北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【日曜特集】横須賀地方隊伊勢湾展示訓練2010【1】艨艟伊勢湾へ出港(2010-08-21)

2017-07-30 20:15:13 | 海上自衛隊 催事
■伊勢湾展示訓練2010
 日曜特集、新しい特集に海上自衛隊横須賀地方隊伊勢湾展示訓練2010の様子を今回から紹介します、実任務増大により昨年度と今年度、こうした展示訓練は行われていません。

 海上自衛隊伊勢湾展示訓練、横須賀地方隊が主催する海上自衛隊展示訓練として伊勢湾を舞台に2010年8月21日に実施されました。舞鶴展示訓練2011、大阪湾展示訓練2011、観艦式2012、舞鶴展示訓練2013、舞鶴展示訓練2014、自衛隊観艦式2015等と続く。

 伊勢湾展示訓練2010、護衛艦4隻、潜水艦1隻、掃海母艦1隻、掃海艦1隻、掃海艇2隻、輸送艇1隻、試験艦1隻、多用途支援艦1隻、以上艦艇13隻と、救難飛行艇1機、哨戒ヘリコプター2機、救難ヘリコプター1機、多用途ヘリコプター1機の計5機が参加しました。

 ヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが、ヘリコプター搭載護衛艦しらね、ミサイル護衛艦こんごう、堂々たる艦艇が参加するこの訓練へ当方は縁あって、多用途支援艦えんしゅう艦上からこの演習、えんしゅうからえんしゅう、もとい展示訓練へ立ち会う事となりました。

 地方隊展示訓練は、横須賀地方隊や呉地方隊に佐世保地方隊と舞鶴地方隊に大湊地方隊と、海上自衛隊が全国に配置する5地方隊の広報行事となっています。これは観閲式と訓練展示を以て海上自衛隊の能力と訓練体制へ、国民と自衛隊の間を結ぶ体験航海でもあります。

 海上自衛隊は非常に忙しくなっていまして、2010年の頃は本当に平和でもありました、何よりもあの東日本大震災が後八か月を経て発生するなど、夢にも思いません。そして現在海上自衛隊は南西諸島警備に創設以来最大規模の哨戒体制を鋭意継続中となっています。

 東日本大震災は2011年3月11日に発災しました、横須賀地方隊は横須賀地方総監部へ東日本大震災対処統合任務海上部隊司令部が置かれ、太平洋岸の全ての災害対処任務を引き受けましたが、その八か月前、この訓練に当たった艦艇は全て災害派遣へ参加しています。

 南西諸島警備と中国からの軍事圧力増大を前に、海上自衛隊は創設以来の規模での艦艇任務を継続中ですが、この為、艦艇の運用がほぼ限界となっています。併せてソマリア沖海賊対処任務、ミサイル防衛任務と任務が増大し、広報展示実施が難しくなってきています。

 海上幕僚長は2016年に各地方隊へ、部隊を休ませよ、としまして実任務の増大を前に広報任務を止むを得ず低減させざるを得ない状況となってしまいまして、2016年には展示訓練はとうとう実施されていません。停泊式観閲式でも実施してくれれば、と思ったのですが。

 体験航海への関心は非常に高まっています、実際、海上自衛隊展示訓練へは全国の地方隊で行われますが、抽選制となりハガキ応募により乗艦券が交付される一方、物凄い競争倍率となって自衛隊を知ろうにも乗艦できない程でして、この傾向は年々高まっています。

 任務優先ではありますが、広報行事は軍事機構にとり平時の実戦と云われる通り、リクルートとして有能な人材を自衛隊へ招く重要な機会となっていまして、実際、体験航海を機会として自衛官の道を志したというお話はよく聞くところです、そして募集難となります。

 募集難、新聞記者の方と雑談するたびに安全保障関連法制での実戦の可能性が増えたことと関係はあるのか、という話題を振られますが、海上自衛隊の場合は、安全保障関連法制により紛争地で艦隊決戦を行う可能性が増えたのか、と考えれば、それは有り得ません。

