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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

尖閣諸島防衛への一視点⑲ 陸上自衛隊連隊戦闘団の海兵隊海兵遠征隊化案

2013-06-05 23:49:20 | 防衛・安全保障

◆南九州第8師団を三個海兵遠征隊型部隊基幹へ

 実はこの話題、昨年の一月半ばにも扱った話題ではありますが、今回の連載に合わせて。今回のお題は、仮に第8師団を海兵隊編制とする場合、どうすればよいのか、というものです。

Simg_4049 陸上自衛隊の一部部隊を海兵隊化するという与党内での検討、まだまだ検討段階で、どこまで具体的化しているかと問われれば困るのですが、特に西部方面隊隷下にあり、南西諸島に距離的に近く、長い海岸線と演習場環境を有する南九州の第8師団の改編の際に、との模索が行われている、とのこと。

Simg_6436  装備の面ですが、北海道を除く本土の師団や旅団は、牽引式のFH-70榴弾砲を運用し、装甲車よりも装輪車両による緊急展開を念頭に置いた地形防御を想定していますので、元々軽量で、米海兵隊と比較しますと、装甲車の数では実のところ劣っています。この点も含め、考えてゆくこととしましょう。

Simg_0047 それでは陸上自衛隊の海兵隊化について、具体尾的にどういったことを行うべきなのか、という当然の疑問符が湧きます。しかし、陸上自衛隊の基本戦闘部隊である連隊戦闘団、そして海兵遠征隊、この編成の共通点が比較的或ることに着目してみますと、実はある程度装備の改編で実現するのではないか、と見えてくるところ。

Simg_9739 海兵隊、といいますと軽装備の切り込み部隊が上陸用舟艇で上がってくる、という軽い認識で我が国は七十年前に第七師団一木支隊がガダルカナルに切り込み、戦車を含む海兵隊の重火力と複合防衛網の前に全滅しました。実は今日でもかなりの戦力を有し、陸上自衛隊に上陸用舟艇と水陸両用車両を装備するだけでは実現できません。

Simg_9188 米海兵隊ですが、最小の海兵遠征隊、充実した航空戦力に支援された海兵遠征旅団、最大規模の海兵遠征軍と分かれています。対して陸上自衛隊ですが、師団普通科連隊を中心とした2000名規模の普通科連隊戦闘団、旅団普通科連隊を中心とした800名規模の普通科連隊戦闘団があります。

Img_9622 海兵遠征隊は人員2200名規模、一個海兵大隊が隷下に両用強襲中隊、軽海兵中隊、空中機動中隊、火器中隊を以て編成し、支援に砲兵中隊の155mm榴弾砲6門、戦車小隊、軽装甲偵察中隊、水陸両用車小隊、工兵小隊、特殊戦小隊、以上1100名を以て編成され、航空部隊の各種航空機31機と兵站部隊を併せ2200名規模になる。

Simg_2932 主要装備は、M-1A1主力戦車4両、AAV-7水陸両用強襲装甲車15両、LAV-25軽装甲車16両、M-198/M-777榴弾砲6門、81mm/60mm迫撃砲16門、TOW対戦車ミサイル発射器8基、ハンヴィー高機動車68両、AH-1W/Z攻撃ヘリコプター4機、UH-1N/Y多用途ヘリコプター3機、CH-46中型輸送ヘリコプター/MV-22可動翼機12機、CH-53D\E重輸送ヘリコプター6機、AV-8B攻撃機6機、となっています。

Mimg_2360 陸上自衛隊の連隊戦闘団は、一個普通科連隊が本部中隊と四個普通科中隊に対戦車中隊と重迫撃砲中隊か、五個普通科中隊と重迫撃砲中隊を基幹とし、これに戦車中隊、特科大隊か特科中隊、施設中隊、高射特科小隊、衛生小隊、通信小隊を以て編成されます。これは常設ではなく、必要に応じ普通科連隊へ師団から配属されるもの。

