北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

オーストリア次期潜水艦選定、フランスDCNS社新型潜水艦共同開発案選定と豪州首相発表

2016-04-26 21:44:34 | 国際・政治
■そうりゅう型潜水艦輸出ならず
 豪政府、潜水艦の共同開発相手に仏DCNSを選定、豪州海軍が計画している現行のコリンズ級潜水艦後継艦選定、12隻という大きな潜水艦需要へ我が国も潜水艦そうりゅう型を強く売り込んでいましたが今回はフランス製が選ばれたかたち。

 潜水艦最大12隻、契約規模は500億豪ドルで400億米ドル規模の巨大防衛装備移転交渉でした。我が国の武器輸出について、実現すれば初の防衛技術移転の大きな事例として、特に現在進展しないインドへの救難飛行艇輸出交渉に代わる象徴的な一案となる事が期待されていました、他方、我が国の防衛産業が政府から強く保護されていると共に、産業分野への波及効果と外交関係との波及効果の相乗作用を経済産業省と外務省及び防衛省が慎重に均衡を期して画定しているのに対し、豪州海軍が求める将来潜水艦後送を、そうりゅう型原型に拘り、新型潜水艦を一から建造するという姿勢の有無が大きく影響した可能性もあるでしょう。

 日本は潜水艦そうりゅう型豪州仕様、他にドイツが214型潜水艦を二倍に大型化させる案を提示、フランスやスウェーデンも提示していまして、フランス案は当初実現まで時間を要すると考えられていたのですが、豪州国内への産業と雇用に好影響を及ぼすとして一転注目されていました。フランスの豪州将来潜水艦構想は、原子力潜水艦を通常動力化するという技術的には困難を有するものの、大型潜水艦の建造は原子力潜水艦建造において蓄積されているとして、その改修に関わる技術と共に船体設計に関してはフランス海軍の将来原子力潜水案建造へも反映される新技術を共に開発する、というもの。

 フランス案は、言い換えれば供与する技術の基盤を提示し、そののちは豪州の技術力と資金面により左右される、というものでした。豪州のアボット首相(訂正:ターンブル首相)は海軍の求める高性能潜水艦よりも、国難産業と雇用を維持する事を重視しています。バラクーダ型潜水艦としてフランスが今回提示したのは、シュフラン級攻撃型原潜の設計を通常動力潜水艦へ転用するもので、水中排水量5300t、全長99mの大型潜水艦が原型となります。

 通常動力潜水艦と原子力潜水艦は、一見突飛に思われる方式ですが、これはフランス海軍が現在運用するリュビ級攻撃型原潜から開発されている原子力タービンエレクトリック推進方式の採用が通常動力化に大きな可能性を有しているもので、これは原子炉により一旦発電した電力を以て推進力に充てる、通常の原子力蒸気タービン方式とは異なる方式です。

 原子力タービンエレクトリック推進方式の利点は、統合電気推進方式である点で、発電にフランス海軍は原子力を採用していますが、リチウムイオン電池やワルタータービン方式AIP動力など、電力の供給減があれば原子炉以外の方式でも推進可能となる点で、原子炉区画をそのままディーゼルエンジンなど非核動力の発電装置と蓄電池など動力装置に置き換える事で、その他の推進装置は応用できる利点があります、ただ、単純そうに見えますが、原子力区画を通常動力に置き換える技術については実用艦という面で不確定要素があるといえるでしょう。

 他方、豪州は過去に台湾への潜水艦輸出交渉を実施した事例があり、豪州が今回の将来潜水艦生産により得た技術を以て第三国へ転用しようとする場合、そもそもフランス案であれば豪州が独自に開発する必要がある事から豪州の独自技術開発が必要とされるもので、言い換えるならば特許分野などで第三国への移転を行う上で、すべて日本から完成した技術を導入し自国仕様とする案よりも、産業面から利点が多いと判断された可能性はあります。豪州潜水艦製造には4500名の雇用が維持されるという。

 これは現行のコリンズ級潜水艦最終艦竣工から13年を経て潜水艦が製造されていないにもかかわらず4500名の雇用維持は驚くべきところです、そうりゅう型を選定した場合、明日にも製造に当たる準備が整っていますが、フランス案の場合、違ってきます。フランス案では原子力潜水艦を通常動力にする為、吸気系統から再設計する必要があり、2030年代から交代が始まるとの話、実際の建造まで10年以上研究開発に雇用を生んだことにもなる。