 バブル崩壊後の就職難時代には自衛官志願者が激増し、バブル期には志願者が減った、という話はよくなされますので、それだけ人不足が深刻となっている点が隊員募集難への影響となっているのでしょう。また、実任務増大へ人員不足が大きく、勤務環境悪化もある。

 出港すれば入港まで禁酒となりますし、月月火水木金金、と旧海軍ではありませんが寝床が職場という厳しい勤務環境です、航海手当は出ますが時給換算し肩を落とす乗員を基地の街の酒場で視た事も、任務が増えているのです、艦艇を増やし激務緩和が肝要でしょう。

 さて、北大路機関では伊勢湾展示訓練2010の写真について、詳報掲載を開始した当時にOCNブログサービス終了の発表がありGOOブログへの転換という一大事業に忙殺されたことで掲載が中断していましたが、この度日曜特集として連載を再編する事となりました。

 護衛艦の出港、ラッパの音が響き非常に勇壮です。今回乗艦のお誘いをいただきましたのは、多用途支援艦なのですが、ラッパが響き出港用意の号令が響きわたるところは一緒です。伊勢湾展示訓練には多数の艦艇が停泊していますが、予定通り次々と出港してゆく。

 しかし、ラッパの音は象徴的なものであるだけで、最も重要なのはこの瞬間に艦艇が”停泊”から”航海”へと移行する瞬間だ、ということです。この瞬間、水上戦闘艦である護衛艦は、今回乗艦しているのは多用途支援艦ですが、自衛艦は商船と少々勝手が違う。

 自衛艦、民間フェリーのような出港への支援装置よりは速力などを優先しているため、曳船等の支援を受けて出港します、そして岸壁係留を取り外す作業と曳船の指揮を同時並行して行わなければなりません。その上、フェリーが船団をくむことはなかなかありません。

 一方の護衛艦はじめ自衛艦は訓練などへ艦隊を組み行動することも多く、伊勢湾展示訓練などはその典型です。出港時間はこのために厳格に明示されていますので、そのために出港時間へ出港するために時間をどのように配分し準備するのかという命題があります。

 曳船に係留索との指揮は艦長が全責任を負って実施しますが、そのために、前部指揮官と中央部指揮官に後部指揮官が艦長の意思を補佐し代行します、前部中部後部指揮官は出港前に艦橋へ集まり、岸壁を離れた後の航行や地形と船舶往来に関する情報の調整を行う。

 各指揮官調整では、係留索をはずす順番はどうするのか、港内のほかの船舶や艦艇の航行はどのように見積もられているのか、副長の砲雷長か船務長、DDHでは飛行長がこの指示を艦長のまえで各指揮官へ行います。これらは見学者乗艦までに完了し、出港へ備える。

 調整では留意事項として普段と異なる状況、展示訓練では見学者、実任務や大規模訓練等場合によっては実習員や難民と他部隊の要員など出港作業への留意事項など、これは副長と艦長が同じ認識を共有していることを艦長が確認するという意味合いもあるとのこと。

 こうして確認は各指揮官が改めて状況認識の概略を共有することとなりますので、例えば調整と違う動きなどがありましたらば、何か異常事態が起きつつある、と各指揮官が即認識できるわけです、各指揮官はハンドトーキー型無線機により情報連絡を密にしています。

 出港へ、異常の兆候が異常へ顕在化する前に対処行動をとって回避できるわけですね。ここの様子が海の男、という印象です。船が大きければうける風も大きい、強風で船が押されているという事は当然事故に繋がり、波浪も船体の大きな艦艇では相応に影響が大きい。

 タンカーやフェリーの行会船と突然遭遇することも漁船やヨットが近寄って接触しそうになることも、実際多い。実際、護衛艦などはしっかりと見張りをしているのですが、前を見て操船しているのかわからない漁船などは見学している一般の視点からも少なくはないのです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする