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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北朝鮮による韓国砲撃事案 延坪島1123事件に関する一考察

2010-11-24 22:09:46 | 防衛・安全保障

■北朝鮮砲兵の意外に低いその能力

 本日は、昨日の北朝鮮韓国砲撃事案に関して率直な感想を少し掲載してみます。

Img_7828  第一印象は、ここまで北朝鮮砲兵の能力は低かったのか、という事。陸上自衛隊ではクビになる精度というところでしょうか。今回、北朝鮮軍は最初の十二分で150発を射撃した、とのことで、その後に韓国軍の反撃を受け20~30発を撃ち返したとのことですが、このうち延坪島には70発、一部報道では80発が着弾したとのことでした。しかし、これ半数が外れているのですよね。沖ノ鳥島のような小さな島を狙ったのではなく、列記とした人口1200名の離島を目標として射撃半数以上が外れて、こんな低い命中精度で大丈夫なのか、という印象です。そもそも今回は面制圧が目的で対砲兵戦は想定していなかったのでは、ということもできるかもしれませんが、それならばロケット砲を併用するはずで、野砲だけ、という点の説明がつきません。

Img_5202_1  砲兵、特科火力の命中精度は緻密な作業の集大成に支えられています。例えば砲撃を行う地域の測量を目標と自己の展開位置を可能な限り正確に把握し、射撃を行う場合の風向風速湿度などの気象観測、これをしっかりと行うかで命中精度は1~2ミルほど変わってくる、といわれています。気象観測は基本的な機材があれば行えますし、北朝鮮軍は永久築城というかたちで砲兵陣地を構築していますので測量する時間は何十年もあったはずです、しかしこの精度、北朝鮮軍砲兵は基本的なことができないのではないのか、自衛隊の特科火砲の能力を支えている上記の地道な作業を考えると思ってしまいます。

Img_7891  第二に印象に残ったのは韓国軍自走砲部隊の能力の高さでしょうか。北朝鮮側に民生被害は今回でなかったものだと考えられます、そういうのも韓国軍の反撃で北朝鮮側に民生被害が出ていれば、確実にプロパガンダに利用されたはずなので、これがない、ということはK-9自走榴弾砲の能力がいかんなく発揮されたのだろう、ということです。99式自走榴弾砲と比べれば韓国のK-9自走砲は同じ52口径155mm自走榴弾砲なのですが、日本のは自動装填装置と特科情報装置への自動リンク機能が備えられていますが韓国のK-9は手動装填、M-109A6を52口径化した程度の能力の延長線上にあるのですが、かなり善戦したようです。

Img_5118  陸上自衛隊のFH-70榴弾砲では緊急時の射撃で毎分6発、持続射撃で毎分2発が射撃可能です。実際には悠長に射撃を続けていると反撃を受けるので最大の火力投射と陣地転換を行うのですが、今回は北朝鮮砲兵、NHKの報道では最初の12分間で150発を撃ってきたとのこと、FH-70の特科大隊による効力射に匹敵する規模です。しかし、これに韓国軍が50発応戦すると、反撃は30発にまで低減しているのです。北朝鮮軍は海岸の崖を刳り抜いた掩砲所に火砲を設置しているのですが、ここまで反撃が衰えたところをみると、掩砲所の砲座部分が破壊されてしまったのではないでしょうか。もっとも写真などをみると、かなり海面に近い位置に掩砲所を設置していて、あれでは着上陸対処に水平射撃を加えるには有利でしょうが、対砲兵戦にはそもそも不向きだったおかもしれませんが。さて、北朝鮮が30発の反撃に韓国軍が20発を撃ち返すと、北朝鮮軍の砲は沈黙したようです。一部報道ではK-9自走砲二門にも被害が出たそうですが、逆に二門の被害で済んだのは迅速な陣地転換が可能な自走砲ならでは、ともいえ、陸上自衛隊も将来火砲の自走化は真剣に検討するべきでしょう。