Gimg_1141 装備定数は、74式/90式・10式戦車14両、軽装甲機動車20両(北海道の師団では一部代えて96式装輪装甲車20両)、FH-70榴弾砲/99式自走榴弾砲4門乃至8門、93式近距離地対空誘導弾4両、87式対戦車誘導弾16基乃至20基、81mm迫撃砲16門乃至20門、79式対舟艇対戦車誘導弾12基(対戦車中隊)、120mm重迫撃砲RT12門、高機動車、1t半、3t半トラック多数、91式携帯地対空誘導弾10基乃至12基、一部推測が入りますが以上の通りです。

Simg_4493 海兵遠征隊と連隊戦闘団を比較しますと、まず歩兵中隊にあたる海兵中隊と普通科中隊の規模がほぼ同程度であることに気づかされます。戦車中隊と戦車小隊で三倍の違いがありますが、双方とも少数ながら戦車を有している点で共通です。また、迫撃砲火力では陸上自衛隊が優勢、特科火砲火力では特科連隊を持つ師団と特科隊の師団からの特科支援の中間に海兵遠征隊の火力があります。

Simg_2456 日米の部隊間で、圧倒的な差異は航空部隊で、AV-8Bやこのほか海兵航空団はF/A-18戦闘攻撃機も保有しています。ただ、海兵遠征隊は空母の支援を受けないため、強襲揚陸艦より運用可能なAV-8B攻撃機を運用しており、この種の航空機を有していない陸上自衛隊とは、そもそも航空部隊への発想の重大な差、というものが見えてくるでしょう。

Simg_1717 空中機動部隊ですが、海兵隊の航空部隊に対し、陸上自衛隊では空中機動重視の第12旅団でも第12ヘリコプター隊がOH-6D観測ヘリコプター4機、UH-60JA多用途ヘリコプター8機、CH-47J/JA輸送ヘリコプター8機で、同時空輸能力は560名、海兵遠征隊の同時空輸能力が627名ですので、漸くほぼ拮抗する、というもの、対して空中打撃力では劣り、連隊ごとへの航空支援能力では全くかないません。

Simg_7862 陸上自衛隊の海兵隊化に際して、海兵隊の陸上自衛隊の最大の相違点は、海兵隊が砲兵火力と機甲打撃力を航空打撃力に置き換えている点で、これは師団飛行隊にF-2支援戦闘機でも配備するか、相当数の対戦車ヘリコプターを配置するか、火砲で補うか、この点を考える必要があるでしょう。

Simg_2546 ただ、日本の場合、専守防衛を前提とした海兵隊編制ですので、強襲揚陸艦や航空母艦に搭載できるか、という視点はそこまで重要ではなく、海兵隊が航空打撃力に依存している部分の一部は、戦車と火砲の運用継続で補うことが出来るかもしれません。また、これは当然ですが、F-2支援戦闘機にしろ、AV-8Bは生産終了していますのでF/A-18E戦闘攻撃機にしろ、陸上自衛隊の手に余るものです。

Simg_8955 すると、陸上自衛隊の海兵隊化を考える場合、常識的に支援を受けられる航空打撃力は対戦車ヘリコプターや戦闘ヘリコプター程度でありますので、この支援、これは特科火砲と異なり瞬発打撃力と進出能力が高い一方、持続能力と地域占有能力に欠けるものですから、航空打撃力と機動打撃力を如何に均衡点を導き出すかが重要でしょう。

Himg_1081 こういうのも、戦闘ヘリコプターは取得費用を見た場合でAH-64Dで10式戦車の7倍から10倍するものですので、戦車の予算を削って戦闘ヘリコプターを導入しても、精々1機から2機が調達できるのみ、駐屯地祭の模擬戦ならば1~2機で迫力の展示が見られますが、稼働率を考えれば焼け石に水というもの。

Simg_6228 他方で、空中機動力は海兵隊運用の根本ともいうべきものですので、連隊戦闘団と同程度の数のヘリコプター隊、そこに2~3機で良いので戦闘ヘリコプターを有する部隊を配置する必要、財政的には覚悟、というべきでしょうか、考えなければなりません。第12ヘリコプター隊の定数を新規導入する場合の取得費用は700億円程度、第8師団を改編する場合は四個普通科連隊所要ですので2800億円、財務省が悲鳴を上げそうで怖いのですが、なんとか確保しなければなりません。

