北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南沙諸島問題、中国東南アジア進出期する南シナ海の海洋安全保障上最大紛争要素を俯瞰する

2016-02-25 22:53:01 | 国際・政治
■検証:南沙諸島問題
 南沙諸島問題を知るには、そもそも南沙諸島とはどんなところなのかについて知るべきでしょう。X-2/ATD-X先端技術実証機の特集を予定していましたが、今回は南沙諸島と西沙諸島問題をX-2の写真を無関係にはりつつ東南アジアと日本を結ぶ重要海域の現状を以下に挙げてゆきます。

 中国が西沙諸島に戦闘機を配備したとしてさらに緊張度が高まっています、南沙諸島問題は東南アジア地域で永らく続く係争問題で、中国が海軍力により支配を広げようとしている現在進行中の事例です。ミュレーション小説の世界では散々扱われ、森詠氏の“日本中国戦争”に大石英司氏の“南沙諸島作戦発動”や砧大蔵氏の“新機動空母あかぎ3”とラリーボンド氏の“レッドドラゴン侵攻!”などシ東南アジア現代紛争モノでの中国軍かませ犬系ジャンルの一つの定番となっていますが、現実問題として海上での大規模武力紛争蓋然性が世界で三番目に高い海域です。ちなみに南沙諸島は三位ですが、CSIS資料などを観ますと、一番高いのは台湾海峡、続く二番目は我が国沖縄近海です。

 南沙諸島は東南アジアの中央、南シナ海の中央付近に位置する島嶼部で、太平島、パグアサ島、西月島、南威島、ノースイースト島、サウスウエスト島、景宏島など12の離島と15の岩礁から構成されています。元々、南沙諸島はその帰属を多くの国が主張していましたが、中国が介入するまでは武力紛争には至っていません。東南アジアの中央に位置する南シナ海の島嶼部ですのでフィリピン近くの離島をフィリピンが、ヴェトナムカムラン湾近くの離島をヴェトナムが、マレーシア近くの離島をマレーシアが領有、台湾は歴史的経緯から日本より戦後編入し領有化しています。この文字の通り、南沙諸島は北方の西沙諸島と異なり中国本土から距離を隔てている為、当初は話に出てきません。

 中華人民共和国は1970年代に海底資源埋蔵の可能性が指摘されると南シナ海は支那の海なので中国領だ、としてこの地域を紛争地へ変えてしまいました。中華人民共和国は赤瓜礁海戦によりヴェトナムから奪取した環礁とフィリピンから奪取した環礁を離島と位置づけ海南省に編入、防衛施設や空港建設を強行、今回レーダー施設を建設中となり、元々武力攻撃を以て奪取した地域である為、紛争激化の兆しがあります。こういうのも、中国は南沙諸島の環礁を島として主張し領有権を主張しているものの、島を一つも持っていない為、人工島を軍事施設化し、周辺国の離島侵略拠点となるのではないか、と危惧があるのです。

 フィリピンを筆頭に南沙諸島の島々について、各国の施政権と領有権を見てみましょう。フィリピンがパグアサ島とウエストヨーク島にノースイースト島とラワック島及びロアイタ島をパラワン州の一部として実効支配下に置き、一部に飛行場などを建設しているとともに、パタグ島等砂洲と環礁などもその排他的経済水域内として管理していますが1994年にミスチーフ礁が中国軍に不法占拠する事案が発生し、これはピナトゥボ火山噴火に伴う在比米軍の全面撤退から二年後の軍事力空白に乗じ発生したもので、日本の商船からフィリピン政府へ環礁が中国軍により占拠されている事が通報され発覚したもので、いまだに中国軍は撤退していません。

 ヴェトナムはカインホア省に滑走路を持つチュオンサ島、サウスウエスト島、シンカウ島、ソンカ島、ナムイエット島を福江実効支配している他、チュオンサドン島とファンビン島の砂洲が島として保持されています。過去にはジョンソン南礁を筆頭にファイアリークロス礁とクアテロン礁及びヒューズ礁にガベン礁とスビ礁を離島として領有していましたが1988年にこれら環礁は島として認められないとする中国軍が侵攻し赤瓜礁海戦が勃発、中国軍が全ての環礁を占領したのち自国の離島であるとして宣言し現在人工島を造成中で、ヴェトナム政府はこれらすべての環礁の返還と中国軍の撤退と補償を要求しています。

 中華民国は太平島を高雄市の一部として2003年に軍用飛行場を建設しました。太平島は南沙諸島最大の島で、1929年に日本が事実上の管轄下に置き1939年には海軍航空隊飛行場や艦艇基地を建設、第二次世界大戦の敗戦により中華民国政府は1945年に日本が同島の領有権を喪失した事で広東省に編入し、基地化を実施、気象台などを置くと共に大陸からの侵攻へ備えています。飛行場へはミラージュ2000戦闘機を暫定配備した事例があり、第二次大戦中に南シナ海唯一の洋上航空基地であった施設がそのまま運用されているというべきでしょう。

マレーシアはラヤンラヤン島をサバ州の一部として空港などを建設しています。また、満潮時にも離島としての定義を満たすマンタナニ礁を領有しており、ブルネイ政府はこの環礁に付属する環礁の一部がブルネイ領土に当たるとしてマレーシア政府との間で係争状態にあります。上記の実効支配が明確となっている島々も領有権主張が複数国により為されています。また、過去に中国軍がヴェトナム軍を攻撃し奪取した事例や、フィリピンの環礁を不法占拠し人工島を建設している事例がある為、各国は中国軍の侵攻への備えを余儀なくされました。

 中国が離島と主張しているのは、1988年にヴェトナム海軍を攻撃し武力奪取したスビ礁とクアテロン礁にファイアリークロス礁、1994年にフィリピンから奪取したミスチーフ環礁です。スビ礁はヴェトナム海軍を排除して後、沿岸監視レーダーを設置しましたが2014年より人工島造成を開始し3000m級滑走路を建設中です。クアテロン礁は要塞化を完了させました。ファイアリークロス礁はヴェトナムから奪取したのち監視部隊を置く程度でしたが2015年に入り人工島造成を開始し3000m級滑走路を完成させました。ミスチーフ環礁もフィリピンから奪取後、監視部隊を置いていましたが、現在、南沙諸島三本目の滑走路が建設中です。

 1988年にヴェトナム海軍を攻撃し武力奪取したスビ礁とクアテロン礁にファイアリークロス礁、1994年にフィリピンから奪取したミスチーフ環礁の占拠は、周辺の島々への侵攻の着手でしかなく、この四箇所の環礁への人工島建設と飛行場設備建設は侵略準備ではないか、この指摘へ中国政府は一貫して平和利用のためであるとしてきましたが、軍用機発着や防衛部隊駐屯と対空兵器搬入を実施してきました。中国の平和とは世界でいう戦争という意味にあたるようで、今回、レーダー施設が建設されている事案も、単なる始まりに過ぎないのかもしれません。

 ただ、中国の海空戦力は経済成長と共にここ20年間で大幅に強化され、1993年に24機のSu-27戦闘機を導入し1995年に初めて現代的な大型水上戦闘艦を整備した時代とは隔世という強力な陣容を揃え周辺国に示威行動を執る東南アジア諸国には、中国へのカウンターバランスとしてアメリカ軍の航行の自由を国際公序とする取組、尖閣諸島への侵攻圧力へ専守防衛という国是を守り通す日本、東南アジアへ大きな影響力を及ぼすオーストラリア、この三国の連携は大きな政策決定への影響力を有しています。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする