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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中国軍、南沙諸島の人工島四箇所に長距離レーダー施設群を建設 米CSISが衛星写真を解析

2016-02-23 19:44:02 | 防衛・安全保障
■南沙諸島南シナ海危機
 中国が南沙諸島へ長距離レーダーを配備しました、西沙諸島への長距離地対空ミサイル配備に続く南シナ海の新しい武力紛争の火種です。

 アメリカのCSIS戦略国際問題研究所は、南沙諸島に中国が造成した人工島の最新衛星画像を解析し、4カ所の人工島で中国軍がレーダー施設を建設中であることを分析、西沙諸島へ建設されたレーダー施設とともに南沙諸島にもレーダー施設を建設し、既存の複数の飛行場設備と併せ、南シナ海全域を制圧する態勢を構築しようとしている具体的な動きであると指摘しています。レーダー施設建設が進むのは1988年にヴェトナム海軍を攻撃し武力奪取したスビ礁とクアテロン礁にファイアリークロス礁、1994年にフィリピンから奪取したミスチーフ環礁で、全て環礁ですが人工島を造成中で三箇所は滑走路が建設中です。

 報道によれば、レーダー設備と推測される2つの塔および高さ20m程度のポールが多数確認できるとのことで可搬式は過去に持ち込んだ実例があると報じられていますし、既に高射機関砲は南沙諸島にも配備されています、しかし、今回報じられているものは陸上設置型の恒久的なレーダーと見られ、既に南沙諸島にある飛行場設備と併せ、実質的に南沙諸島と西沙諸島を基点として南シナ海全域に防空識別圏を設定する方針の表れでしょう。

 この報道の中で特に注視すべきは、高さ20m程度のポールが多数設置という部分で、単なる通信用の設備であるのか、OTHレーダーのような極超長距離探知用二次元レーダーのアンテナ部分にあたるか、というところで、後者であった場合、OTHレーダーは出力次第で探知能力が異なるため、今後の発電施設搬入などから推測するか、電子偵察機を派遣し稼働後に測定する他知るすべはありませんが、フィリピン内陸部分やヴェトナム内陸部分、インドネシアやタイ国内を索敵可能となっている可能性があります。この場合、更に不測の事態が発生し、我が国もシーレーン防衛への何らかの措置を必要とする可能性が出てきます。

 中国は現在に至るまで南沙諸島全域の領有権を一方的に主張していますが、実は中国は南沙諸島に実効支配している島は一つもありません。しかし、低潮高地という干潮時にのみ姿を現し満潮時に全て海没する国際法上島に認められない環礁上にコンクリート建造物を建設し、島であると主張しました。これら環礁はヴェトナムから武力奪取した環礁とフィリピンが監視員を常駐させていなかった環礁を海軍が占拠し離島としており、これら環礁を根拠地として周辺国へ侵略を開始する懸念がある訳です。

 南沙諸島での環礁の人工島造成がそもそもの発端でしたが、人工島造成に要する所要期間の見積もりを、この地域の海洋秩序へ大きな影響力を有するアメリカが想定するよりも遥かに短期間で造成、完全に見誤った事で、事態端緒での予防外交の展開に決定的な後れを取る事となりました。もっとも、中国の建設能力は公共インフラ建設の速度の速さを考えれば、充分な土砂運搬船と浚渫船を使って上海や潮州の埋め立て工事をすすめている訳で、能力的には充分可能であることが指摘されていました。アメリカのオバマ政権が外交だけで解決すると決意を表明し、懸念を毎週のように様々な場において伝え続け、一年以上が経ちました。しかし、どれだけ強い口調でも“外交だけで解決すると決意を表明”は“軍事力使わない決意”表明に他なりません。人工島造成を急がせた背景には、現在のアメリカオバマ政権が軍事的な対抗手段を検討するまで時間がかかるという状況が無関係ではありません。

 航行の自由作戦として、オバマ政権は中国の南沙諸島および西沙諸島での人工島造成や軍事基地増設による南シナ海全域の領有化へ、オバマ政権が可能とする最大限の措置を採り、三か月間に二回程度の割合で、中国が領域化を宣言したが、国連海洋法条約および大陸棚条約に基づく領域基点とならない人工島や係争海域の近海へ海軍艦艇を、文字通り三か月間に二回、展開させています。これでは教授が講義で出欠採る回数と日程を宣言するようなもので、こんなことを繰り返してはどれだけ艦船と航空機を準備しても全面戦争まで緊張は高まり続けるだけで、現状では“航行の自由作戦”ではなく、“行動の自由作戦”として中国に行きつくところまで自然に行かせているかたち、意図して外線作戦に引きずり込み消耗戦に誘うならば、選択肢の一つとして合理的だけれども、単にアメリカだけが自分たちは強硬姿勢を執っているつもりで、それが利いていないだけ、という構図になっている印象です。

 現在アメリカでは大統領選の予備投票が展開されていますが、オバマ政権は二期目であり、三選禁止のアメリカ大統領制度を念頭に現在の対中融和政策が続く保証は無く、更にオバマ政権の外交における延長上としての軍事力の示唆を忌避した事が、ウクライナ問題や朝鮮半島問題と中東情勢に北アフリカ情勢をアメリカへ悪影響が生じるまで放置した現状へ繋がったとの指摘を踏まえれば、次の政権が保守化する可能性が高いことを示します。中国の視点からは、オバマ政権から次期大統領までの期間が一つの期限であり、オバマ政権在職中では米軍介入の口実となる過度な強硬政策を避け、一方で中国融和論がアメリカ大統領選において今後主流とならない限り文字通り“賽は投げられた”という視点から、アメリカが介入しない短期間で持てる資材をすべて投入し埋め立てるという中国指導者の選択肢、ある意味当然ではあるといえるでしょう。

 オバマ政権は中国の軍事力に勇ましい言論でのみ対抗する姿勢を今回も貫くようで、カリフォルニア州において、ASEAN諸国首脳を招く海洋安全保障に関する会議を開催、この中でアメリカ政府は中国の名指しを避けつつ、南シナ海での挑発的な行動を抑制し軍事化を避けるとともに航行および飛行の自由の確保に関与していくことなどを確認したサニーランズ宣言を先週採択しました。サニーランズ宣言から一週間たたずして、先週長距離ミサイルが設置された西沙諸島よりもさらに南で東南アジアの中央に位置する南沙諸島へ緊張が高まった現状となる訳ですが、オバマ政権は現職中どの程度までの軍事行動を許容するのか、勿論、一国の指導者はこうしたことを明かさないものですが、ここまでの行動を見ますと、宣言や話し合いの場所を模索するだけで実際の行動を執る余地はないのか、日米首脳の電話会談などで踏み込んだ討議が必要となるやもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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