Gimg_1175 ただ、第8師団隷下の普通科連隊には即応予備自衛官主体のいわゆるコア化普通科連隊が一個あり、全国のコア化普通科連隊の方面混成団への管理替えという趨勢に鑑みれば、三個普通科連隊所要の航空機と装甲車で対応できますので、この場合整備するのは60機の2100億円と水陸両用強襲装甲車45両、LAV-25軽装甲車48両、となります。

Img_1781 機動打撃力と全般支援火力は、航空機に置き換える場合、24機のF/A-18E飛行隊、F-35A戦闘機でもよいのですが、これで特科連隊を特科隊へ、戦車大隊を戦車小隊基幹の増強戦車中隊へ縮小できます、が、これをやると更に2000億円から2400億円の積み増しに、新しい航空教育体系が必要になり、財務省から病人が出てしまいますので、戦車大隊と特科連隊を維持する方向で航空打撃力は断念すべきでしょう。

Simg_9402 さきほど、AH-64Dを10式戦車一個中隊分の予算で導入したとしても僅かしか導入できない、と指摘しましたが、F/A-18Eなども同様です。ただ、空中打撃力を確保しなければヘリボーンが行えなくなるため、F/A-18Eの導入は非現実的ですが、せめて一個連隊戦闘団あたり、2~3機程度のAH-64Dを配置しなければなりません。海兵隊がAV-8Bを6機とAH-1Zを4機で対応している部分を、火砲と戦車で補うのですが、航空打撃力をすべて省くことはできない、ということです。

Img_3974 ヘリコプター隊三個分、ヘリコプター隊は、第81ヘリコプター隊、第82ヘリコプター隊、第83ヘリコプター隊、と仮称します。第7師団が第7戦車大隊から第1戦車団の戦車を受け入れて機甲師団化した際に、第71戦車連隊、第72戦車連隊、第73戦車連隊、としましたので、この応用として仮称としました。

Simg_1363 蛇足ながら、東部方面隊隷下にある第12旅団の第12ヘリコプター隊を管理替えし、その分第8戦車大隊の四個中隊より一個中隊を抽出して第12戦車中隊を編成、第8特科連隊の第四大隊と第五大隊の六個中隊を第12特科隊か同じ東部方面隊の第1特科隊に編入し特科連隊化、相互の装備を融通し合う、ということも、選択肢となるのでしょうか、そうすると第12ヘリコプター隊の駐屯地が空き、沿岸部で津波へ危険のある木更津駐屯地の第1ヘリコプター団を内陸へ転進させることもできます。

Gimg_4136 装甲車ですが、陸上自衛隊では一個普通科中隊と本部管理中隊に軽装甲機動車が配備されています。これは小型装甲車として軽機関銃や対戦車ミサイルを運用するものですが、対して海兵隊は火器管制装置と安定化された25mm機関砲を搭載するLAV-25軽装甲車、それにAAV-7水陸両用強襲装甲車を装備しています。

Mimg_1351 この点で、陸上自衛隊は水に浮く、というものも含め、もう少し装甲車を強化しなければなりません、LAV-25で62両、AAV-7で60両、LAV-25はピラニア1装甲車の派生型で車幅が日本の道交法上の車両限界の範疇ですので、設計は古いですが、ライセンス生産を考えてもよいかもしれません。そして、普通科連隊へ装備すれば、軽装甲偵察中隊としての運用が可能と言えるもの。

Img_8097 AAV-7ですが、参考品として陸上自衛隊への導入が始まります。かなり大きな車両であり、師団隷下に水陸両用装甲大隊を編成し、戦車大隊のように必要に応じて連隊戦闘団へ配属する方式が理想でしょう。そういうのも、水陸両用装甲車は上陸訓練を行う必要があり、内陸部の普通科部隊駐屯地などに分散配置する場合、その訓練が難しくなるためです。

Aimg_1405_2 大隊隷下の軽海兵中隊ですが、これは複合ボートによる機動運用を行う部隊です。基本的に沿岸部の確保に向かう第一波となる部隊で、西部方面普通科連隊などでは既に研究を進めていますが、上記の訓練という面では、内陸部の普通科連隊駐屯地から訓練へ向かうことは難しく、こちらも師団直轄部隊、とする必要があるやもしれません。

