■自衛隊の災害派遣
北大路機関には“防災・災害派遣”というカテゴリを2011年の東日本大震災を受け新設しましたが、あの巨大災害から五年を経て、再度この脅威について考えてみる事としました。

2011年の東日本大震災では自衛隊は創設以来最大の10万名を動員、災害派遣の述べ派遣規模は1000万名を越え、ほぼすべての部隊が災害派遣任務へ展開、派遣部隊の一覧はWeblogの字数制限に関わるほどの部隊が参加しました。実際、あの東日本大震災は、日本の本州島東日本地域全域の太平洋岸が例外なく津波被害を被り、続いて発生した原子力災害は我が国の存亡にかかわるほどの大きな危機であったことは、五年を経て忘れてはなりません。

第一線部隊を動員した訳ですが、一方で、先進国において災害派遣へ現役部隊の、しかも最精鋭部隊を全力で派遣する事は普通の観念として少々不自然ではないか、予備役部隊が中心となり派遣されるべきもので初動は防衛力の現役部隊ではなく消防等公的機関の対応によってなされるべきではなかったか、という指摘を、識者の方から耳にしました。無論、その識者の方は我が国の予備役に関する数的不足は充分承知しておりまして、他方、政府や自治体が自衛隊へ過剰な期待を寄せている事への疑問も兼ねて、ということでしたが。

防衛力の第一任務は戦争の抑止、そして我が国自衛隊の最大の任務は我が国への外敵の軍事力を伴う侵攻に対し直接撃破し国土と国民を防衛する事にあります。この視点に続いて続く任務に災害からの国土と国民の防衛、更に国際の平和と安全に資する国際平和創造への人道支援任務等が加わっているわけです。そして自衛隊法上の災害派遣についても、他の組織では対応できない切迫性と即座に対応する事でしか人命の損失を回避できない緊急性等が出動要件に含まれています。

ただ、他の先進国では予備役部隊を以て対応している大規模災害への対応ですが、日本を襲う巨大災害はその威力が根本から異なる、という事を忘れてはなりません。実際問題、世界では過去に幾つもの巨大災害は発生していますが、先進国において、戦争とテロを含めます場合でも、第二次世界大戦以降、一日で東日本大震災の様に万単位で人命が失われ、数万単位で危機が迫る状況、というものが、中々生起し得なかった、という実情は理解する必要があるでしょう。

加えて、東日本大震災では救援に当たる数百機のヘリコプターや報道用航空機と自衛隊機を航空管制するべく、航空自衛隊が早期警戒管制機E-767を派遣しましたが、早期警戒管制機が災害派遣において使用されたのは世界初であったとのことです。加えて、災害派遣として数百機の航空機が同時に狭い空域を飛行するという航空機運用というものも、世界防災史上最大の規模であった、ともいえるわけで、その災害派遣の特異性を見出す一端といえるやもしれません。

国土交通省が災害時の航空管制用にE-767を数機程度保有するか、イージス艦を海上保安庁が運用するという事は少々考えられませんし、原子力災害に備え総務省消防庁が全国の自治体へ数十両づつNBC防護能力を有する装甲車両を装備するという事は想像できませんし、国土交通省災害対応チームが架橋装備や渡河装備を都道府県ごとに準備し緊急対応チームを組むことも出来ませんし、都道府県警ごとに警察が管区単位で輸送ヘリコプター部隊を装備し車両の空輸を含めた輸送体制を組む、という事もやはり現実的ではありません、第一諸外国ではこの種の装備を予備役部隊が充分装備するという事例もまた稀有です。

自衛隊の災害派遣、というものはこうした災害の規模と必要となる装備が基本的に諸外国とは次元が異なる規模であり、しかも、例えば東日本大震災発災の時点で水陸機動団が整備されていたならば、AAV-7両用強襲車により更に多くの人命が救えた可能性があり、おおすみ型輸送艦に数の余裕があれば初動は更に早かったでしょう、全国の普通科連隊に96式装輪装甲車が配備されていたならば、原子力災害住民退避の際に被曝者の発生をもっと防ぐことが出来たかもしれませんし、輸送ヘリコプターに余裕があれば原子力災害派遣でもさらに打つ手があった可能性があり、蒼の装備と人員でよくぞここまでという感謝に合わせ、装備の不足は残念という言葉だけが残る。

こうした視点から、日本の防衛力は、災害派遣、という視点からも考えなければならないものが多く、繰り返す事ですが、ひとたび発生すれば数万の人命危機に繋がる、喩えとして核攻撃の被害に匹敵する巨大な人命への危機が、我が国周辺の地殻には隠されている、という視点が必要であるというもの。更に次の災害は確実に発生する、という視点から、災害派遣、という問題を見てゆく必要が、あるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
北大路機関には“防災・災害派遣”というカテゴリを2011年の東日本大震災を受け新設しましたが、あの巨大災害から五年を経て、再度この脅威について考えてみる事としました。

