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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

トランプ外交のアメリカ第一主義と同盟国放棄ドクトリン その安全保障上の重大リスクと冷戦誘発

2016-04-10 21:48:46 | 国際・政治
■孤立主義ではない第一主義とは
 ロイターコラム、同盟国の「見殺し」望むトランプ外交、という興味深い分析がありました。実はこのコラムを始め様々な言動を見ますと、ドナルドトランプ氏は中国やロシアに対して非常に楽観的な視点から物事を評価する楽天家なのではないか、という印象を受けています。

 コラムの概要は以下の通り。アメリカ第一主義を掲げ、NATOとの関与を見直しロシアとアメリカの対立構造を欧州から手を引くことで解消する、在日米軍と在韓米軍を撤退させ北朝鮮の核問題にアメリカが関与しないようにする、というもので、ただし、ジェームズモンロー時代のモンロードクトリンの踏襲、つまり孤立主義を意味するものではない、とトランプ氏は掲げているようですが、NATOに関与しロシアと欧州の関係はアメリカが関与しない、欧州とロシアの関係で応手が劣勢となった場合でもアメリカは重荷とならない範囲内でのみ関与の姿勢を示す、というもの。

 オバマ大統領の、アメリカは世界の保安官ではない、という言葉がりまして、この視点に続き、アメリカの同盟国との関係を再編するという主旨に受け取られかねないトランプ氏の発言は、アメリカ大統領選共和党指名争いの一候補ではあるものの、その影響力は世界中に広がっています、つまり、オバマ外交以上に次ぐにトランプ氏が大統領となった場合はアメリカの軍事力行使が及び腰になる、という危惧もさることながら、最大の影響は、こうした姿勢をアメリカの少なくない有権者が支持しており、どの候補が大統領となった場合でもオバマ外交における軍事分野の消極性が継承される可能性がある、という危惧が最大の懸念というべきでしょう。

 トランプ氏の掲げるNATOへの関与縮小、在日米軍及び在韓米軍の撤退、こうした視点なのですが、少なくとも大統領の二期八年の任期中に実施しますと、非常に大きな戦力の空白を呼びます、これがアメリカの安全保障にとって影響がかなり起きくなるともいえるのですが、この点について、トランプ氏はロシアや中国の外交姿勢をどの程度考えているのか、少々不確定要素が大きすぎます。実は、アメリカの軍事的影響力は政治的要素に非常に大きく左右され、イラク戦争期を契機に波動が生じ、不安定な状況にあります。

 ブッシュ政権下のラムズフェルド国防長官時代に米軍再編を実施し米軍は機動展開能力を重視し常駐戦力を最大限縮小するという改編を実施し、一方同時期に発生したイラク戦争とその後十年に及ぶ長期間の治安作戦により生じた大量の戦費負担により緊急展開に必要な装備体系構築が、LCS沿海域戦闘艦計画やDD-21将来打撃駆逐艦構想が大幅縮小、F-22戦闘機の整備縮小やE-10早期警戒管制機開発中止、FCS将来陸上車両体系の開発中止、ストライカー旅団戦闘団整備部隊数縮小等、かなり省略や縮小されてしまいまして、この力の空白が東部ウクライナ紛争や南シナ海緊張状態の大きな要素となっている事を忘れてはなりません。

 トランプ氏の主張は、中東のISILに対する発言ではサウジアラビアに地上軍派遣を強く求め、アメリカの支援がなければサウジアラビアは長くおたないであろう、としています。ただ、サウジアラビアが我が国の防衛費の二倍もの国防費を支出しアメリカが四軍を派遣しないイエメンへ全力で派遣すると共にアメリカが核開発の可能性を放置し経済制裁を緩めようとしているイランに対し中東の意志を示す重責を担っている事を理解していません。ロシアがNATOを攻撃した場合にもアメリカは不関与を示すべきとしていますが、東欧諸国が乏しい国家予算から塗炭の苦しみの中、NATOの中古や新鋭の新装備を大量に調達し、圧力に応えようとしている実情についても理解を示していません、そして、この状況からアメリカが圧力を大きく転換した場合、非常に大きな異なる影響が生じる可能性を理解すべきでしょう。

 アメリカへの影響、具体的には、かつてアメリカがソ連を包囲する軍事同盟のネットワークを構成した逆転現象が生じる可能性がある、という事です。力の不均衡が生じた場合、例えば東アジア地域では在韓米軍の戦力が大きく縮小した場合、韓国国内の親中勢力が中国の軍事力を以て北朝鮮の核戦力へ対抗するとの選択肢が時点で優勢となるでしょうし、ASEAN諸国もアメリカの軍事力を置き換える強力な軍事力を、経済的に持つ事が可能な日本が憲法改正などを通じて整備しない限り中国の圧力に対抗する事が出来なくなり、中越戦争等次の段階を経て中国の勢力圏に西太平洋全域が呑まれる可能性があります。

 そして南シナ海のシーレーンと経済連携の機会を失われれば、日本と豪州も親中政権に置き換わる可能性があり、影響はハワイ州へ及ぶ可能性も将来的にはでてきます。また、欧州もロシアは経済制裁により一時疲弊していますが、元々資源大国としての地位を持ち、更に地球温暖化によりシベリア開発が進むならば穀物大国への可能性を秘めています、軍事力を支える経済力は多く、冷戦後、対ソ警戒が過去のものとなった今日、全欧安全保障協力機構OSCEなど既存の価値観へ接近等の施策を通じ、欧州全域へ親ロ体制を、かつてのウクライナ干渉のように実施する可能性も高まってしまいます。この事象は、冷戦誘発、という表現で説明する事が妥当でしょうか。

 トランプ氏の視点は、言葉ほど単純ではない、という分析も可能ではあるのですが、影響力は単純な発言によってもたらされるものの方が遥かに大きなものです。そこで、国際政治と安全保障分野では一報が減退すれば必ず、その代替となるものが生じます、実際、アメリカもソ連が崩壊した時点で中欧諸国と東欧諸国への関与を強化し、NATOへ加盟させ同盟国として迎えました。つまり、逆の事象が発生し得る、ということ。これは多少は予測できそうなものなのですが、こうした政策を提示している、更にトランプ氏は自分が孤立主義者ではないとしていますが、他方で確実にトランプ氏の主張を支持する支持者は孤立論者以外何物でもなく、この事実が次の波乱へ繋がるのでは、とも考える次第です。

 アメリカが関与の度合いを低めるならば、例えば国連もその国際の平和と安全という責務を履行する能力に陰りが生じ、国連本部がジュネーヴの国際連盟本部跡地の移りその権限を大きく縮小させつつも独立性を持った機構へ収斂する可能性が生じますし、上海やミンスクに、縮退した部分を補う新しい国際機関が構築される可能性があります、これは結果的に突き放されたアメリカの同盟国を取り込み、アメリカに対する新しい軍事同盟が包囲するように形成される可能性も、捨てきれないでしょう。同盟関係は構築は困難ですが破綻は一瞬です、第二次大戦での米ソ同盟や日英同盟も同様でした 。しかし何よりも、こうしたリスクを予測できるとは考えるのですが、この施策を少なくないアメリカの有権者が容認している現状があり、トランプ発言以上に、その支持層の増大が、今後の世界安全保障体系に非常に大きな影響を及ぼすのでは、ともいえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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