北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

キューバAGM-114ヘルファイアミサイル誤送問題、アメリカキューバ両国の協力で無事解決

2016-02-18 22:44:41 | 国際・政治
■第二次キューバミサイル危機
 第二次キューバミサイル危機、といえば言い過ぎですが、今月アメリカが2014年にキューバへ誤送していたミサイルが無事アメリカに返還されたという椿事がありました。

 誤送されたのはAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルで誤送先は経済制裁中で国交断絶中のキューバ、元々はスペインへ納輸送される予定のヘルファイアミサイルがフロリダ州からフランスのシャルルドゴール空港へ、そこから何故か手違いによりキューバのハバナ行の貨物機に載せられ、キューバ国内に入ったまま二年間交渉を続け返還が実現したものです。AGM-114ヘルファイアミサイルは我が国でも陸上自衛隊がAH-64D戦闘ヘリコプターの主武装として採用しているほか、海上自衛隊がSH-60K哨戒ヘリコプターに搭載し主としてミサイル艇駆逐用に運用している装備、射程は8kmでレーザー誘導により目標へ正確に命中、ミサイル本体は48kgとこの種のミサイルとしては大型で破壊力も大きい物です。

 ロッキードマーチンは誤送に気づきましたがキューバ当局が押収した後で問題は複雑化しました。AGM-114KヘルファイアIIが誤送されたものと考えられ、これは米国務省が今回のミサイル誤送事案について、“標的の探知能力などで慎重な扱いを要する”ものであったという発言から見てとれます。このK型は発射した航空機等が目標へレーザーを照射し、ミサイルがそのレーザー反射光を認識し目標へ突入するレーザー誘導方式を採りつつ、発射母機による目標へのレーザー照射が例えば敵の高射機関砲等の妨害によって中断した状況であってもミサイル本体のシーカーにより目標を再認識し命中するもので、半自動誘導方式ともいえる装備です。こんなものを誤送するとは、送られた方も驚きですが、まさに、事実は小説よりも奇なり。

 エールフランスが積み替えを行った際の手違いといわれ、アメリカ国防総省は、今回のミサイルが模擬弾であったとしていますが、航空祭などの地上展示に際し航空機へ吊るされる、搭載訓練用の擬制弾ではなく、発射機能を有しており弾頭部分のみを省き命中時に炸裂しない訓練弾を示すようです。訓練弾には炸薬を装填した場合、命中1発で標的を完全に破壊してしまうため、命中の都度標的を再度設置する必要がある事から、発射と誘導機能だけ実弾と同等の装備品が訓練弾として用いられ、スペイン陸軍は欧州共同開発のEC-665ユーロコプタータイガー戦闘ヘリコプターを装備している事からその訓練用のミサイルが誤送されたと分かるでしょう。

 2014年に発生した事案ですが、解決は2016年まで時間を要しました。これには、まずキューバとアメリカがキューバ革命以降国交断絶状態にあり返還交渉を行う窓口が無かった、という状況があります。他方でキューバは社会主義国であり、冷戦時代はソ連との非常に有効的な関係を維持しているほか、キューバから余剰兵器が北朝鮮へ輸出された事例がありました。この事案は2013年7月に発生したものでキューバから北朝鮮のへ向かうパナマ運河を航行中の北朝鮮船籍の貨物船をパナマ政府が麻薬密輸の疑いから臨検したところ、砂糖袋の下からMiG-21戦闘機2機とSA-2地対空ミサイルのレーダー部分が隠されていた、というもの。

 こうした事からアメリカ政府はキューバからヘルファイアミサイルが第三国へ技術流出する事を非常に警戒しており、中国や北朝鮮若しくはロシアなどに譲渡された場合、誘導方式を解析する事で妨害装置の開発や、新規のミサイル開発に転用される可能性があるとして返還交渉を続けてきました。ここで2015年7月1日にアメリカとキューバがキューバ革命以降断絶されていた国交を正常化する事が両国間で合意に至り、オバマ政権が残した外交的成果の数少ない成功例となりました。ここでキューバのハバナへアメリカ大使館が再開され、アメリカ政府はキューバ政府との間でヘルファイアミサイル返還交渉へ移る事が出来たわけです。しかし、第三国へ技術が流失すれば、我が国自衛隊も運用している装備ですので、妨害手段などを開発されたならば、他人事ではないもので、技術流失に繋がれば1976年のソ連MiG-25函館亡命事件に並ぶ深刻度です。

 キューバにミサイルで大騒ぎ、といいますと1962年のキューバミサイル危機、ソ連がキューバへ核弾頭と中距離弾道弾を持ち来んだ事でアメリカがキューバへ全面攻撃と、ソ連製ミサイルが使用されたならばソ連本土へも全面核攻撃を行う核戦争の瀬戸際となった事件を思い出しますが、今回はアメリカの誤送が原因でした。ヘルファイアミサイルの誤送から始まった国交斬絶中の二か国間を挟んだ事案は、こうして2014年の発生から2016年に解決したわけですが、過去には安い運賃にて重要貨物品を表記を隠し輸送した事で、輸送中にこれが発覚し大騒ぎとなった事例もありました。誤送というものは誰にでもありがちなミスではありますが、モノがモノですと大騒ぎとなりますので、日常の作業であっても手違いが起きないようにしなければなりません。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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