2011年の東日本大震災では自衛隊は創設以来最大の10万名を動員、災害派遣の述べ派遣規模は1000万名を越え、ほぼすべての部隊が災害派遣任務へ展開、派遣部隊の一覧はWeblogの字数制限に関わるほどの部隊が参加しました。実際、あの東日本大震災は、日本の本州島東日本地域全域の太平洋岸が例外なく津波被害を被り、続いて発生した原子力災害は我が国の存亡にかかわるほどの大きな危機であったことは、五年を経て忘れてはなりません。

第一線部隊を動員した訳ですが、一方で、先進国において災害派遣へ現役部隊の、しかも最精鋭部隊を全力で派遣する事は普通の観念として少々不自然ではないか、予備役部隊が中心となり派遣されるべきもので初動は防衛力の現役部隊ではなく消防等公的機関の対応によってなされるべきではなかったか、という指摘を、識者の方から耳にしました。無論、その識者の方は我が国の予備役に関する数的不足は充分承知しておりまして、他方、政府や自治体が自衛隊へ過剰な期待を寄せている事への疑問も兼ねて、ということでしたが。

防衛力の第一任務は戦争の抑止、そして我が国自衛隊の最大の任務は我が国への外敵の軍事力を伴う侵攻に対し直接撃破し国土と国民を防衛する事にあります。この視点に続いて続く任務に災害からの国土と国民の防衛、更に国際の平和と安全に資する国際平和創造への人道支援任務等が加わっているわけです。そして自衛隊法上の災害派遣についても、他の組織では対応できない切迫性と即座に対応する事でしか人命の損失を回避できない緊急性等が出動要件に含まれています。

ただ、他の先進国では予備役部隊を以て対応している大規模災害への対応ですが、日本を襲う巨大災害はその威力が根本から異なる、という事を忘れてはなりません。実際問題、世界では過去に幾つもの巨大災害は発生していますが、先進国において、戦争とテロを含めます場合でも、第二次世界大戦以降、一日で東日本大震災の様に万単位で人命が失われ、数万単位で危機が迫る状況、というものが、中々生起し得なかった、という実情は理解する必要があるでしょう。

加えて、東日本大震災では救援に当たる数百機のヘリコプターや報道用航空機と自衛隊機を航空管制するべく、航空自衛隊が早期警戒管制機E-767を派遣しましたが、早期警戒管制機が災害派遣において使用されたのは世界初であったとのことです。加えて、災害派遣として数百機の航空機が同時に狭い空域を飛行するという航空機運用というものも、世界防災史上最大の規模であった、ともいえるわけで、その災害派遣の特異性を見出す一端といえるやもしれません。

国土交通省が災害時の航空管制用にE-767を数機程度保有するか、イージス艦を海上保安庁が運用するという事は少々考えられませんし、原子力災害に備え総務省消防庁が全国の自治体へ数十両づつNBC防護能力を有する装甲車両を装備するという事は想像できませんし、国土交通省災害対応チームが架橋装備や渡河装備を都道府県ごとに準備し緊急対応チームを組むことも出来ませんし、都道府県警ごとに警察が管区単位で輸送ヘリコプター部隊を装備し車両の空輸を含めた輸送体制を組む、という事もやはり現実的ではありません、第一諸外国ではこの種の装備を予備役部隊が充分装備するという事例もまた稀有です。

自衛隊の災害派遣、というものはこうした災害の規模と必要となる装備が基本的に諸外国とは次元が異なる規模であり、しかも、例えば東日本大震災発災の時点で水陸機動団が整備されていたならば、AAV-7両用強襲車により更に多くの人命が救えた可能性があり、おおすみ型輸送艦に数の余裕があれば初動は更に早かったでしょう、全国の普通科連隊に96式装輪装甲車が配備されていたならば、原子力災害住民退避の際に被曝者の発生をもっと防ぐことが出来たかもしれませんし、輸送ヘリコプターに余裕があれば原子力災害派遣でもさらに打つ手があった可能性があり、蒼の装備と人員でよくぞここまでという感謝に合わせ、装備の不足は残念という言葉だけが残る。

こうした視点から、日本の防衛力は、災害派遣、という視点からも考えなければならないものが多く、繰り返す事ですが、ひとたび発生すれば数万の人命危機に繋がる、喩えとして核攻撃の被害に匹敵する巨大な人命への危機が、我が国周辺の地殻には隠されている、という視点が必要であるというもの。更に次の災害は確実に発生する、という視点から、災害派遣、という問題を見てゆく必要が、あるでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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