Mimg_6916_1 他方、高射特科ですが、海兵隊では海兵遠征隊は海軍イージス艦の防空支援を受ける前提で行動するため、スティンガー携帯地対空誘導弾しか装備していません。他方、これを海上自衛隊の運用にも併せ、陸上自衛隊への防空部隊としてイージス艦などを展開させることが現実的に可能か、それとも高射特科部隊を維持するかで、考えておく必要があるでしょう。

Aimg_2034 第8師団を改編する前提で考えますと、第12普通科連隊、第24普通科連隊、第42普通科連隊、第43普通科連隊、第8戦車大隊、第8特科連隊、第8高射特科大隊、第8施設大隊、第8飛行隊、第8通信大隊、第8後方支援連隊、第8化学防護隊が現編成となっています。

Aimg_7590 これを、第24普通科連隊を管理替えし、三個普通科連隊編成としたうえで、第8飛行隊を拡大改編し、第81ヘリコプター隊、第82ヘリコプター隊、第83ヘリコプター隊、第8戦闘ヘリコプター隊へ拡大改編、ヘリコプター隊は第12ヘリコプター隊に範を採るものとし、戦闘ヘリコプター隊は9機のAH-64D戦闘ヘリコプターを、必要に応じ分散運用、師団全体で69機のヘリコプターを運用するものとします。
Bimg_5366 特科連隊は、維持の方向ですが、全般支援火力を供する第五大隊は師団運用上支援できる範囲外での任務となるため廃止し、三個特科大隊24門を基幹とし、火力戦闘車の装備を将来考えず、機動力が高いFH-70榴弾砲の維持を行い、特科隊と特科連隊の中間程度の火力を有するものとし、高射特科大隊は現状を維持します。師団の策源地防衛へ、81式地対空短距離誘導弾は維持し、大隊編制を採る。

Bimg_2693 戦車大隊は、三個中隊編制とする。このほかの編成は現行の通りとする。若干、火砲と戦車が縮小されるのですが、その分多数のヘリコプターと装甲車と水陸両用車を揃える事となりますので、これは非常に大きな予算措置が必要になります。海兵隊化するならば、予算面で財務省へ政治主導を通し、これによりほかの陸上自衛隊への影響が局限化されるようせねばなりません。

Iimg_1616 第8師団両用任務編制案、司令部付隊、第12普通科連隊、第42普通科連隊、第43普通科連隊、第8戦車大隊、第8水陸両用強襲大隊、第8特科連隊、第8高射特科大隊、第8施設大隊、第81ヘリコプター隊、第82ヘリコプター隊、第83ヘリコプター隊、第8戦闘ヘリコプター隊、第8通信大隊、第8後方支援連隊、第8化学防護隊、以上の通り。

Img_63_81 問題は多いです。特科の対砲兵戦能力をどうするのか、特科連隊の情報中隊が運用する対砲レーダ装置を同運用するのか、やはり全般支援大隊を置くのか、それとも小型の対砲レーダ装置を導入して無人機とともに情報中隊を小隊単位で運用できるようにするのか、という点が一つ。

Img_9752_1 そして、これは第15旅団と警備隊に関する記事にて自ら指摘したのですが、対空レーダ装置など、基本一つしか無い装備を、分散運用を行う前提でどう支援するのか、師団対空戦闘情報システムに当たる簡易型のものを開発し、全ての連隊戦闘団へ配置するのか、護衛艦頼みとするのか、これも考える必要のある一つのもの。

Nimg_4772 以上の通りと書いたのですが、そこまでヘリコプターを集める予算がどこにあるのか、単なる“ぼくのかんがえたさいきょうのじえいたい”、という印象になってしまいましたが、本気で海兵隊型の編成にするならば、余程の予算的な覚悟を行わなければならない、という一つの事例になってしまいます。

Gimg_4057 ただ、米軍の海兵隊編制を見ますと、この程度がどうしても必要で、やはり米軍は凄い、というべきか、それとも覚悟を決めるべきか。しかし、実現すれば北方の今なお残る脅威へ実力で備える機動打撃中枢である第7師団とともに西方の第8師団、と陸上自衛隊を代表する抑止力の中枢となることは確かでしょう。

北大路機関:はるな

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