北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

政府、THAAD迎撃ミサイルについて将来導入も視野に取得費用及び性能を調査

2013-06-08 00:16:05 | 防衛・安全保障
◆PAC-3射程:15km/THAAD射程200km 
 THAAD,米軍が開発したTheater High Altitude Area Defense  missile、戦域高高度迎撃ミサイルの略称です。FNN等が6月6日に行った報道では、政府は将来の導入も視野に取得費用や性能に関する調査を開始した、とのこと。
Thimg_8587 現在防衛省では、海上自衛隊のイージス艦が運用する超長射程のSM-3迎撃ミサイル、航空自衛隊の高射隊が運用するペトリオットPAC-3迎撃ミサイルによる弾道ミサイル防衛体制を構築しています。SM-3は射程500km、改良型のSM-3blockA1は射程1300kmを期して開発されており、非常に広い空域の弾道ミサイルを迎撃可能です。防衛省では、現在四隻のイージス艦こんごう型、こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかいのミサイル防衛対応改修に続いて二隻のイージス艦あたご型、あたご、あしがら、も ミサイル防衛対応改修を行う方針を示しました。
Thimg_0154 対して、航空自衛隊が運用するPAC-3は、全国の高射隊へ配備されているペトリオットミサイルPAC-2の発射装置をそのまま利用し、運用できるため、既に全ての高射群隷下に配備され、弾道ミサイル脅威に際してのミサイル破壊措置命令では高射群より高射隊を派遣し、都市部や危険区域の防空に充ててきました。その反面、射程は迎撃高度にもよりますが15kmから20km程度で、首都圏を防空するには防衛省か新宿御苑へ展開する必要なあるという実情があり、その迎撃範囲の上限が指摘されていたところ。
Thimg_7112 政府は、迎撃範囲が200kmであるTHAADであれば、PAC-3よりも射程が大きく、加えて高速の弾道ミサイルに対しても迎撃能力を有することから関心を示しており、米陸軍は青森県の航空自衛隊車力分屯基地へ、THAADのレーダー部分であるAN/TPY-2を既に展開させており、近く京都府の航空自衛隊経ヶ岬分屯基地にも配備する方針で、小野寺防衛大臣は五月のグアム訪問の際に、グアムへ展開している米陸軍防空砲兵部隊のTHAADについて、視察を行いました。射程200km、参考までに東京都庁から愛知県庁までの直線距離が260kmです。
Thimg_7102 ただ、THAADミサイルはペトリオットミサイルPAC-3が航空機迎撃用に既に全国に配備されていたPAC-2の機材を利用出来たのに対し、全てTHAADは専用装備であることから取得費用が数千億円規模となるため、防衛省としては導入に慎重となっています。特に、戦闘ヘリコプターや護衛艦、新戦闘機など導入が急がれる装備が年々先送りとされている一方、防衛予算には厳しい財政状況を背景に上限があるためで、2009年7月5日に毎日新聞がTHAAD導入を検討していると報道した際にも翌6日の防衛省次官会見において否定しています。
Thimg_6319 一方、THAADはPAC-3が迎撃を想定する準中距離弾道弾よりも高速で飛翔する中距離弾道弾への迎撃能力を有しています。弾道弾は、射程800km以下の短距離弾道弾、射程800kmから1600kmの準中距離弾道弾、射程2000kmから6000kmの中距離弾道弾、射程6400km以上の大陸間弾道弾に区分され、射程が大きくなるほど高い高度を飛翔するため、落下速度が大きくなり、迎撃が困難となるのです。これは、THAADがPAC-3と比較した場合、射程以上に迎撃能力が高くなることを意味し、レーダ装置の索敵範囲もペトリオットよりも遙かに遠距離に及ぶ。
Thimg_0266 我が国へのミサイル脅威では北朝鮮の、ムスダン中距離弾道弾のロフテッド軌道による攻撃が最も迎撃困難な目標です。中距離弾道弾でも、ロフテッド軌道という、敢えて近距離の目標に対し高い高度まで飛翔させ高速度で落下させる方式で、単純に我が国を射程に収める準中距離弾道弾のノドンミサイルなどのミサイル脅威が強調されますが、PAC-3でのノドン迎撃の可能性は、もちろん万全とは言えないまでも性能上は一定程度あるのに対し、ムスダンのロフテッド軌道には、限界も考えられる、ということ。
Thimg_7092 他方、THAADの導入は、中国の我が国を射程とする核ミサイル脅威に対しても、一定の抑止力を有することとなります。中国が我が国中枢を射程に収める中距離弾道弾は東風3型/DF-3の100基と準中距離弾道弾の東風21型/DF-21の90基で、対インドや対ロシア用としての性質をもちつつ、我が国に対しても中距離弾道弾と準中距離弾道弾40発程度が指向されている、とされます。この点、我が国は中国からの核恫喝を受けた際、イージス艦とPAC-3の展開に一定の時間を要するため、現状では即応体制に上限があるのですが、THAADにより基地から即座に要撃する能力を得るでしょう。
Thimg_8688 中国も大陸間弾道弾を装備していますが、旧式の東風5型/DF-5が20基程度、比較的新しい東風31型/DF-31が10基程度、東風41型/DF-41は開発が予定期間を越えて継続中で、この中で大陸間弾道弾はアメリカの核戦力に対する対抗手段として温存する必要があるため、我が国に対して大陸間弾道弾を使用することは、例えば自衛隊が北京を占領しつつあるようなあり得ない状況でも生起しない限り、起こりえないといえます。結果、現実的に我が国へ向けられる核ミサイルの中で、THAADはロシア軍の大陸間弾道弾を除く全てを迎撃可能、ということ。
Thimg_8800 このようにTHAADは、射程面でイージス艦のSM-3とペトリオットPAC-3の中間を担うものであると同時に、中距離弾道弾への迎撃能力を有することとなります。取得費用は天文学的に近いほどに高いものではありますが、核の脅威から、特に今まで先制攻撃か降伏以外に打つ手なし、と呼ばれた核ミサイルとしての中距離弾道ミサイル脅威に対しても、一定の防護の傘を日本国内すべての人々に供することが出来る事を意味します。我が国の核恫喝への防衛について、我が国の核武装という可能性は考えられないことから、迎撃手段を強化する、これは重要な選択肢といえるわけです。
北大路機関:はるな

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