■海上戦闘の主軸は護衛艦
前回はヘリコプターの行動半径がミサイルの射程延伸へ対応できていない現状を紹介しましたが、もう一つヘリコプターの運用限界の視点があります。

現代の海戦はミサイルの射程が延々と延伸されていますが、艦隊戦闘が航空機の誕生により三次元で展開するようになった第二次大戦のミッドウェー海戦から今日に至るまで、敵艦隊の位置が判別できねば闇雲にミサイルを発射したとして命中しません。射程500kmの対艦ミサイルも索敵できなければマストが見渡す20km以遠は照準さえ出来ないのです。

広域防空艦の普及、これが前回末尾に記したセンサーノード機としてのヘリコプターに課題です。広域防空艦とはミサイル艦、海上自衛隊のターターシステム艦やイージス艦のような長射程の対空ミサイルを搭載する水上戦闘艦です。中国海軍が特にこの分野で顕著で、射程120kmのHQ-9対空ミサイルを昆明級駆逐艦12隻、蘭州級駆逐艦6隻に搭載しています。

防空巡洋艦というべき大型の055型駆逐艦が続いて少なくとも4隻が建造中で、こちらは満載排水量が13200tと海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型の19000tよりは大きくないものの、水上戦闘艦としては非常に大型です。広域防空艦へヘリコプターが対艦ミサイルの索敵任務で接近する事は非常に難しく、生き残るにはステルス性が必要だ。

むらさめ型、たかなみ型、といった護衛艦に搭載されるSH-60J/K哨戒ヘリコプターは将来においても対潜能力において卓越した能力を維持する見通しですが、前述のセンサーノード機任務については、敵対する広域防空艦のミサイル脅威下では生き残る事が出来ません。するとミサイル脅威下で生存できるステルス性か、数百km以遠を索敵する能力が要る。

F-35Bはこの重要な選択肢となり得ます。F-35Bを垂直離着陸可能なステルス戦闘機、と考えるならばそれはノートパソコンをワープロとしか使わない程に用途が限定されている。F-35BはAPG-81レーダーや光学情報のみで広範囲を索敵するEO-DASシステムを有し、F-35間は秘匿性の高いMADLネットワークにて広範囲情報を常続的に共有できます。

新しい八八艦隊、しかし水上戦闘の主力は汎用護衛艦で、防空戦闘の中心はイージス艦です。その上で、護衛艦へ搭載される各種装備の長射程化は従来からの索敵や誘導手段にも世代交代を必要とさせるものであり、最大性能を発揮出来ない状態を放置する事は逆に税金の無駄と云わざるを得ません。しかしF-35Bを加える事でこの問題は解消されるのです。

ヘリコプター搭載護衛艦増勢、勿論いずも型ほど大型の物でなくとも、ひゅうが型と同程度の船体であっても必要な能力は数機程度のF-35Bをセンサーノード機として展開させ護衛艦の各種ミサイルの能力を活かす事が目的、アメリカ海軍の様な空母航空団による航空打撃戦を展開する訳ではない故に充分です。建造費を抑え必要な数を揃える優先度の方が高い。

現在の護衛隊群はヘリコプター搭載護衛艦を中心とする護衛隊とイージス艦を中心とする護衛隊という編成です。ヘリコプター搭載護衛艦と汎用護衛艦に汎用護衛艦とミサイル護衛艦という護衛隊が一つ。イージス艦と汎用護衛艦に汎用護衛艦と汎用護衛艦という編成の護衛隊が一つ。ヘリコプター搭載護衛艦にF-35Bが数機配置されればきわめて強力です。

新しい八八艦隊構想では、護衛隊群を構成する全ての護衛隊へヘリコプター搭載護衛艦を配備するという提案です。言い換えれば、海上自衛隊が現在運用する対艦ミサイルの後継として、アメリカ海軍が採用するLRASMとVL-JSMの何れかと同型、もしくは同等の射程を有する対艦ミサイルを護衛艦へ搭載する事は、将来水上戦闘を行う上で必須でしょう。

