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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

護衛艦FRAM近代化改修と艦隊維持【10】最終回,海防担う護衛艦第一線作戦能力維持への視座

2017-01-28 22:49:40 | 先端軍事テクノロジー
■護衛艦第一線作戦能力維持
 FRAM改修、その費用は大きい一方、必要な状況では実施しなければならない、しかし必要な状況とは何か、について詳述し、必ずしも必須ではないとの視点を提示しましたが、それでは護衛艦は竣工から退役まで旧式化に任せて良いという訳ではありません。

 護衛艦のFRAM、旧式艦でもFRAM工事を施す事で第一線の任務へ対応する能力を再度得る事が出来るのですが、その分、多くの費用と年単位の入渠期間を要しまして、更に艦艇の延命は数年程度に留まります。延命改修は再度行う事で寿命を更に延伸できますが、重ねる事に改修換装区画が増え、費用も回数と共に増大し、費用対効果を考える必要があるという事は確かでしょう。

 任務を根本から転換する場合、既存艦を除籍し新造する予算と既存艦へFRAM工事を施す、という選択肢がありここではじめてFRAMの期間、新造よりは費用をおさえる事が出来ますし、新造よりも短期間で工事を完了する事が出来る、となるわけでして、すると、既存の護衛艦へFRAM改修を全てにおいて施す事は必ずしも費用対効果にかなうものではない。

 むらさめ型護衛艦、たかなみ型護衛艦へFCS-3を搭載する改修を冒頭に示しましたが、汎用護衛艦としての能力を維持する限り、FRAM工事へ費用と時間を掛けることは合理的ではないことが分かるでしょう、例えば、VLS区画を増大させ巡航ミサイル発射艦とする、ターターシステム搭載艦除籍から後継のイージス艦増勢までの期間を担う艦隊防空艦へ改造する、等の大きな能力強化が求められる場合を除けば、大規模な改修よりは延命に限る、この視点が必要やもしれません。

 一方で、FRAMに至らない程度の改修は実施する必要があります、第一に考えられるのはデータリンク能力の可能な範囲内での強化、第二に情報処理装置のソフトウェア更新を軸とした計算能力向上、第三に重心構造に影響しない範囲でのCIWS改良や電波吸収材の添付、第四に新型航空機や無人機の整備能力等搭載機材の更新、などが考えられるでしょう。

 データリンク能力はとくに重要で、レーダーの能力や搭載火器を具体的に向上させなくとも艦隊にイージス艦や周辺へ戦闘機が滞空しているならば艦隊としての戦闘能力で対処出来ます、情報処理能力についても解析能力が高まる事で従来見逃していた目標徴候を識別へ繋げる事が出来、従来の運用範疇であれば、脅威対象の高度化へも高く対処し得えます。

 勿論、重心構造に関わる改修を緊急に行わなければ任務遂行能力を喪失するような新しい脅威の認識がある場合は別です、例えばイギリス海軍では1982年のフォークランド紛争において搭載する艦対空ミサイルが想定以上の連続した航空攻撃へ対応できないとして、急遽30mm単装機関砲を追加した事例が好例で、設計へ余裕があればとり得る施策でしょう。

 一方、手堅く能力を向上させ続けた興味深い一例があります、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦です、護衛艦はるな、はHSS-2を筆頭にHSS-2A,HSS-2Bとシーキングシリーズを経て、SH-60J哨戒ヘリコプター、最後には対艦攻撃能力を持つSH-60K哨戒ヘリコプターと、艦載機が更新される非常に素早い方法で、システムとして性能を強化しています。

 個艦性能よりもデータリンクにより艦隊能力を向上させるならば、海上防衛という任務は達成可能です、FRAMにより旧式艦を最新鋭艦並みに強化するという施策は魅力的で、更に予算を節約したようにも見えるのですが、やはり限界があり、これにより肝心の新造艦建造費を横取りしては意味がありません。一方、海上自衛隊の護衛艦定数は48隻、護衛艦寿命は24年ですので毎年2隻を建造しなければ艦隊を維持できませんので、それを下回る以上、延命については確実に実施してゆく事が必要でしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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