな問題がもう一つ、それは後方支援。方面隊には方面後方支援隊や駐屯地業務隊の統括に警務隊等の司法業務、基地通信の維持など、それに新隊員教育。

Img_7296  これらは駐屯地ごとに必要なのですが師団や旅団にこうした業務を頼む事は出来ず、方面隊が担ってきました、首都防衛集団を編成した場合、この地域の駐屯地を維持して新隊員教育から駐屯地通信まで統括する部隊は首都防衛集団が全て行うのか、首都防衛集団に駐屯地業務隊等を指揮させれば物凄く戦闘以外の部隊が大きくなってしまいます。

Img_7243  それに方面隊直轄の中SAMやホークミサイル部隊のように全般防空に当たる部隊はどうするのか、まさか首都防衛の中で全般防空を担えるほどに首都防衛集団高射特科大隊に高射群を編入して、7個中隊基幹の高射特科連隊とする訳にも行かないでしょう。新隊員教育も、駐屯地を統括する部隊か方面隊が行っていますので、東部方面隊は必要になります、そのためにも第1師団は維持されるべき、そう確信します。

HARUNA

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コメント (8)
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