◆正体は旧ソ連潜水艦発射弾道弾陸上型
情報の出所が不明確なので、何とも言えないのですが産経新聞が北朝鮮によるムスダン弾道ミサイル発射試験の可能性を報じ、韓国のメディアでも引用し騒ぎとなっています。
来月上旬には日米合同演習が九州沖縄近海で予定されているのですが、ミサイル試験が事実とすれば影響はどうなるのでしょうかね。ムスダン弾道ミサイルは90年代より北朝鮮が開発を行っているとされている弾道ミサイルで、写真が公表されていないため現時点では実在するのかは確証がありません。このミサイルの原型は旧ソ連の戦略ミサイル原潜に搭載されていた長射程ミサイル。
北朝鮮製ミサイルはこれまでスカッドの派生型が基本でしたが今度のは基本が新型、だからこそ騒がれているのです、SS-N-61972-1973年のジェーン海軍年鑑を書架から引っ張り出して調べたのですが、SS-N-6潜水艦発射弾道弾は射程が2780km、ヤンキー級戦略ミサイル原潜に搭載されていました。
これ以前のソ連製潜水艦発射弾道弾は発射において海上に浮上して行う必要があり、潜水したまま発射できるSS-N-6の導入によりソ連海軍の戦略的能力は大きく向上したという訳で、続いて1971年には改良型のSS-N-8が開発されました。射程の大きな弾道ミサイルを中距離目標に向けて運用した場合、より高い天頂を描く軌道で運用し、落達速度を向上させ弾道ミサイル迎撃網を掻い潜る運用も可能、日本にとっても脅威となりますね。
横須賀港外で米海軍のミサイル巡洋艦シャイローがSM-3の搭載を行っている様子が報道のヘリコプターにより撮影され話題となっているようですが、日本のマスメディアはあまりこの話題を報じていません。SM-3は弾道ミサイル迎撃用の長射程ミサイルで、実は射程が1000kmを超える装備、海上自衛隊も保有しています。
報道ヘリに見える位置、と言いますか聞くところでは横須賀軍港めぐりの経路からも何とか見える位置なのでは、と思うのですが、これには見せたい、という意図でもあったのでしょうか、この一点と産経新聞の報道を重ねると、確かに注意を要する情報のようにも思えてくるのです。
さて、このSS-N-6なのですが、発射重量は14㌧、半数命中界いわゆるCEPが1500m程度とされていまして、これ、大きな問題なのですよね。CEPは発射した半数が命中する半径なのだけれども、1500m以内に命中して大きな威力を、という弾頭は、考えれば、ひとつ。
単純に長射程ミサイルとして北朝鮮がこのSS-N-6の設計方式を流用して新型ミサイルを開発して、命中精度の部分について向上させているのならば、CEPを150mくらいとした場合、通常弾頭として充分な威力があります。しかし、もとの1500m程度ですと、弾頭重量が14㌧のうちどれだけを占めていたとしても炸裂して通常弾頭のHE弾頭では目標を破壊することはできません。
早い話がアメリカはSS-N-6の設計を応用したムスダン弾道ミサイルが核弾頭を搭載している事を警戒しているのです。CEPが1500mとしても、20kt程度の核弾頭を搭載していれば、基地や軍港、補給拠点など充分目標を破壊出来ます。こうした脅威が、大規模武力戦争を行う可能性があり、現実に核兵器を先制使用、つまり通常戦力で対応できないような状況では使用する可能性がある国に配備される、という事は重大な脅威となってしまいます。
射程が3000kmを超えていた場合、グアムの米軍基地が射程に収まるという事に足り、太平洋上の米軍拠点はハワイの米軍基地を除けば米本土以西の拠点が北朝鮮の核ミサイルの脅威に曝される事となり、日本国内の嘉手納や横田、横須賀のような戦略拠点の維持や有事の際の日本周辺への展開に大きなリスクが生じることに、重大だ。
南西諸島での、例えば尖閣諸島や先島への中国軍の軍事的圧力が掛かる状態を想定すれば、南西諸島への沿岸監視隊の配置や自衛隊を南西諸島に迅速に展開できるように戦略展開能力を向上させる、という方法があるでしょう。ほかには、空中機動部隊の増強によってもこの目的を達成する事も出来ます。また現状のまま護衛艦隊を近代化すればシーレーンの維持も可能でしょう。
北方からの軍事的圧力に対しては、これが現在の民主党では空洞化と形骸化を侵攻させるような改編が行われそうなのですが、戦車を中心とした重火力により着上陸へ備えるとともに航空優勢確保の態勢を維持するべく、戦闘機の能力向上と機体の近代化を行えば脅威を抑止して対処できます。
しかし、北朝鮮のミサイルに対しては弾道ミサイル防衛を行い着弾する数を低減し、日米が一体となって策源地に対する無力化を行うくらいしか方法がありません。このなかで、米軍の能力を大きく制限する可能性がある、という意味でもムスダンという長射程ミサイルの存在は大きな脅威になります次第。
ううむ、ミサイルの性能が核ミサイルとして運用で実用に達すると判断されれば重大な脅威です。日米合同演習の時期に照準を合わせて弾道ミサイル実験を行ったり、という事があれば一挙に朝鮮半島を含む東アジア地域の安全保障関係は沸騰してしまいますし、冗談抜きでミサイル施設に対する米軍による限定空爆、という可能性も出てきます。
ミサイル実験のほかに、日本の一部地域に対して、演習名目でミサイルを発射してくる可能性もありますし、とにかく日本の安全保障には重大な問題となりますので、長期単位でロシア軍の際整備による北方への圧力、中国海軍の増強によるシーレーンと南西諸島への脅威、北朝鮮の新型弾道ミサイル、考えておくべき必要はあります。しかし、それにしては政府もマスコミも、危機感が足りない。今回実験が行われるという情報が仮に間違いだったとしても、核弾頭を搭載できるミサイルは開発中であり、弾道ミサイル防衛網の整備と早期警戒網の充実、自衛艦隊の近代化と増強、機甲部隊近代化と空中機動部隊の増強、法整備、どれもそう急に必要です。
HARUNA
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