北大路機関

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【くらま】日本DDH物語 《第十六回》わかば,高性能レーダーは洋上大規模航空作戦の布石か

2017-07-01 20:12:48 | 先端軍事テクノロジー
■護衛艦わかば洋上作戦
 旧海軍駆逐艦と海上自衛隊護衛艦という数奇な運命をたどった護衛艦わかば、そのレーダーは当時としては破格の高性能であり、何のために使う構想であったのか、今日的な視点から考えると謎の多い装備でした。

 はるな、くらま、は勿論航空自衛隊にF-4ファントムも無い時代、洋上での大規模な航空部隊運用へ対応する航空管制中枢艦としてのレーダーを搭載した護衛艦わかば、その導入にはどのような目的があったのでしょうか。航空管制と云えば航空自衛隊の陸上基地からの戦闘機部隊による援護も考えられますが、当時の航空自衛隊主力戦闘機はF-86昼間戦闘機で、そもそも護衛艦とデータリンクする機材を搭載していない。

 SPS-8B高角測定レーダーによる広範囲の索敵能力を筆頭に、レーダー指示器と目標表示装置に多重無線機を搭載、洋上多数の航空機を航空管制し、更に洋上を飛行する他の航空機が把握したレーダー情報をレーダー画像ごと伝送する事で情報共有を行う能力、極めて高いものがありましたが、海上自衛隊はこの護衛艦わかば航空管制能力をどう考えていたか。

 空母を運用している訳でもないのにこれだけの管制能力は必要だったのか。当時の航空自衛隊は防空管制では音声通信がその主軸を担っていました。即ち、レーダーサイトがレーダー画面に映った目標情報、画面目盛を読み取り距離と方角産出、地図上にグリースペンで位置を明示し、電話で防空指揮所へ通知、電話をリレーし戦闘機をスクランブル発進させ、レーダーサイトから無線を通じて誘導する、という牧歌的なものでした。

 1950年代、全てに職人技が求められた時代、音声通信だけで目標の位置から要撃飛行隊基地を割り出し電話連絡、緊急発進の掛け声とともに大まかな離陸後の方向を管制塔が指示し、離陸後はレーダーサイトの情報をリレーし地図上のグリースペンで位置を把握する防空指揮所と、レーダーサイトからの彼我の位置で修正し向かうという、迎撃も侵入も亜音速時代を念頭とした運用が採られた時代です。

 P-2V対潜哨戒機、当時海上自衛隊が運用していたアメリカ海軍より供与されたばかりの極めて高性能な航空機がありましたが、護衛艦わかば艦載のレーダーリレー機能はこのP-2V対潜哨戒機のレーダー画面を伝送し、艦上コンピュータによる情報処理を行う事も出来ましたが、その割には様々な部隊を転々とさせ、航空中枢艦としての運用を行っていません。

 草創期の将来護衛艦展望として、この護衛艦わかば航空管制能力と重なる用途のものがあった事を思い出します。本特集では既に紹介しましたが、数機程度のヘリコプターを搭載し集中運用可能である水上戦闘艦を中心に潜水艦を追跡する護衛艦数隻を併せて指揮統制し同時にヘリコプターも管制する旗艦、という構想と、一部重なる事が思い出されます。

 わかば、将来の空母導入への第k簿航空運用基盤構築への実験艦だったのではないか。1960年代、23000t型対潜空母構想、空母艦載機改良型G.98J-11戦闘機F-X一時内定、という見方によれば航空自衛隊が主力戦闘機として配備するG.98J-11戦闘機を艦載運用する事が可能な固定翼機運用能力を持つ対潜空母の構想、更に23000t型対潜空母構想と同時期に艦載哨戒機S-2が実際に導入され空母プリンストン艦上教育、出来事が重なりました。

 護衛艦わかば、は卓越した航空機洋上管制能力を持ちながら結局その能力を演習などで実証する事は無く終わっています。しかし、これは後続する23000t型対潜空母構想やG.98J-11導入の撤回と空母艦載機転用不可能なF-104戦闘機採用等、施策が実現しなかったため、単体としての運用研究の必要性が解消した為ではないか、とも考えてしまいます。

 ここに護衛艦わかば航空管制能力、というものを重ねますと、護衛艦わかば艦上での大規模な航空部隊洋上運用の研究を実施した上で、23000t型対潜空母構想を建造、G.98J-11戦闘機の運用を含めた、いわば、戦後日本の空母建造計画を様々な部分から進めようとした可能性は皆無とは言い切れません。無論これは相当無理がある論理ではあるのですが、ね。

北大路機関:はるな くらま
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