ひゅうが型護衛艦などヘリコプター搭載護衛艦から発進したF-35Bはステルス性能を活かし、敵広域防空艦からの探知を回避、一方で搭載するAPG-81レーダーの脅威電波標定能力により広域防空艦のおおまかな方向を自らは電波を出すことなく標定、EO-DAS分散型複合光学情報装置により正確な敵水上戦闘艦部隊の情報をやはり電波を出さず察知されず収集します。

F-35Bの能力はMADLネットワークにより敵に把握されないまま、この目標情報をF-35B間で共有できる事で別のF-35Bへ共有すると共に母艦へ情報伝送中継を行う事が出来る点です。情報を受けたヘリコプター搭載護衛艦は護衛隊を構成する護衛艦4隻とリンク16データリンクにより目標情報を共有、各艦からLRASMが一斉発射され敵艦隊を無力化する。

2020年代の海上自衛隊護衛隊の戦闘は概ねこうした展開となるでしょう。もちろん、F-35Bの索敵能力は敵水上戦闘部隊にとっても最大の脅威ですから、陸上基地や航空母艦からの戦闘機により我が方のF-35B無力化を図る事も考えられます。しかしF-35Bは哨戒機ではなく第五世代戦闘機である為、AMRAAM空対空ミサイルにより対抗する事も可能です。

LRASMとVL-JSMという長射程の対艦ミサイルを搭載した際、汎用護衛艦の対艦ミサイルへセンサーノード機としてSH-60Kとその改良型を用いる護衛隊と、F-35Bを運用可能である、ひゅうが型、いずも型の全通飛行甲板型護衛艦を有する護衛隊とでは対艦ミサイル戦闘を主体的に展開する能力に非常な格差が生じます、前者は最大射程では撃てない。

むらさめ型、たかなみ型、あきづき型、あさひ型、勿論上記条件は水上戦闘に限ったものです。ですから、F-35Bを欠いた場合に無力化と問われれば、P-1哨戒機の支援を受けられる海域では話は別ですし、そもそも水上戦闘以外の平時における警戒任務や人道支援任務と海賊対処任務に災害派遣任務には、ここまでの極限の能力を要求される事はありません。

しかし、我が国周辺情勢を考えた場合、本格的な対水上戦闘が防衛出動において想定するならば、対艦ミサイル戦闘を展開する際、最大限の離隔距離を以て臨まなければ非常に困難な結果が我が国シーレーンへ及ぶ事もまた現実です。一方、従来の護衛艦よりも必要な乗員は多いヘリコプタ搭載護衛艦ですが、建造費はイージス艦よりも安価に建造できます。

海上自衛隊自身も防空を第一に航空母艦を必要としているわけではないでしょう。航空母艦と云えば艦隊防空、という考えはイージス艦の配備と共に大きく転換しました。これは海上自衛隊だけではなくアメリカ海軍にも当てはまり、射程165kmのフェニックス空対空ミサイルを6目標に同時発射できた世界最高の艦隊防空戦闘機F-14トムキャットが良い例でしょう。

アメリカ海軍ではイージス艦の大量建造と共に艦隊防空任務はF-14戦闘機からイージス艦へ移管、まだまだ耐用年数を伸ばし得たF-14は引退しました。海上自衛隊も戦闘機が必要と考えるならば、先に陸上基地から運用する戦闘機部隊を養成し、その防空掩護下で艦隊を運用すればよい、少なくとも20世紀一杯、護衛艦隊はそれほど本土から遠くへ行く想定ではありませんでした。

ドイツ海軍は冷戦時代にトーネード攻撃機を運用し対艦戦闘に充てていました、トーネード攻撃機も一定の空対空戦闘能力があり、限られたドイツ海軍水上戦闘艦部隊の上空掩護も可能です。海上自衛隊も過去に高速対潜機としてF-4ファントムの検討を行っていますが、実現させていません。逆に言えば艦隊防空戦闘機の需要はこの程度だったといえます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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前回はヘリコプターの行動半径がミサイルの射程延伸へ対応できていない現状を紹介しましたが、もう一つヘリコプターの運用限界の視点があります。

