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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大都市競合地域“メガシティ”という新たな戦場【前篇】 突き付けられた巨大都市戦闘

2016-04-11 21:55:23 | 防衛・安全保障
■「メガシティ」という新たな戦場
 巨大都市競合地域“メガシティ”という新たな戦場、これについて考える事としましょう。

 コラム:米軍を待つ「メガシティ」という新たな戦場、ロイター通信にて、このような興味深いコラムが掲載されていました。ランド研究所のチャドC.セリーナ博士が執筆したもので、ピッツバーク大学にて政治学博士号を授与されランド研究所にて軍事情報通信及び心理戦専門研究員を務めています、元軍人で現役時代は第2ストライカー旅団戦闘団にも奉職したとのこと。

 メガシティという新たな戦場、さてコラムの概略は以下の通り。複数の年で形成される都市圏、1000万規模の人口を有する都市が戦場となった場合、テロリストや反政府勢力への制圧安定化作戦を展開する場合に諜報や監視及び偵察活動を行う際の諸問題について提示したもので、米軍は大規模な軍事力を有する中国やロシアへの対抗戦力を保持する必要が今後も筆頭に置かれるのに対して、テロとの戦いを継続する場合にはどうしても大都市での戦闘が必要となる、というもの。

 メガシティの定義としましてコラムでは“ディストピア系SF映画のような”という前置きをした上で、1995年の映画“ジャッジドレット”を示しまして、都市全体が無法地帯、若しくは交戦規定を満たさない勢力とその支援者もしくは潜在的支援者が混在しているという状況を示し、攻撃する側としては何処からが境界線かが不明確なもの、としました。この点を強調するようにISILシンパが隠れるブリュッセルや同時テロ以前のパリは含めていませんでした。

 映画一作では分かりにくいのですが、補足しますと“デモリションマン”の地下街、“第九地区”、“フレッシュプリキュア!”のラビリンス等が思い浮かぶところ。“ブラックブレット”や“魔法科高校の劣等生”は大都市が舞台ですが、前者は決壊の外が全部敵なので火力を投射しやすいという部分で含まれず、後者は敵の支持基盤が国内にはほぼなく四葉継承編からは反魔法勢力が出てきますが、ほぼ定義を満たしません。

 ロイターコラムではその市街地戦闘の実例として、チェチェン紛争のグロズヌイでのロシア軍による市街戦やイラク治安作戦でのサドルシティでの米軍による掃討作戦を提示していますが、グロズヌイの人口は数十万名でありサドルシティーの人口も350万名前後、という数字を提示しています。また近年の事例としてはイラクシリアでのISILを提示しています。

 ISILは、市街地の製パン工場や石油精製所に公益事業体といった互いに性質の異なる豊かな収入源を確保することで、兵站を大都市に依存し、無差別爆撃の標的と出来ない人間の盾に隠れた策源地を有し、後方と外国人民兵勧誘から強制徴用までスマートフォンを筆頭に廉価で暗号化機能を持つ携帯通信機器を駆使し指揮系統を構成でき攻撃を加える事が可能となる、と。

 上記を見ますと問題の大きさに考えさせられると共に、メガシティという新たな戦場、我が国防衛力の視点からも、例えば国際平和維持活動において今後平和執行という部分への参画を求められた場合、メガシティという新たな戦場へ自衛隊が望む必要が生じます。無論、我が国の場合、メガシティという新たな戦場として首都圏や京阪神地区において展開する可能性はほぼ無視できるものではありますが、海外では非常に高まります。

 大都市での市街地戦闘、陸上戦闘の基本概念として、都市と森林は部隊を呑む、という原則がありまして、森林地帯と市街地にはどれだけ部隊を展開させても十分な密度を確保する事が出来ない為、可能な限り回避すべきである、という意味です、そして一例として最も適当な事例がヴェトナム戦争でのジャングル戦闘ですが、撃破すべき敵主力が不明確となる場合、これを非対称型戦闘というのですが、軍事機構はいわばクラウド化された敵対勢力を明確に把握できず、火力優勢や航空優勢を行使できない、近接戦闘主体の戦闘により消耗してしまう、という厳しい実情があります。

 陸軍戦術の基本は、市街地戦闘を避ける事にあり、少なくとも正規軍を相手とする場合、接近経路や連絡線などの状況から総合的に市街地での持久の限界を認識した場合、選択肢には相手の撤退による戦闘基盤の再構築、更なる選択肢には持久、というものがあり、持久を選択した場合は攻勢に出ない事を意味しますので、包囲し突破を待つ、若しくは孤立させ戦闘全般への関与そのものを封殺する、という選択肢がありまして、極力避ける、という部分が共通点であることに気付かされるところ。

 市街地戦闘を避ける、何故ならば陸上戦闘の究極的な目標は指揮系統中枢の屈服若しくは無力化にあるためです、しかし非対称型戦闘は持久が手段ではなく目的とする場合が多く、更に指揮中枢が不明確である場合も多あり、つかみどころがありません。すると、一部屋一部屋確実に小銃と音響手榴弾で着実に制圧する必要があるのですが、その手間と時間については想像に難くないでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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