北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ムスダン弾道ミサイル北朝鮮が日本海へ連続発射全弾失敗、新型ミサイル開発継続の意図は?

2016-04-29 22:52:25 | 国際・政治
■ソ連製SS-N-6ミサイル改良型
 伊勢志摩サミットまで一ヶ月を切りました昨日28日、北朝鮮は午前と午後二回に分け2発の新型弾道ミサイルムスダンを日本海沿岸の元山から発射しました、ともに実験は失敗したとのこと。

 防衛省自衛隊は厳重な警戒態勢を継続しています。ムスダンは、北朝鮮が2010年に発表した新型弾道ミサイルで、ソ連製SS-N-6潜水艦発射弾道弾を原型として開発、その射程は4000kmに達するとされ、北朝鮮本土から投射した場合、日本全土及びグアムやアラスカを射程に収めるものと考えられています。また、後述するいくつかの理由から特に警戒されているミサイルで、北朝鮮は今月15日の金日成生誕記念日を筆頭に過去三回、発射実験を実施、全て失敗していますが開発を継続させています。

 日本が厳戒態勢を執るのは何故か、北朝鮮は既に日本本土ほぼ全域を射程とするノドン准中距離弾道ミサイルを1993年に完成させており、200発程度を備蓄しているとされます。その上で今回のムスダンを警戒する理由についてですが、それは北朝鮮が日本海沿岸の元山に発射実験拠点を設けている為です、元山から4000km級の射程を有する弾道ミサイルを発射した場合、テポドンのような黄海側の発射施設を用いず日本海側から投射した場合、太平洋に向けて発射する必要がありますので、これは即ち東北地方上空を中心に東日本地域上空を通過する事を意味し、その経路で失敗すれば東日本へミサイルが落下する危険性がある為に他なりません。

 ミサイルが落下した場合の危険性ですが、極超音速で降り注ぐミサイルはそれだけで危険物ですが、ミサイルは燃料としての推進剤に劇物を採用しており、これが非常に危険なのです。ミサイルそのものの燃料にムスダンは液体燃料方式を採用し、非対称ジメチルヒドラシン溶液を搭載しており、これが人体には非常に有害なのです。引火点が-10度という爆発しやすい特性を持ちますが、それ以上に危険なのは強い腐食性を持つ事で、更に発がん性物質として日本では危険物5類指定を受けている劇物で、数gを吸引するだけでも危険な液体燃料ですが、ムスダンにはこの非対称ジメチルヒドラシン溶液等燃料8t近くが積載されており、完全燃焼せず事故により落下した場合、広範囲に飛散する危険性がある事は一見してわかるでしょう。

 北朝鮮は何故この時期にミサイル実験を繰り返すのでしょうか。政府は全国の都道府県に対しJアラートの緊急点検を命じましたが、これはこの五月連休時期に朝鮮労働党中央大海を36年ぶりに実施することから、この時期に国威発揚を目的としてミサイル実験が行われると公算が高く、また、実際に実験が行われています。目的が国威発揚ですので継続して成功するまで実験が続く可能性が高いことを示します。日本が連休でも落下した場合、防衛省は人口密集地へ落達以前に警報を発令し、イージス艦やペトリオットミサイルにより迎撃し被害を阻止しなければなりません。

 ムスダンに拘る北朝鮮の背景について。これは、北朝鮮は既に韓国を狙うスカッドC,日本本土を狙うノドン、アメリカ本土を狙うテポドンを実用化している訳ですが、併せてもう一段のミサイルを欲しているところに実験継続の背景があります、それは潜水艦発射弾道弾SS-N-6を原型としている事から読み取れます。北朝鮮は、SLBM,潜水艦は車弾道ミサイルの開発を継続しており、ロシアからスクラップとして入手したゴルフ級通常動力ミサイル潜水艦を原型とする潜水艦より発射実験を繰り返していますが、ムスダンの原型となったSS-N-6ミサイルは1969年にソ連がゴルフ級用弾道ミサイルとして開発していたもので、潜水艦発射弾道弾は一旦出港し海底に隠れれば陸上のミサイルよりも人工衛星などからの追尾を受けにくく秘匿性が優れるとの特性があります。

 潜水艦発射弾道ミサイルとしてムスダンは開発中であり、潜水艦に搭載し北朝鮮本土から離れた海域に秘匿させる事で、ミサイルの航空攻撃に対する脆弱性から生き残る事を模索しているのではないか、こういう事が出来るでしょう。もっとも、北朝鮮海軍はミサイル艇を中心とした沿岸海軍であり、対潜哨戒能力は皆無に等しい状況ですので、海中に展開させた場合、逆に危険性が増すとも考えられるのですが、軍事的な意図に加えて、前述するように国威発揚という目的も加味されます。こうした意味から実験を継続しているものとみられるところ。

 更に北朝鮮の大きな目標は、来月26日から三重県にて行われる伊勢志摩サミットへの軍事恫喝という意味も含まれるでしょう、北朝鮮に対しては相次ぐ核実験と弾道ミサイル実験により国連安全保障理事会決議として、これら開発の中止が決議されました、国連安保理決議は強行規範として法的拘束力を持ち、この安保理決議を繰り返し違反している北朝鮮に対し、国連安全保障理事会は国連創設以来最大規模の制裁決議を可決し、人道上の範囲内でのあらゆる国際的な経済活動に対し制約を加えています。

 北朝鮮への経済制裁は、今後明らかに北朝鮮の経済活動だけではなく国家運営へも影響を及ぼすことは必至で、核開発及び弾道ミサイル開発を断念し国際の平和と安全を希求する陣営へ復帰するか、世界が折れるまで核開発と恫喝を続け次の段階まで押し進むのか、選択肢は狭まっています。こうした背景のもと、G-7伊勢志摩サミットが北朝鮮のミサイル射程内で開かれるこの機会に、ミサイルによる恫喝を行うという意味は大きいでしょう。このため、今後も万一の実験成功に伴う日本本土への落下に備え警戒を厳重にすべきです。

北大路機関:はるな くらま
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