現代の海戦はミサイルの射程が延々と延伸されていますが、艦隊戦闘が航空機の誕生により三次元で展開するようになった第二次大戦のミッドウェー海戦から今日に至るまで、敵艦隊の位置が判別できねば闇雲にミサイルを発射したとして命中しません。射程500kmの対艦ミサイルも索敵できなければマストが見渡す20km以遠は照準さえ出来ないのです。

広域防空艦の普及、これが前回末尾に記したセンサーノード機としてのヘリコプターに課題です。広域防空艦とはミサイル艦、海上自衛隊のターターシステム艦やイージス艦のような長射程の対空ミサイルを搭載する水上戦闘艦です。中国海軍が特にこの分野で顕著で、射程120kmのHQ-9対空ミサイルを昆明級駆逐艦12隻、蘭州級駆逐艦6隻に搭載しています。

防空巡洋艦というべき大型の055型駆逐艦が続いて少なくとも4隻が建造中で、こちらは満載排水量が13200tと海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦ひゅうが型の19000tよりは大きくないものの、水上戦闘艦としては非常に大型です。広域防空艦へヘリコプターが対艦ミサイルの索敵任務で接近する事は非常に難しく、生き残るにはステルス性が必要だ。

むらさめ型、たかなみ型、といった護衛艦に搭載されるSH-60J/K哨戒ヘリコプターは将来においても対潜能力において卓越した能力を維持する見通しですが、前述のセンサーノード機任務については、敵対する広域防空艦のミサイル脅威下では生き残る事が出来ません。するとミサイル脅威下で生存できるステルス性か、数百km以遠を索敵する能力が要る。

F-35Bはこの重要な選択肢となり得ます。F-35Bを垂直離着陸可能なステルス戦闘機、と考えるならばそれはノートパソコンをワープロとしか使わない程に用途が限定されている。F-35BはAPG-81レーダーや光学情報のみで広範囲を索敵するEO-DASシステムを有し、F-35間は秘匿性の高いMADLネットワークにて広範囲情報を常続的に共有できます。

新しい八八艦隊、しかし水上戦闘の主力は汎用護衛艦で、防空戦闘の中心はイージス艦です。その上で、護衛艦へ搭載される各種装備の長射程化は従来からの索敵や誘導手段にも世代交代を必要とさせるものであり、最大性能を発揮出来ない状態を放置する事は逆に税金の無駄と云わざるを得ません。しかしF-35Bを加える事でこの問題は解消されるのです。

ヘリコプター搭載護衛艦増勢、勿論いずも型ほど大型の物でなくとも、ひゅうが型と同程度の船体であっても必要な能力は数機程度のF-35Bをセンサーノード機として展開させ護衛艦の各種ミサイルの能力を活かす事が目的、アメリカ海軍の様な空母航空団による航空打撃戦を展開する訳ではない故に充分です。建造費を抑え必要な数を揃える優先度の方が高い。

現在の護衛隊群はヘリコプター搭載護衛艦を中心とする護衛隊とイージス艦を中心とする護衛隊という編成です。ヘリコプター搭載護衛艦と汎用護衛艦に汎用護衛艦とミサイル護衛艦という護衛隊が一つ。イージス艦と汎用護衛艦に汎用護衛艦と汎用護衛艦という編成の護衛隊が一つ。ヘリコプター搭載護衛艦にF-35Bが数機配置されればきわめて強力です。

新しい八八艦隊構想では、護衛隊群を構成する全ての護衛隊へヘリコプター搭載護衛艦を配備するという提案です。言い換えれば、海上自衛隊が現在運用する対艦ミサイルの後継として、アメリカ海軍が採用するLRASMとVL-JSMの何れかと同型、もしくは同等の射程を有する対艦ミサイルを護衛艦へ搭載する事は、将来水上戦闘を行う上で必須でしょう。