 防衛装備輸出を考える場合、産業への波及効果という視点は重要で、例えば近年ではブラジルとスウェーデンの防衛装備輸出交渉について、スウェーデンは製造ライン維持の観点からJAS-39戦闘機を確実に輸出する必要上、ブラジルが提示したブラジル製KC-390輸送機導入を事実上のバーターとして計画成立にこぎつけた事例があります、一見日本国内の感覚では不透明な取引とも考えられる部分ではありますが戦闘機開発など防衛先端技術開発は他の産業分野への転用は難しく、その上で一旦途絶すれば再構築には、非常に大きな時間を要します。

 この為、我が国は海外製防衛装備をライセンス生産により導入した事例はあるものの、防衛装備を海外へ大きく展開した事例は無く、民生品や汎用品が海外へ供給された程度に過ぎません、また、防衛産業は防衛需要比率の小さな大企業が主体となている為、防衛分野での不受注がその企業本体へ影響を与える事はあっても、死活的な問題は生じません、一方海外ではM&Aにより大型化するとともに防衛需要依存度の高い企業が多々存在しますし、その産業への雇用も非常に大きく広がり、この部分への政治的影響が防衛調達へも反映される事は、ある種仕方ありません。

 これは単純に例えばバーターとして、そうりゅう型12隻の代替に豪州インキャット社製ウェーブピアサー方式高速輸送艦を12隻海上自衛隊が取得すればよかった、というものではなく、現地企業への技術内部化や、日本との提携により海軍は最高水準の潜水艦を短期間で取得できるが、その上で豪州国内の潜水艦製造に関する4500名の雇用をどのように維持するのか、という視点を真剣に考える必要があった、ともいえるところ。

 一方のフランスについては、原型となるシュフラン級攻撃型原潜の竣工は今年2016年より始まり、概ね2026年まで竣工が続く予定です、豪州海軍将来潜水艦の竣工は2030年頃から開始される計画ですので、フランスとしては現時点で最新の戦隊技術に2030年まで目いっぱい豪州が将来潜水艦への通常動力化に関する開発を行い、その上でシュフラン級攻撃型原潜の関連部品は、フランス向け製造がひと段落した上で時期的に受注が本格化します。

 2030年代を見通すには少々保守的過ぎたのか。そうりゅう型は2004年から建造が開始され2009年に竣工が始まりました潜水艦ですので、豪州向けの竣工が本格化する頃には、そうりゅう型一番艦が延命改修を行うか練習潜水艦への転用が本格化している時期となりますから、豪州海軍としてはやや陳腐化、という印象も拭えなかったのでしょう。2030年代という次世代潜水艦に、期限は2020年ではなく2030年代なのですから、既に完成した現行潜水艦を提示するのではなく、ある種、2030年代に対応する将来潜水艦を提示すべきだったのかもしれません。

 他方、豪州海軍はコリンズ級潜水艦をこれで2030年代まで運用を続ける事が決定しました、豪州潜水艦産業は実際の建造が本格化するまでの約十年間、技術開発に専念する事が出来ますので、雇用は安泰ですが、騒音問題に深刻な欠陥があるコリンズ級を今後最大で二十年間運用し続けなければならない状況が決定した訳でもあります、一番艦コリンズ竣工は1996年で二十年前の話、最終艦ランキンも2003年に竣工した訳です。

 コリンズ級の騒音縮小改修や延命改修等で日本が協力する分野を構築する、若しくは、余剰となった解体まちの潜水艦はるしお型貸与等を通じコリンズ級の騒音問題を限定的に解消する施策などを通じ、日豪の防衛協力体制を強化し、産業分野と運用分野での関係を強化する事が2060年代の豪州将来潜水艦交渉への布石となるやもしれません。一方、我が国海上自衛隊と豪州海軍はアメリカ海軍と共にこの地域の安定化に大きな役割を担いますので、建造への様々な障壁と技術的課題は山積しますが、新型潜水艦の完成を友好国の視点から見守りたいものです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)

北大路機関広報:本記事タイトルの豪州首相に大きな誤りがありました、正しくはターンブル首相です、お詫びして訂正します
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする