北大路機関

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小牧基地航空祭2016/2015年度オープンベース【4】 小牧基地の災害派遣拠点機能

2016-04-12 22:50:25 | 航空自衛隊 装備名鑑
■ブルーインパルス!
 小牧基地航空祭特集、前回の掲載3月27日から若干間が空いてしまいましたが特集も今回が最終回です。

 小牧基地ですが、東海地震や東南海地震に対しては救援の第一線となる重要な基地です。残念ながら中京地区の空の玄関である中部国際空港は海上空港であり、東南海地震に際しては津波被害に遭う事が確実視されています。しかし小牧基地は内陸部にあり最大規模の津波災害に対しても充分離隔している他、基地の敷地近くには地震に伴う山岳崩壊の危険もありません。

 勿論、小牧基地は防衛上の極めて重要な基地であることは言うまでもありません、装備する輸送機の能力も重要ですが、もう一つ忘れてはならないのが航空自衛隊最大の弾薬庫である高蔵寺弾薬庫は小牧基地に近く、山そのもの丸ごと中をミサイルで満たした施設から全国の航空部隊へ弾薬を供給するには、まず陸路で小牧基地へ運び、その上で輸送機へ搭載する事が効率的でしょう。

 しかし、喫緊の課題は南海トラフ地震を含めた我が国中枢部を狙う巨大地震です。想定最大犠牲者は32万、これは大都市が戦略核攻撃を受けた場合に匹敵する甚大な被害で、津波の想定範囲は四国紀伊東海に集中しますが、京阪神地区と中京地区にきわめて甚大な被害を及ぼし、距離を隔てた首都圏であっても津波被害が無視できない大きな脅威となっています。

 先進国で災害対処の任務に第一線部隊を出しているのは日本くらいであり通常は即応するのは消防や救急、軍事機構は第二線級の、例えば予備役で動員するような部隊が対応する、という指摘はあるようですが、先進国で一日の内に一万人以上が災害で人命を失う危機があり、対応が遅れたならば更に一万人が生命の危険に曝される、という状況は我が国位のものでしょう。

 加えて東日本大震災規模の犠牲者、先進国では核戦争を例外とすれば万単位の人命が失われる緊急事態は中々考えられず、大規模紛争でも、イラク戦争やシリア内戦にウクライナ東部紛争、イエメン内戦やリビア騒乱といった世界史に残るような大規模武力紛争でも、一日で万単位の犠牲者、という状況はありませんでした、唯一例外は1991年の湾岸戦争でしょう。

 湾岸戦争の双方犠牲者は東日本大震災と同程度、若しくはそれ以上と云われます、しかし、その規模は非常に大きく、54万名の多国籍軍と55万名のイラク軍が双方ともに戦場に1000両の戦車を激突させ、アメリカ海軍の空母だけで6隻が展開、戦略爆撃機を含め延べ数千回の空爆を実施しての数値です。南海トラフ地震の想定犠牲者32万はそれを遥かに上回るもので、自衛隊を含め如何に真剣に減災に臨むかの重要性が垣間見えるというもの。

 ブルーインパルスが飛行する小牧基地は標高16m、2740mの滑走路を有しています、標高16mといいますと心もとなく感じられるかもしれませんが、名古屋駅から15kmの距離を隔てており伊勢湾からは20kmの距離を隔てています、あの東日本大震災の津波でも内陸部まで最大5kmまでの到達に留まっており、津波は波長が非常に大きいものの海面上昇ではなく内陸部に入れば陸との抵抗で減殺されまるので充分安全でしょう。

 東海地震の直撃を受ける静岡県では、県西部の航空自衛隊浜松基地は標高46mあり津波に対し安全です。県央部に位置する航空自衛隊静浜基地は海抜7mで、海岸からの距離も0.9km、東日本大震災で大被害を受けました仙台空港の海抜5mや松島基地の海抜2mと並び東海地震では被害が予想されますが、近傍に静岡空港があり、標高132m、山岳崩壊などで滑走路が損傷しなければ防災拠点として期待できます。

