◆技術革新を取り入れる手法の模索
国際共同開発、防衛産業を考える上で内需に上限がある以上、開発費をどう考えるか、という視点から過去二回に渡り掲載していますが、技術革新という前回の視点からもう少し掘り下げてみましょう。
火炎放射器、迫力のある装備であり、第二次大戦中より火力拠点への強襲に大きな威力を発揮してきました。ある程度遮蔽物から運用でき、文字通面制圧が可能な装備であるため、大きな威力を有するのですが、1982年のフォークランド紛争では火力拠点制圧への対戦車ミサイルの有用性が確認されています、もちろん、我が国では火炎放射器、つまり携帯放射器はほぼ維持装備扱いで、火力拠点強襲には無反動砲などが多用されているのですが。
さて、自衛隊の防衛装備品ですが、王道を進むものであれば、例えば多機能レーダと火器管制装置や、防空能力に優れた誘導弾に射程と命中精度に優れた誘導弾など、いわば目的が明確になっているものの水準は何処までえも完璧と言えるものに向かってゆく技術力はあり、この点は前回も触れています。
ただ、新しい概念、というと少々不安なものが生まれます、特定分野を伸ばしてゆくことは我が国の技術上得意なものが多く、これは民生品分野でも端的に表れているのですが、新しい概念を構築し、、マネジメントし、一つの新しい技術革新を起こすという分野では、やはり我が国はアメリカに及ばないのではないか、とも。
幾つか考えますと、9mm機関拳銃について、例えばそのホルスターを初めて見た際、余りもの大柄に、開発時期が重なるMP-7個人防護火器を導入していれば、最近は特殊作戦群用に4.6mm短機関銃(B)として少数調達を開始したようですが、伸縮式銃床と小型高速弾による近接能力の高さ、それに専用ホルスターのコンパクトさとともに、幹部要員の自衛用として、もう少し役立ったのではないか、と思ったりしました。
喩えを挙げればきりがないのですが、特定分野の能力を積み重ねることでその分あの能力が高まる半面、世界の潮流に注意していなければ置いて行かれる事例として、湾岸戦争終戦後のペルシャ湾多国間掃海任務へ、海上自衛隊の、第二次大戦中に敷設された機雷の処理において世界でも有数の経験と能力を持つと思われた海上自衛隊掃海部隊が、新型機雷に対する十分な納会能力を持たなかったため、おお急ぎでフランス製掃海器具を導入した、という事例もあります。
航空自衛隊は、防空自衛隊と呼ばれても仕方ないほどに航空優勢確保への注力に一本化し、空軍機構が航空阻止の一環として航空打撃と戦力投射への前提として航空優勢確保を行うという視野から進まず、90年代に北朝鮮の弾道ミサイル脅威が高まるに及んで漸く、策源地攻撃、分かりやすく言えば北朝鮮ミサイル施設を航空攻撃で叩き潰す必要性に見舞われ、その能力整備と装備研究に大わらわとなったのは御承知の通り。
この点で、戦力投射の重要性は憲法問題とも絡む一方、日本本土での米軍機低空飛行訓練が実施され、騒音問題などが取り上げられると共に、想定脅威地域と類似した地形を選んでの橋梁や地上施設などへの航空攻撃訓練の実施は、その目的が航空打撃戦を想定していたものという事は当然分かっていたのですから、為政者と防衛当局者共にこの問題を放置したことの怠慢を指摘されても仕方ないでしょう。
防衛省自衛隊は、90年代末を転換点として、海外での装備展示行事等に一定規模の要員を継続して参加させることで情報収集を継続しています。それまでは情報を商社からの提示に頼るところが大きく、並んで米軍との共同訓練などを通じて得るものが多かったのですが、米軍の装備が世界標準化と言いますと、米軍は世界での運用を念頭に置いているため汎用性の重点は置かれているものの、それ以外の面では限定された性能を有しています。
根本的に遅れているのは無人機が代表とされるものでしょう。実は日本と無人機の関係を考えますと、自衛隊の無人機運用は世界的に見て非常に早い時期から開始されていました。これは海上自衛隊の無人標的機としての運用で、海上自衛隊が発足した1950年代には既に対空戦闘の訓練用無人標的機が導入開始となっており、無人ヘリコプターDASHでは実任務での無人機運用基盤が構築されていました。
海上自衛隊では、多数の無人機を同時管制し、より実戦状況での脅威とされる多目標飽和攻撃を想定する運用環境を訓練に供する専用の訓練支援艦が建造されています。この訓練支援艦で運用される無人標的機チャカシリーズは、無人標的機ファイヤービーと共に湾岸戦争において米軍がイラク軍レーダーサイト攪乱に囮の編隊を編成し運用した事例がありますので、標的機ながら、それを越えた運用も可能である、という事がわかるでしょう。
ただ、米軍のRQ-1を筆頭に2001年のテロとの戦いより導入した一連の滞空型無人機群は、航空基地からの離発着を可能とし、RQ-4無人機の長時間連続監視任務能力付与に伴う戦域情報優位への発想の転換、RQ-1へのGPS誘導爆弾JDAMやAGM-114対戦車ミサイル搭載によりMQ-1無人攻撃機としての運用能力が付与され、MQ-9などはJDAMやAAMを搭載し、独立した無人機装備体系が打撃力を有するに至っています。
即ち日本は無人機の転換点に対応することに後れを取った、という事で、このMQ-9はあくまで高度な防空能力や空軍力をもたない、所謂低烈度紛争に威力を発揮するもので、我が国周辺の従来型脅威には対応しきれるものではありません。こうした認識はありましたが、今年に入りステルス艦上攻撃機X-47の空母からの発進が実験に成功し、技術的に可能となり、従来型脅威に際してもステルスによる秘匿性を以て打撃力の一端を担えるようになったということ。
新しい無人機という装備体系を前に開発が進むF-35戦闘機は、これら無人機の管制と中継を任務としており、単に航空優勢確保へ特化した航空装備ならば我が国での開発は予算と長期計画さえ財政上認められるという条件付きで為し得ないものではありませんが、世代交代を世界の航空装備体系に強いるようなシステムとしての航空機、もしくは航空機を新しいシステムに組み込む形での全体の計画画定と推進は中々出来るものではありません。
以上を踏まえれば、この防衛産業を考える一連の特集記事での保護主義的な防衛装備体系の国産能力維持と技術革新への追随や開発という難題は、双方ともに安全保障政策上必要な分野を多く含んでいることから矛盾こそしないものの、慎重に均衡点を見出さなければならない、という事がわかるでしょう。
他方、海外装備との運用特性に関する相補不一致は当然あり、その点を充分に早期に関与し、情報収取を行わなければ、我が国での運用に適さない装備品を導入する可能性があり、重ねて技術革新と意気込んだモノが実は見当はずれの産物である可能性も捨てきれず、民主国家である以上事業評価からは逃げることが出来ない実情に鑑み、どれも慎重に考えてゆかねばなりません。すると、どんどんと物事は複雑化し、安易に国産か輸入か、独自開発か共同開発か、という結論が出せない、という結論に至る、これが現段階での最適解かのかも、しれませんね。
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