ひゅうが型護衛艦などヘリコプター搭載護衛艦から発進したF-35Bはステルス性能を活かし、敵広域防空艦からの探知を回避、一方で搭載するAPG-81レーダーの脅威電波標定能力により広域防空艦のおおまかな方向を自らは電波を出すことなく標定、EO-DAS分散型複合光学情報装置により正確な敵水上戦闘艦部隊の情報をやはり電波を出さず察知されず収集します。

F-35Bの能力はMADLネットワークにより敵に把握されないまま、この目標情報をF-35B間で共有できる事で別のF-35Bへ共有すると共に母艦へ情報伝送中継を行う事が出来る点です。情報を受けたヘリコプター搭載護衛艦は護衛隊を構成する護衛艦4隻とリンク16データリンクにより目標情報を共有、各艦からLRASMが一斉発射され敵艦隊を無力化する。

2020年代の海上自衛隊護衛隊の戦闘は概ねこうした展開となるでしょう。もちろん、F-35Bの索敵能力は敵水上戦闘部隊にとっても最大の脅威ですから、陸上基地や航空母艦からの戦闘機により我が方のF-35B無力化を図る事も考えられます。しかしF-35Bは哨戒機ではなく第五世代戦闘機である為、AMRAAM空対空ミサイルにより対抗する事も可能です。

LRASMとVL-JSMという長射程の対艦ミサイルを搭載した際、汎用護衛艦の対艦ミサイルへセンサーノード機としてSH-60Kとその改良型を用いる護衛隊と、F-35Bを運用可能である、ひゅうが型、いずも型の全通飛行甲板型護衛艦を有する護衛隊とでは対艦ミサイル戦闘を主体的に展開する能力に非常な格差が生じます、前者は最大射程では撃てない。

むらさめ型、たかなみ型、あきづき型、あさひ型、勿論上記条件は水上戦闘に限ったものです。ですから、F-35Bを欠いた場合に無力化と問われれば、P-1哨戒機の支援を受けられる海域では話は別ですし、そもそも水上戦闘以外の平時における警戒任務や人道支援任務と海賊対処任務に災害派遣任務には、ここまでの極限の能力を要求される事はありません。

しかし、我が国周辺情勢を考えた場合、本格的な対水上戦闘が防衛出動において想定するならば、対艦ミサイル戦闘を展開する際、最大限の離隔距離を以て臨まなければ非常に困難な結果が我が国シーレーンへ及ぶ事もまた現実です。一方、従来の護衛艦よりも必要な乗員は多いヘリコプタ搭載護衛艦ですが、建造費はイージス艦よりも安価に建造できます。

海上自衛隊自身も防空を第一に航空母艦を必要としているわけではないでしょう。航空母艦と云えば艦隊防空、という考えはイージス艦の配備と共に大きく転換しました。これは海上自衛隊だけではなくアメリカ海軍にも当てはまり、射程165kmのフェニックス空対空ミサイルを6目標に同時発射できた世界最高の艦隊防空戦闘機F-14トムキャットが良い例でしょう。

アメリカ海軍ではイージス艦の大量建造と共に艦隊防空任務はF-14戦闘機からイージス艦へ移管、まだまだ耐用年数を伸ばし得たF-14は引退しました。海上自衛隊も戦闘機が必要と考えるならば、先に陸上基地から運用する戦闘機部隊を養成し、その防空掩護下で艦隊を運用すればよい、少なくとも20世紀一杯、護衛艦隊はそれほど本土から遠くへ行く想定ではありませんでした。

ドイツ海軍は冷戦時代にトーネード攻撃機を運用し対艦戦闘に充てていました、トーネード攻撃機も一定の空対空戦闘能力があり、限られたドイツ海軍水上戦闘艦部隊の上空掩護も可能です。海上自衛隊も過去に高速対潜機としてF-4ファントムの検討を行っていますが、実現させていません。逆に言えば艦隊防空戦闘機の需要はこの程度だったといえます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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