◆二ヶ月半に渡る警戒態勢は一応の収束
NHK等の報道によれば、政府は現在継続しているミサイル破壊措置命令を終了する方針を示しました。
防衛省によるミサイル破壊措置命令は今年4月7日、北朝鮮が日本海側のミサイル発射施設へ、弾道ミサイル部品を搬入し、組み立てを開始している状況が衛星写真などにより判明し、万一我が国へ発射された場合に備え、人口密集地域などへの落下を事前に防止する観点から発令されたもの。
このミサイル破壊措置命令は、これまでの破壊措置命令が北朝鮮の発表した発射実験の経路と時間の情報を得てのものではなく、朝鮮半島の緊張に伴い弾道ミサイルの発射準備を進めている状況に応じて実施したものであったため、どの経路で発射されるのか、いつ発射するのか、しかいのか、判明しないものとなっていました。
このため、弾道ミサイル迎撃部隊は日本海上にイージス艦を二隻配置すると共に全国の重要地域へペトリオットミサイルPAC-3高射隊を展開させつつ、これまでのミサイル破壊措置命令のような落下地域へ重点配置を行うという選択が出来なかった、という点で異例といえたやもしれません。
したがって、防衛省は弾道ミサイル迎撃部隊の配置について詳細な配置を公表せず、これは仮に今回のミサイル発射が軍事的な意図を以て使用される場合、重要な防護地域での防御体制を報じる事に対し、同時にこれは配置していない脆弱性の高い地域を公表することにもなったため、ある意味仕方なかったものではありますが。
上記の通りの事情はありつつも、着々と飛来に備えていたことも今回の迎撃態勢の特色と言えるものだったでしょう。また同時に4月18日、高射教導隊の装備を管理替えする形で、那覇基地の第5高射群へPAC-3が配備されることとなり、これを以て全国すべての高射群へPAC-3が配備される態勢が完成しています。
こうして警戒態勢が維持されると共に、北朝鮮側の弾道ミサイル発射準備態勢が一部解除されつつあるとの情報が入り、5月11日には警戒態勢の縮小を防衛省が発表、日本海へ展開している二隻のイージス艦のうち、一隻を通常任務へ戻す措置を執りました。
ミサイル迎撃態勢が維持される一方、5月28日には、PAC-3は元来都市防空用ではなく基地や港湾などの拠点を防護する装備であるため射程が小さいことが問題視され、ミサイル発射の兆候が示されるたびに配置されている基地から都心部へ逐次対応するのでは即応性が低くなるとし、都心部への常駐を政府が検討していることが報じられています。
更には6月に入り、政府は現行のPAC-3が有する射程15kmから20kmに対し、射程が200kmと大きいTHAAD:戦域高高度迎撃ミサイルの導入を視野に、米軍がグアムへ展開しているTHAADへ性能や取得費用などの調査を開始したことが報じられ、話題となりました。
この間、国籍不明潜水艦の南西諸島領海接続水域への潜航侵入事案や南西諸島の緊張継続など、様々な事案があり、我が国を取り巻く安全保障環境の縮図のような二か月半ではありましたが、一応、今回の警戒体制は収束されることとなり、イージス艦やPAC-3部隊は基地へ戻ることとなります。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)