Img_6068  第三に、相手が陸上自衛隊でなくて僥倖だったなあ、という印象です。韓国軍は対砲レーダーを装備していないことは有名でたびたび在韓米軍から導入を開始してはどうかと指摘されています。この話は江畑謙介氏の著書でも紹介されていましたが、韓国軍砲兵隊は島の反対側の駐屯地に展開していたと報じられていますので、恐らく北朝鮮軍は海を隔てて地中にマイクロフォンを設置する音響評定を行ったのかもしれませんが、精度が低すぎました。対して韓国軍は北朝鮮が沿岸の掩砲所から射撃を加えてきた、と報じられていますので前進観測班を北朝鮮が見える位置に進出させて目標の評定と着弾修正が行えたのでしょう。

Img_7958  ただ、この方法は今後北朝鮮軍が後方から152mm榴弾砲などで間接照準射撃を行ってくると対処が難しくなります。この点、陸上自衛隊は対砲レーダーをすべての特科連隊や特科隊に配備していますので、射撃を行った北朝鮮の火砲は迅速にその位置を把握できます。もっとも、陸上自衛隊が相手の場合、射程が10km以上という96式多目的誘導弾が配備されていたりして、文字通りピンポイントで殲滅、ということにもなるでしょうから、こうやって考えると自衛隊の装備というのは進んでいるのですね。

Img_3377  第四、というわけではなく少し離れるのですが新しい心配が。今回は北朝鮮が韓国の離島に対して、特に住宅のある地域に射撃を行い、民間人2名の犠牲者が出た、ということが過去の事案とは異なる事例でした。過去を見た場合、武装ゲリラの侵入事案等で樵が殺害されたり、韓国人拉致事案のように一般市民への被害も皆無ではなかったのですが、しかし砲撃、というのは希有な事例といえます。そこで、今後なのですが、イスラエルに対してイスラム過激派が行っているような散発的なロケット攻撃、このような散発的な長距離射撃が韓国本土のあたりで行われるのではないか、という危惧です。これまで武装ゲリラの浸透か直接大規模侵攻ばかり警戒していましたが、軍事境界線で散発的に発生する銃撃、これを砲撃に置き換えて軍事境界線周辺の非武装地帯以遠に対して行われる可能性、ということも、あり得ないわけではないのですよね。

Img_0597  今回の砲撃は、識者の分析を俯瞰すると背景には国内の体制引き締めなのではという意見や、金正日氏の後継である金正恩氏の指導力誇示、対米交渉の要求などが背景にあるとされていて、これに続く方策として、北朝鮮による三度目の核実験が警戒されているのですけれども、しかし、韓国本土での攪乱の波及のほうが可能性としてあるのでは、と思いました。もちろん、ソウルを砲撃すれば全面戦争ですが、ソウル以外を砲撃すれば、韓国側としても全面戦争や北進は望まないでしょうから、最悪の事態は避けられえるわけです。

Img_1449  こうした器具を杞憂とするためには米韓が一致して軍事演習を展開して封じ込めを行うことでしょう。また、そうした意味でも巨大な後方拠点としての在日米軍の位置づけは重くなってきますので、今政府は日本にできることは何か、ということを考えるとしきりに強調していますが、最たるものは普天間問題の辺野古移転と工法決定そして着手でしょう。また、万一の状況変化に対応できるよう、邦人救出作戦を方式と法整備の面で真剣に検討すること、でしょう。それが第一です、そして南方の中国だけではなく北方のロシアも脅威である、としきりに掲載してきましたが、同時に北朝鮮の情勢もあるわけで、防衛大綱への明記は充分考えるべきです、他方、それができないのでしたら、総選挙も遠くないでしょうし、先送りして次の政権交代後、と丸投げしたほうが、国民の安全と平和には、寄与するかもしれません。出来ないことを認めるのは辛いことですが、それも政権を担う責任の一つです。

HARUNA

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コメント (18)
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