 今回の小牧基地航空祭では災害派遣展示が実施され、岡崎消防局が運輸するレッドサラマンダー全地形車両も参加しました、これはシンガポールのブロンコ全地形車両で総務省が防災用に導入し岡崎市消防へ管理委託しているものです、徳川家康所縁の地岡崎は、一時期北大路機関移転予定地(爆)、ではなく、東名高速道路の拠点であると共に静岡県と中京地区に等距離にある要地でもある。

 この全地形車両は、航空自衛隊でもスウェーデン製の車両を若干数が防空監視所支援用として運用していますが、大規模災害時には浸水地域を踏破可能で、瓦礫など車両が進出困難な地位でも展開可能です、戦車や装甲戦闘車も装軌式車両として高い登攀力を持ちますが、限界はあり、しかも重量が相当大きいため運用に制限が掛かってしまいます、しかし、全地形車両はこうした問題もなく、非常に有用な装備といえるもの。

 全地形車両の運用は、船舶関連法規の関係上水陸両用車両として運用する場合船舶登録が必要値なる他、操縦資格も複雑化するため、実際の性能を最大限活かす事が出来ないという平時法規と有事の乖離という問題点はありますが、防災上有用な車両です。また、防衛用としましても、水上速力は5km/h程度と潮流に弱く、短距離しか航行する事を想定していません。

 しかし、不整地突破能力の高さは、イギリス海兵隊のように81mm迫撃砲等を車両踏破困難な山間部で運用する事が可能ですし、対戦車ミサイル等の戦闘資材を湖沼地帯を越えて第一線に輸送可能、ドイツ陸軍などは装甲型を救急車として運用しており、通常の装甲車両は踏破困難な経路を装甲する事で迅速な第一線救命能力を付与、スウェーデン軍では様々な用途にもちいており、戦場監視レーダーの踏破困難地形での運用にも用いています。

 実は全地形車両、装甲型と通常型が存在しまして元々は雪上車なのですがあらゆる地形を踏破でき、ジープなど過去の全地形車両や山岳戦用車両などと比較しまして、路上速度もかなり高いのですけれども、それ以上に雪国で開発された装備でして、車体が連接式となっていますので、徒歩でなければ踏破できないとされた山間部の急斜面や森林地帯など、かなりの速度で機動出来るものである。

 こうして考えてみますと、もう少し普通科部隊の機動力として、特に陸上自衛隊は国土の峻険地形を専守防衛として任務に当たる事から、評価されてもいいのではないか、と考えるところ。もちろん、災害派遣を言い分に陸上自衛隊の機械化戦力を強化しよう、という視点ではないのですが、用途は広いと考えます、水陸両用車でもありますので、陸上自衛隊は全ての師団旅団管区に離島があるわけですし、広く装備されても不思議ではありません。

 サラマンダー、岡崎消防に一両が配備されている、という部分、この一両のサラマンダーが対応する管区には政令指定都市だけで名古屋市に浜松市と静岡市があり、浸水地域の広さを考えますと、その上絵その知己に居住する人口を考えた場合、気が遠くなります、この種の車両を大量に運用し維持し稼働体制に置くことができるのは自衛隊だけですので、全地形車両については一考の余地が、と。

 全地形車両は、自衛隊にも有用ですが、消防や警察に例えば山林消防や山岳救助支援と海上空港警備と都市ゲリラ対策等の面で数を揃える必要があります、この種の装備は様々なものを導入したとしても、数が限られているならば運用に関するノウハウ蓄積が出来ませんし、その存在に対して活用する枠組みを平時から構築しておかなければ、その高度な能力を活かした運用研究すらままなりません。

 小牧基地航空祭では災害時に大きな能力を発揮する救難教育隊の救難展示や輸送航空隊の輸送機と空中給油輸送機、機動衛生ユニット等の機材や福島第一原発事故へも派遣された航空消防車両の最新型、そして消防の全地形車両展示を視まして、併せて、東日本大震災の巨大津波が直撃した松島基地を拠点とし、当日幸い九州新幹線開業記念へ芦屋基地へ展開し難を逃れたブルーインパルスの展示を眺めつつ、ふと次の災害についても考えました次第です。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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